009

夜中の帰路を漠然とした不安から逃げるために
少し急いでいた。
なにが不安かはずっとわからないままだった。

逃げるための歩幅はもたつき、絡まり、
大人になってから初めて血が出るほど大きく転んだ。
私を甘やかしてくれた兄たちは、近くにはいない。
もう、誰も超スピードで助けに来てくれはしない。

雨の中人のいない場所で転び血が出て、
急に寂しさが押し寄せた。

今までそんなことが一度も無かったのを実感して
チリチリと痛い傷口を庇いながら帰路を急ぐ。

一人で生きている部屋はひんやりと冷たく
孤独を加速させる、少し涙が出る。声も漏れる、
無人の部屋に暖かく迎えろとは言わない、言えない。

でも、求めてしまう。
こんな寂しい夜には
蝋燭の灯りのような、暖炉の火のような、
お日様の陽のような、蛍の光のような、
常夜灯の優しさのような、灯台の夜標ような、
月明かりのような、花火の閃光のような
流れ星の煌めきのような彼らの温かさを。

無機質な白い蛍光灯のした、
傷口が赤くて、ちゃんと血が出て、
私は一番不幸だった。

赤いのは嫌いじゃない、彼らの色だから
でも、彼らの赤は私が染まりたい赤は、
こんな色では無かったはずだった。
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