「あんた、それ飽きないのか」
「飽きませんてば。コレ食べるために1週間生き延びてますから」
審神者はふた皿目のドリアの、こんがりとしたチーズの蓋にスプーンを入れていた。割れ目から湯気がふわっと湧く。
いつ見ても初めて食べるみたいに目をキラキラさせる審神者を見て、鬼丸は少し呆れたように息を吐く。
「……何飲む」
「あ、じゃ、白ブドウジュース」
「……よく飽きんな」
「な、そんな、悪いですか」
小言を言いながらドリアを混ぜる審神者をよそに、鬼丸は二つのコップを持ち、ドリンクバーへ向かう。
……あんなこと言ってみたが、俺もたまには烏龍茶以外のものを飲んでみるか、と気紛れを起こした鬼丸は、二つのコップに白ブドウジュースを入れる。
席に戻ると、審神者はちゃっかりドリアを混ぜ切って、鬼丸を待っていたようだ。
「……食べていていいのに」
「だってジュース取り行ってくれてますから」
鬼丸は両手に持っていたコップを差し出そうとして、やめた。
はて、どちらが、こいつのコップだ?確か、右手で持ったような……。
「……ほら」
「ありがとうございます」
うろ覚えのまま差し出した、白ブドウジュースの入った右手のコップを審神者は受け取る。そしてそのままくっと飲み干す。喉乾いてたんだな、こいつ。
「……もう一杯ほしい」
「おれは小間使いか」
「んなことないですって。お礼にドリア一口、いいや、半分あげますから!」
「腹一杯になっただけだろ。まあいい」
寄越せ、と審神者から一瞬で空になったコップを受け取る。
やはり白ブドウジュース。鬼丸は、審神者から受け取ったコップの淵に、うっすらと口紅がついているのをみた。
化粧っ気のないやつだが、などと思いながら、そのコップを再びジュースで満たす。
審神者はドリアに手をつけ始めていた。遠目からでも美味しそうに目を瞑っているのがわかり、ふん、と口元が緩む。
「ほら、お姫さん。小間使いが来たぞ」
「ありがとうございますわよ、ごめん遊ばせ。おほほ」
「あんたの姫の認識はどうなっているんだ」
そう言って鬼丸は審神者のテーブル越しのソファに座る。彼が頼んでいた栗のパフェが届いていた。
「パフェ、可愛かったんで勝手に写真撮っちゃいました。ほら」
スマホを見せてくる審神者。
「ふうん。低画質だな」
「そういうフィルターです〜レトロなんです〜」
「れとろ、ね」
鬼丸はパフェに口をつける前に、さっき注いだ自分用の白ブドウジュースが入ったコップを持つ。飲む直前、淵に、薄く、くすんだピンクの跡がある。
審神者の方をチラとみる。彼女は普通に、ジュースを飲んでいた。そこにも、くすんだピンク。
「このドリアと白ブドウ、なんか相性いいんですよ」
審神者は口の端についたドリアのミートソースをナプキンで拭きながらにっこりと笑う。その笑顔は、屈託がなくて。でも、その唇には、紅をさしていて。
「……意味が、わからんな」
こどもなのか、大人なのか、はたまたトンチキお姫さんなのか。
鬼丸は、白ブドウジュースを、グッと一息で飲んだ。
「いい飲みっぷり」
審神者は笑う。こいつ、おれの何も知らないで、いつも、訳のわからんことを言い、にこにこと。
「……苦いのが飲みたくなった」
鬼丸は、おもむろにソファを立ち上がった。いとも自然に。紅と、自分の口がついたコップを持って、またドリンクバーに行く。
手の中のコップ。その結露が、冷や汗みたいに彼の手首を伝っていった。
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