短編

右手がくすぐったくて目が覚めた。
薄く目を開けてもすぐに状況がわからない、右手のフワフワした違和感が気になる。
体育の後の自習の時間、うるさくはないけど静かではない自由な時間、当たり前のように机に伏せて寝ていた。
むくりと顔を上げる、ワックスで整えた髪型は崩れてないだろうか、そんなことを考えてたら、

「あ、起きた」
前の席に座ってる女子と目が合う。おはよ〜なんてふにゃふにゃ笑うから、なんでか嬉しくなる。

「それ、油性で描いちゃった」
彼女の指がさす先は俺の右手。
手の甲にヘロヘロの線で描かれたうさぎっぽい生き物やらハートのイラストが点在している。
落書きをされたらしい、油性ペンで。

(え、何こんなん俺のこと絶対好きじゃん!!!!えー!!!)という心の叫びを表には全く出さないで、
「油性で?ダルー」と言ったもののたぶん顔は死ぬほどニヤけていた。まだまだだな俺も。

だって落書きするって、少なくとも手と手が触れてるだろ、ボディタッチなんて、そんな、好きじゃなきゃしねぇよな、しねぇだろ!
心なしか彼女からシャンプー的ないい匂いもする気がする!

「それハートじゃなくてモモね、桃城の桃」

(絶対俺のこと好きじゃん!!)
自習終わりのチャイムと共に友達に呼ばれて、ヒラリとどこかへ行った彼女のことを目で追ってしまうくらいには意識していた。
(もう、手洗えねえよ!)
放課後までずっと落書きみてニヤニヤしてた。
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