一歩千金
主人公設定
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「痛…ッ、」
微かに硫黄が香り立つ熱水泉に身体を沈めた十六夜は二の腕や背筋に走った痛みに表情を歪ませる。
先日角都から受けた命により十六夜は角都と別れ、単身で賞金首狩りに赴いていたのだった。つい先程換金所にて無事に換金も終え、角都との待ち合わせ場所にやって来た十六夜は近くの熱水泉に赴き泥と血で汚れた身体を清めていた。
「うわ…結構パックリいってる…」
じくじくと痛む二の腕に視線を移せば、適当に手拭いを引き裂いて巻き付けておいた患部から血が滲み、腕を伝い湯を薄らと赤く染め上げていた。
取り敢えず身体を清めてしまってから傷の手当をしようと今一度湯に身体を沈めようとしたその時、突然その場に姿を表した角都によって傷を負った腕を掴まれたのだった。
「…かッ⁉︎」
「お前はバカか、傷の手当てくらいしろ」
「ッ⁉︎⁉︎」
「…何だ」
「きゃああああああーーーッ‼︎」
「ッーーー!」
バッシャーンと、まるで水遁の術を敵に向かって打ち噛ましたかの様な水音が辺り一体に響き渡った。木々で羽を休めていた鳥達が一斉に羽ばたき、森の奥へと逃げて行く。
頬を染めて掌で顔を覆った十六夜、頭から湯を浴びせられてぽたりぽたりと頭巾から雫を滴り落とす角都は眉間に深く皺を刻み込み、ゴキリと指を鳴らした。
「十六夜…余程今直ぐオレに殺されたい様だな…!」
「ち、ちがッちがいますッ!はッ、はだッはだかッ…!」
「…その貧相な物を見られたくないのなら顔じゃ無くそっちを隠せ。そもそも餓鬼に手を出す程女に困っちゃいない…それよりも手間を掛けさせるな、腕の傷を出せ。見られたくないのなら後ろでも向いていろ」
「は、はい…ッ!」
十六夜の手によって濡れ鼠にされた角都は頭巾と外套を脱ぎ捨てると、己に背を向けた十六夜の腕を取った。止血の役目すら果たしていない手拭いを取り去るとパックリと肉が切られた傷口に小さく舌を打つ。
「見た目よりも傷が深い…神経に傷が付いていない分まだ良いが、」
「傷の大きさに比べて痛みが無かったので、そこまで大事にする必要は無いかと…」
「お前はオレの後を付いて回る前にもう少し自分の事に頓着しろ…傷口を縫う、痛みに慣れるまで何か布でも噛んでいろ。歯を食い縛ると奥歯が折れるぞ」
「は、はい…申し訳、ありません…」
角都はそう言うと腕の繋ぎ目から自身の能力である地怨虞を伸ばし十六夜の患部に当てがった。十六夜は置いていた荷物から手拭いを取り出すと、それを適当に小さく畳み、口に咥えると角都に視線を移し恐る恐る頷いた。
ぷつりと地怨虞を突き立てた皮膚から球の様な血が転がり落ちる。十六夜はぶるりと身体を震わせ、小さく声を上げる。
「…傷以外に気を遣れ」
「ん、ふぅ…ッ!」
気を逸らせろと言われても唯でさえ痛む傷口に加えて、更に痛みが増えたのである。医療用の細い縫合糸程度であれば麻酔など無くても痛みに耐えられたが、角都の能力は別である。必死に痛みに耐えようとするものの、十六夜の瞳からは真珠の様な涙がポロリと溢れた。
角都は少しの逡巡の後、十六夜の腰に腕を回し十六夜の身体を湯の中から引き上げると、岩に腰掛けていた己の膝の上に座らせた。十六夜が驚いた様に角都に視線を移そうとすると、角都はそれよりも早く十六夜の背の傷に舌を這わせたのだった。
「ひッ…!」
「…綺麗な物だな、お前の身体は。余り…無駄に傷を負うな」
「か、くず、さま…ッ!」
腰に回された腕に篭る力に十六夜は一層頬を赤く染め上げた。羞恥だけでは無い感情に、先程口元から落ちた手拭いをギュッと握り締めた。ぴちゃぴちゃと水音が十六夜の鼓膜を犯し、背に這うぬるりとした感触が十六夜の気を昂らせる。
ーーーそうして角都が傷の縫合を終え、能力を収めた頃には十六夜は力無く角都の腕の中に抱き留められていた。
「おい、」
一言。その一言の後、十六夜の身体は角都の手によって再び湯の中へと放り込まれた…否、投げ込まれた。激しい水音の後、湯の中から顔を出した十六夜はげほげほと咳き込み口の中に入った湯を吐き出す。
「か、角都様…」
「誰ぞのお陰でオレも全身濡れ鼠だ…お前は岩陰にでも隠れて入れ」
そう言って帯に手を掛けた角都に十六夜は慌てて視線を逸らすと直ぐ近くの岩陰に身を潜める。暫くしてパサパサと言う布擦れの音が響いた後、湯に身を沈めた角都に手当ての礼を述べたのだった。
「…ありがとうございました、角都様」
「…魔氷鏡は使ったか」
「はい。掛けられた賞金とは分不相応の者でしたので…ただ少々厄介な秘伝忍術を使役しておりまして、結果として角都様のお手を煩わせる事になり申し訳ございませんでした…」
「まぁ良い…二度は同じ轍を踏むなよ」
十六夜が素直に己の不得を口にすれば角都はそれ以上咎める事も無く、十六夜はほっと息を吐いた。
「はい…あの、角都様。差し出がましい進言であるとは承知しておりますが…宜しければ、玉手の胡粉を私に塗り直させて頂けませんか?」
ちゃぷりと湯を掻き分けて角都の方へ身体を向けた十六夜は、先程角都の腕に抱かれた際に目にした角都の指先にそっと触れる。胡粉で彩られている指先だが、所々の色が剥げて爪の表面が見えてしまっていた。
「…ああ、剥がれて来たか。験担ぎか知らんが、面倒な事この上無い…これの手入れはお前に任せる」
「ッ!承知致しました!では、湯から上がりましたら早速致しましょう!」
「…後で良い、先ずは休ませろ。久方振りの入湯だ」
「…はい、」
十六夜は再び角都に背を向けると先程角都に縫合された傷跡を愛おしそうに触れる。
その様子を横目で見つめていた角都は僅かに口端を持ち上げたのだった。
(「化粧とは本来魔を除ける呪術としての意味があるそうですね」)
(「そう言い伝えられているな」)
(「どうか、角都様の玉手を御守り出来ますよう…」)
(「化粧一つで魔を祓えるのであれば、精々お前もこれで染めておくんだな」)
(「…!お揃いですね!」)
(「…勝手にしろ」)
微かに硫黄が香り立つ熱水泉に身体を沈めた十六夜は二の腕や背筋に走った痛みに表情を歪ませる。
先日角都から受けた命により十六夜は角都と別れ、単身で賞金首狩りに赴いていたのだった。つい先程換金所にて無事に換金も終え、角都との待ち合わせ場所にやって来た十六夜は近くの熱水泉に赴き泥と血で汚れた身体を清めていた。
「うわ…結構パックリいってる…」
じくじくと痛む二の腕に視線を移せば、適当に手拭いを引き裂いて巻き付けておいた患部から血が滲み、腕を伝い湯を薄らと赤く染め上げていた。
取り敢えず身体を清めてしまってから傷の手当をしようと今一度湯に身体を沈めようとしたその時、突然その場に姿を表した角都によって傷を負った腕を掴まれたのだった。
「…かッ⁉︎」
「お前はバカか、傷の手当てくらいしろ」
「ッ⁉︎⁉︎」
「…何だ」
「きゃああああああーーーッ‼︎」
「ッーーー!」
バッシャーンと、まるで水遁の術を敵に向かって打ち噛ましたかの様な水音が辺り一体に響き渡った。木々で羽を休めていた鳥達が一斉に羽ばたき、森の奥へと逃げて行く。
頬を染めて掌で顔を覆った十六夜、頭から湯を浴びせられてぽたりぽたりと頭巾から雫を滴り落とす角都は眉間に深く皺を刻み込み、ゴキリと指を鳴らした。
「十六夜…余程今直ぐオレに殺されたい様だな…!」
「ち、ちがッちがいますッ!はッ、はだッはだかッ…!」
「…その貧相な物を見られたくないのなら顔じゃ無くそっちを隠せ。そもそも餓鬼に手を出す程女に困っちゃいない…それよりも手間を掛けさせるな、腕の傷を出せ。見られたくないのなら後ろでも向いていろ」
「は、はい…ッ!」
十六夜の手によって濡れ鼠にされた角都は頭巾と外套を脱ぎ捨てると、己に背を向けた十六夜の腕を取った。止血の役目すら果たしていない手拭いを取り去るとパックリと肉が切られた傷口に小さく舌を打つ。
「見た目よりも傷が深い…神経に傷が付いていない分まだ良いが、」
「傷の大きさに比べて痛みが無かったので、そこまで大事にする必要は無いかと…」
「お前はオレの後を付いて回る前にもう少し自分の事に頓着しろ…傷口を縫う、痛みに慣れるまで何か布でも噛んでいろ。歯を食い縛ると奥歯が折れるぞ」
「は、はい…申し訳、ありません…」
角都はそう言うと腕の繋ぎ目から自身の能力である地怨虞を伸ばし十六夜の患部に当てがった。十六夜は置いていた荷物から手拭いを取り出すと、それを適当に小さく畳み、口に咥えると角都に視線を移し恐る恐る頷いた。
ぷつりと地怨虞を突き立てた皮膚から球の様な血が転がり落ちる。十六夜はぶるりと身体を震わせ、小さく声を上げる。
「…傷以外に気を遣れ」
「ん、ふぅ…ッ!」
気を逸らせろと言われても唯でさえ痛む傷口に加えて、更に痛みが増えたのである。医療用の細い縫合糸程度であれば麻酔など無くても痛みに耐えられたが、角都の能力は別である。必死に痛みに耐えようとするものの、十六夜の瞳からは真珠の様な涙がポロリと溢れた。
角都は少しの逡巡の後、十六夜の腰に腕を回し十六夜の身体を湯の中から引き上げると、岩に腰掛けていた己の膝の上に座らせた。十六夜が驚いた様に角都に視線を移そうとすると、角都はそれよりも早く十六夜の背の傷に舌を這わせたのだった。
「ひッ…!」
「…綺麗な物だな、お前の身体は。余り…無駄に傷を負うな」
「か、くず、さま…ッ!」
腰に回された腕に篭る力に十六夜は一層頬を赤く染め上げた。羞恥だけでは無い感情に、先程口元から落ちた手拭いをギュッと握り締めた。ぴちゃぴちゃと水音が十六夜の鼓膜を犯し、背に這うぬるりとした感触が十六夜の気を昂らせる。
ーーーそうして角都が傷の縫合を終え、能力を収めた頃には十六夜は力無く角都の腕の中に抱き留められていた。
「おい、」
一言。その一言の後、十六夜の身体は角都の手によって再び湯の中へと放り込まれた…否、投げ込まれた。激しい水音の後、湯の中から顔を出した十六夜はげほげほと咳き込み口の中に入った湯を吐き出す。
「か、角都様…」
「誰ぞのお陰でオレも全身濡れ鼠だ…お前は岩陰にでも隠れて入れ」
そう言って帯に手を掛けた角都に十六夜は慌てて視線を逸らすと直ぐ近くの岩陰に身を潜める。暫くしてパサパサと言う布擦れの音が響いた後、湯に身を沈めた角都に手当ての礼を述べたのだった。
「…ありがとうございました、角都様」
「…魔氷鏡は使ったか」
「はい。掛けられた賞金とは分不相応の者でしたので…ただ少々厄介な秘伝忍術を使役しておりまして、結果として角都様のお手を煩わせる事になり申し訳ございませんでした…」
「まぁ良い…二度は同じ轍を踏むなよ」
十六夜が素直に己の不得を口にすれば角都はそれ以上咎める事も無く、十六夜はほっと息を吐いた。
「はい…あの、角都様。差し出がましい進言であるとは承知しておりますが…宜しければ、玉手の胡粉を私に塗り直させて頂けませんか?」
ちゃぷりと湯を掻き分けて角都の方へ身体を向けた十六夜は、先程角都の腕に抱かれた際に目にした角都の指先にそっと触れる。胡粉で彩られている指先だが、所々の色が剥げて爪の表面が見えてしまっていた。
「…ああ、剥がれて来たか。験担ぎか知らんが、面倒な事この上無い…これの手入れはお前に任せる」
「ッ!承知致しました!では、湯から上がりましたら早速致しましょう!」
「…後で良い、先ずは休ませろ。久方振りの入湯だ」
「…はい、」
十六夜は再び角都に背を向けると先程角都に縫合された傷跡を愛おしそうに触れる。
その様子を横目で見つめていた角都は僅かに口端を持ち上げたのだった。
(「化粧とは本来魔を除ける呪術としての意味があるそうですね」)
(「そう言い伝えられているな」)
(「どうか、角都様の玉手を御守り出来ますよう…」)
(「化粧一つで魔を祓えるのであれば、精々お前もこれで染めておくんだな」)
(「…!お揃いですね!」)
(「…勝手にしろ」)