紳士

休憩がてらフェンスの外に飛んでいったボールを探しに歩いていたら、小さな花園にたどり着いた。
3年もこの学校に通っていて、未だに知らない場所があるとは。
綺麗に並んで咲いている花には水滴が付いていて、日差しを浴びてキラキラしていた。

「これですか?」
小柄な女生徒がテニスボールを差し出している。
ジャージの色から察するに2年生だろう。

「あ、はい。ありがとうございます」
そう言いながらボールを受け取ると手に乾いた土が付いていた。
「すみません、手を汚してしまいましたね」
「あ、いえ、元々付いてたやつです。こちらこそボール汚してないですか?」
控えめに手をパンパンと払う彼女はよく見たら顔にも少し土がついている。
「ふふ、顔にも土が付いていますよ」
「え?」
「どうぞ使ってください」
ポケットからハンカチを取り出す。
「あ、大丈夫です」
差し出したハンカチは丁寧に断られ、彼女はゴソゴソとジャージを探りタオルを出している。
「いつもこんな感じなんです、雑草抜いてるといつのまにか」
そう言う彼女の顔から、土汚れは消えていた。

「だから、この花壇は綺麗なんですね」
ピンクや白のひらひらした花が並んでいる方へ目をやる。この花は何て名前だったかすぐには思い出せない。
「そう思ってもらえるなら、甲斐があります」
彼女もまた、花壇をまっすぐに見ていた。

手のひらのボールの感触でなぜ自分がここにいるのかを思い出す。
「それでは、私は戻ります。ありがとうございました」
「はい、お疲れ様です。」
小さく会釈する彼女の向こうで、花壇の花が風に揺れていた。

テニスコートに戻っても、あの花の名前はやっぱり思い出せなかった。
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