20時。天気予報はおおよそ当たり。
会社から走り、最寄りの屋根付きのバス停に着くと、2人はやや濡れた鞄をハンカチで拭く。
江雪は鞄を拭いている時、底の方に折り畳み傘があるのを見た。いつの日か、コンビニで間に合わせ程度に買った真っ黒い、無骨な傘。いつまで持つかと思っていたが意外と丈夫で、もう何年も使っているのだ。
「傘……」
ありました、と口を開きかけて、江雪は審神者の方を見た。
審神者はハンカチで顔をポンポンと拭きながら、雨足の強くなり始めた道路を見る。青白い夜の光が、彼女の横顔、首元、そして、ぼんやりと透けるようなブラウスを、照らす。
「……湿気、すごいですね」
光る第二ボタンまで視線を滑らせていた己に気づき、江雪は目を逸らした。
審神者の髪はなかなか言うことを聞かない。ちょろちょろとした黒髪が、彼女の頬の輪郭を模るようにして、うねって離れない。
江雪はそれを見た。彼のまっすぐな髪は湿気知らず。ストンと引力に対して素直に落ちる。
「……生きている」
強くなる雨足に紛れた彼の呟きが聞こえなかったのか、審神者が振り返る。
頬に、ひやりとし、細くて白い、男の指。
「髪が、絡まっておりますよ」
審神者は、目を見開いた。
コンクリートは歪む鏡のように、赤信号の明かりをまだらに映す。折り畳み傘は、鞄の底で横になっていた。
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