一歩千金
主人公設定
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『オレは一度アジトへ戻る…お前は足手纏いだ、オレが戻るまでに傷を治しておけ』
角都様はそう言い残すと、彼の背に背負われている面と酷似した面を私の枕元に置き、その場から去って行った。
浮雲が染め抜かれた外套を羽織る角都様の胸元で鈍く輝く氷晶石のペンダント。まさか、あのペンダントが一族以外の人間の手に渡る日が来ようとは夢にも思っていなかった。
『ーーーこれは?』
『…私が父から譲り受けた、氷遁を使う私達のチャクラに呼応する氷晶石で作られた物です。これをお持ち頂ければ、私のチャクラの感知も容易いかと…差し出がましい事を申し上げましたが、どうぞお使い下さいませ』
『…自ら退路を断つ、か。これで益々逃げ道を失う事になるが?』
『…退路などと…逃げるつもりなど、毛頭ございません。私には、帰る里も、私の身を案じる者も既にこの世には居りませぬ…私は、この私なぞに価値を見出して下さった角都様の側に、お仕えしとうございます』
『…躾甲斐の無い女だ。まぁいい、手間は省ける』
ゆっくりと身体を起こすと、枕元には面の他に畳まれた黒装束も置かれていた。
拳を握り締める。チャクラも幾らか回復した。傷も快方へと向かっている。眠っている暇は無い。私はまだまだ知らなければならない事もある、もっと力を付けなくてはならない。
向上心など、疾うの昔に捨てた物だと思っていたが、存外そんな事も無いらしい。家族以外の誰かの為に強くなりたいなんて、初めて思ったんだ。
「珍しいわね、アナタが任務を途中で放棄するなんて」
「報酬に見合わん仕事などに割く時間は惜しい…時は金なり、だ」
組織の長であるペインにこの度の十六夜暗殺任務についての報告を上げ、再びアジトを発とうとしていた角都を引き留めたのは大蛇丸だった。外套を翻し己に歩み寄る大蛇丸に対し、角都は冷たい石壁に背を預けると腕を組んだ。
「この間アナタが殺した相方の代替えにでもするのかしら?」
「あれにオレの相方など務まらん…アレはただのストックに過ぎん。だが…大蛇丸、アレは氷遁の使い手。貴様の研究対象とやらには具合が良いだろうが…オレの私物に手を出せば、どうなるか分かっているだろうな」
「安心して頂戴、今の所私の研究対象に写輪眼以外の血継限界は入っていないわ」
「ならば構わん、用は済んだな」
そう一方的に話を切り上げると角都は踵を返し出口に向かって足を進めた。大蛇丸は小さく息を吐くと遠ざかるその背に向かって声を掛ける。
「嘗てのアナタと同じ様に、里に切り捨てられた彼女に同情でもしたのかしら?」
「…これを同情だと言うならば、あの女は今際の際まで運が無かったと言う事だ。身命を賭そうと、何時か再び切り捨てられる運命(さだめ)なのだからな」
角都はそう言って鼻を鳴らすと瞬身でその場から姿を消した。その場に一人残された大蛇丸は口元に小さく笑みを浮かべると、素直じゃないわね、と小さく呟き自らもその場から姿を消したのだった。
報告を済ませ、大蛇丸とも別れた角都は十六夜が療養している宿場へと歩を進めた。道すがら何時も懐に忍ばせているビンゴブックを取り出して、頁を繰る。十六夜の名が刻まれた頁を開くと、暗部の装束に身を包んだ十六夜の姿が描かれている。脳裏に浮かぶのはーーー嘗ての己の姿。そして、先程己の背に向けて投げられた大蛇丸の言葉。
『嘗てのアナタと同じ様に、里に切り捨てられた彼女に同情でもしたのかしら?』
失笑、そして嘲笑。同情?馬鹿馬鹿しい。角都はそう、独り言ちた。己とアレは違う。
たった一度の任務失敗によって里から汚名と重罰を科せられ、全てを失った角都。そして生まれたその日から忌み子として疎まれ続け、それでも仕え続けた里に最期は金で売られた十六夜。二十に満たない子供が付けられるには些か不釣り合いな額の賞金が、その首には掛けられていた。
角都は両脚に力を込めると頭上の木に飛び乗り、ゴキリと指を鳴らす。
眼前には霧の紋様を刻んだ面を被る数名の忍。雪の華が散らした花弁を追って己の居場所を突き止めたのだとしたら、大層御苦労な事である。
「精々、あの首に掛けられた賞金程の働きをして貰わねば割りに合わんなーーー」
角都はそう言って口布の下で口元に緩く弧を描くと迫り来る凶刃に対し身構えたのだった。
角都様はそう言い残すと、彼の背に背負われている面と酷似した面を私の枕元に置き、その場から去って行った。
浮雲が染め抜かれた外套を羽織る角都様の胸元で鈍く輝く氷晶石のペンダント。まさか、あのペンダントが一族以外の人間の手に渡る日が来ようとは夢にも思っていなかった。
『ーーーこれは?』
『…私が父から譲り受けた、氷遁を使う私達のチャクラに呼応する氷晶石で作られた物です。これをお持ち頂ければ、私のチャクラの感知も容易いかと…差し出がましい事を申し上げましたが、どうぞお使い下さいませ』
『…自ら退路を断つ、か。これで益々逃げ道を失う事になるが?』
『…退路などと…逃げるつもりなど、毛頭ございません。私には、帰る里も、私の身を案じる者も既にこの世には居りませぬ…私は、この私なぞに価値を見出して下さった角都様の側に、お仕えしとうございます』
『…躾甲斐の無い女だ。まぁいい、手間は省ける』
ゆっくりと身体を起こすと、枕元には面の他に畳まれた黒装束も置かれていた。
拳を握り締める。チャクラも幾らか回復した。傷も快方へと向かっている。眠っている暇は無い。私はまだまだ知らなければならない事もある、もっと力を付けなくてはならない。
向上心など、疾うの昔に捨てた物だと思っていたが、存外そんな事も無いらしい。家族以外の誰かの為に強くなりたいなんて、初めて思ったんだ。
「珍しいわね、アナタが任務を途中で放棄するなんて」
「報酬に見合わん仕事などに割く時間は惜しい…時は金なり、だ」
組織の長であるペインにこの度の十六夜暗殺任務についての報告を上げ、再びアジトを発とうとしていた角都を引き留めたのは大蛇丸だった。外套を翻し己に歩み寄る大蛇丸に対し、角都は冷たい石壁に背を預けると腕を組んだ。
「この間アナタが殺した相方の代替えにでもするのかしら?」
「あれにオレの相方など務まらん…アレはただのストックに過ぎん。だが…大蛇丸、アレは氷遁の使い手。貴様の研究対象とやらには具合が良いだろうが…オレの私物に手を出せば、どうなるか分かっているだろうな」
「安心して頂戴、今の所私の研究対象に写輪眼以外の血継限界は入っていないわ」
「ならば構わん、用は済んだな」
そう一方的に話を切り上げると角都は踵を返し出口に向かって足を進めた。大蛇丸は小さく息を吐くと遠ざかるその背に向かって声を掛ける。
「嘗てのアナタと同じ様に、里に切り捨てられた彼女に同情でもしたのかしら?」
「…これを同情だと言うならば、あの女は今際の際まで運が無かったと言う事だ。身命を賭そうと、何時か再び切り捨てられる運命(さだめ)なのだからな」
角都はそう言って鼻を鳴らすと瞬身でその場から姿を消した。その場に一人残された大蛇丸は口元に小さく笑みを浮かべると、素直じゃないわね、と小さく呟き自らもその場から姿を消したのだった。
報告を済ませ、大蛇丸とも別れた角都は十六夜が療養している宿場へと歩を進めた。道すがら何時も懐に忍ばせているビンゴブックを取り出して、頁を繰る。十六夜の名が刻まれた頁を開くと、暗部の装束に身を包んだ十六夜の姿が描かれている。脳裏に浮かぶのはーーー嘗ての己の姿。そして、先程己の背に向けて投げられた大蛇丸の言葉。
『嘗てのアナタと同じ様に、里に切り捨てられた彼女に同情でもしたのかしら?』
失笑、そして嘲笑。同情?馬鹿馬鹿しい。角都はそう、独り言ちた。己とアレは違う。
たった一度の任務失敗によって里から汚名と重罰を科せられ、全てを失った角都。そして生まれたその日から忌み子として疎まれ続け、それでも仕え続けた里に最期は金で売られた十六夜。二十に満たない子供が付けられるには些か不釣り合いな額の賞金が、その首には掛けられていた。
角都は両脚に力を込めると頭上の木に飛び乗り、ゴキリと指を鳴らす。
眼前には霧の紋様を刻んだ面を被る数名の忍。雪の華が散らした花弁を追って己の居場所を突き止めたのだとしたら、大層御苦労な事である。
「精々、あの首に掛けられた賞金程の働きをして貰わねば割りに合わんなーーー」
角都はそう言って口布の下で口元に緩く弧を描くと迫り来る凶刃に対し身構えたのだった。