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畦道の端っこ。蔦がしがみつく小屋。
顕現して1週間ほどの鬼丸国綱は、審神者との万屋帰りの途中に、夕立に遭った。
まだ距離の掴みきれてない2人にとって、小さな古い小屋ですぐに止む気配のない雨を待つ、というのは少し気まずかった。
トタンの屋根に打ち付ける雨粒の音に混ざってしまいそうな声で、審神者は言う。
「止みますかね、雨」
鬼丸は空を見上げる。強くなる雨足。
「どうだろうな。あまり期待はできん」
参った、と言うように小屋の外を見つめる彼。視界は最悪。水たまりが砂利の窪みに、小さい池のように広がっていく。
「ぬかるんでいる道は、好きじゃない」
「服が汚れるからですか」
「それもあるが……何より、歩きにくい」
小屋の隅には、家主のいなくなった白い渦巻の殻が、遺骨のように積み上がる。
審神者は小屋の壁に、カタツムリが2匹、這っているのを見て緊張するように少し目を細めた。
「カタツムリ、苦手なんですよ私」
「じゃあ、なんで見るんだ」
「苦手だから、です。人の破片がひとりでに動いているみたいだから。でも、ずっと見てたら慣れるかなと思って」
理に適っていそうで適っていないような審神者の理論に、鬼丸はただ一言、「そうか」とだけ答えた。ただの怖いもの見たさだろう。
そして彼は、やはりカタツムリにも全く興味なさそうに、強くなる雨足ばかりを見つめている。
「……それにしても、妙なところで足止めを喰らったな」
あと数百メートルもすれば本丸に着く距離。そちらの方角を見ながら鬼丸は言う。
「一休みしろってことです。きっと」
「あんたは……前向きなんだか後ろ向きなんだか、わからんな」
「……その時々で向いてる方が、前なんです」
「……なるほどな」
2匹のカタツムリがうねりあう。細い器官が、ヒュッと相手のカタツムリに刺さる。
「その時向いている方が、前、か」
「……ええ」
「なら、行くしかないだろ」
鬼丸は腰に巻いたジャケットを取り、傘のように自信頭の上に被せる。湿気を吸った藤色の裏地が艶めいていた。
それに倣い、審神者も自らのジャケットを裏地を表側に、頭に被せる。2人とも万屋で買ったものを包んだ風呂敷を抱える。
「荷物が多いが、走れるか」
「なんとか。私すごい鈍足ですけど」
「……カタツムリほどじゃなければ、いい」
審神者は鬼丸の横顔を見る。今のは彼なりの冗談なのか?鬼丸はジャケットの影から少し目を出して、審神者の方を見る。表情は分からないが。
審神者は、ぽつり、という。
「初めて、カタツムリが好きって思いました」
「……ふん」
地面を叩きつけるような雨音のなかで、鬼丸の鼻を鳴らすような笑いは、どこか満足気で。
じゃり、と地面を踏みしめる。
「……全力で走れよ」
2人は、雨の中駆け出した。
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