短編
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
寝っ転がったまま、スマホから顔を上げて彼を見る。
なんの本かわからないけどパラパラとページをめくっている。文字が細かい。
「おー聞いてる聞いてる、友達のミュータンの彼氏がモラハラなんだろ?」
「ミュータンじゃなくて、みゆたんね。突然変異してないから」
返事が軽い、彼は本をパタンとたたんだ。
ポケットからスマホをだして操作する。
私も画面に視線を戻す。どうでもいい短い動画がチカチカと流れてゆく。みゆたんを含む友人とのLINEのやり取りも5分前から止まっている。
「タートルズかと思ってた。名前思い出せなくてわざわざ調べたわ、ピザ食いてえな。」
スマホを出したのはそんなことを調べるためだったのか。タートルズ、昔テレビでやってたアニメ。
「懐かし〜なんだっけ、ドナテロ ミケランジェロ レオナルド…」
指を折りながら、カラフルなバンナタを巻いた亀を思い出す。誰が何色かもわからない。赤と、青と、
そいつが持ってた武器も名前がわからない変なやつ。
「ラファエロ」
「あぁ〜……それは粘っても出なかったな」
記憶の隅にも置いていない、今ここで話題にならなかったら2度と思い出すこともなかっただろう。
そして、きっと明日には忘れている。
「で、ミュータンの話はもういいのか?」
亀忍者の話を始めたのは彼なのに、急にみゆたんの話に戻す。ちゃんと私の話のターンに戻る。竜次のこういうところ、いいよな。
「いいよ、みゆたんモラハラだって気づいてないし」
「教えてやらねぇの?」
「まだ、彼氏のこと盲目的に好きだからうちらが言ってもダメ。ちょっと様子みる」
何が見たいわけでもないのでスマホを閉じる。
その場でモゾモゾと寝返りをうつ。
見上げた天井が白くて、竜次の部屋だなーと思う。
昨日、一昨日?日付が変わる頃帰ってきて、彼は寝たんだ寝てないんだかわからないけど、「鍵開けとく」と連絡が来ていて、そして今ここにいる。
合宿の話も海外の試合の話も彼は別にしない。
あ、種ケ島くんの話は少しするかも。でもそれくらい。
首だけ回して、彼を見る海外から帰ってきたばかりのくせに疲れてるとかそういう風でもない。まあ、疲れてたら呼ばないか。
横顔越しに見えた彼の綺麗に整った部屋、清潔できちんとした竜次の部屋。
「ほーん、ピザどれにする?俺のコレ、ペパロニのやつ」
気の抜けた返事、渡されたスマホ、デリバリーピザの注文画面、やけに赤いサラミが光っている。
「ほんとにタートルズじゃん、私パイナップルのやつ」
「あったかい果物キモくね?」
「キモくないよ、ディズニーでも売ってるじゃん」
スクロールして、トロピカルとかハワイアンとかそんな文字を探す。ベーコンとパイナップルのピザ。
「それはキモくないことの証明にはならない」
「なるよ、ずっとあるってことは売れてるんだよ」
確かに周りで食べてる人見ないなと思ったけど言わない。負けたみたいじゃん。
画面に映るペパロニとパイナップルのハーフ。
「まあいいや、生地薄いのと厚いのどうする?」
返したスマホを見ながら彼が言う。
「薄いのにしないと量食べれないよ何サイズにするの」
「2人だからMにしたけど、余ったら冷凍すりゃいい」
空っぽの冷蔵庫、炭酸水が二、三本入ってるだけ。
「じゃあなんでもいいよ」
「うい」
ピローンと決済が確定した音。
20分後だとよ、とスマホを伏せてまた本を読む彼。
サラダとか頼めばよかったな、とぼんやり思った。
さらさらの彼の髪を指で梳く。急に触っても怒らない。
読書の邪魔しても、多分怒りはしない。鬱陶しそうにはするかも。
「りゅち」
小さい声で呟いた、聞こえなくてもいいやと思った。
「あ?」
「…なんでもない」
ちゃん届いて、一度、引っ込める。
「あ?言えよ気持ち悪い」
本から視線を離さずに続きを促される。
「いや、私の彼氏がりゅちでよかったなーって」
思ったことをそのまま伝える。いろんな意味でそう思う、みゆたんの彼氏とか、久しぶりに会ったこととか、どうでもいい会話とか、ピザの具とか。
「竜次」が「りゅーじ」になりいつのまにか「りゅち」になるほどの時の流れとか。
「…そりゃ、どうも」
やっぱりこっちを見ない。それでも髪を撫でる私の手に、竜次の手が触れた。
寝っ転がったまま、スマホから顔を上げて彼を見る。
なんの本かわからないけどパラパラとページをめくっている。文字が細かい。
「おー聞いてる聞いてる、友達のミュータンの彼氏がモラハラなんだろ?」
「ミュータンじゃなくて、みゆたんね。突然変異してないから」
返事が軽い、彼は本をパタンとたたんだ。
ポケットからスマホをだして操作する。
私も画面に視線を戻す。どうでもいい短い動画がチカチカと流れてゆく。みゆたんを含む友人とのLINEのやり取りも5分前から止まっている。
「タートルズかと思ってた。名前思い出せなくてわざわざ調べたわ、ピザ食いてえな。」
スマホを出したのはそんなことを調べるためだったのか。タートルズ、昔テレビでやってたアニメ。
「懐かし〜なんだっけ、ドナテロ ミケランジェロ レオナルド…」
指を折りながら、カラフルなバンナタを巻いた亀を思い出す。誰が何色かもわからない。赤と、青と、
そいつが持ってた武器も名前がわからない変なやつ。
「ラファエロ」
「あぁ〜……それは粘っても出なかったな」
記憶の隅にも置いていない、今ここで話題にならなかったら2度と思い出すこともなかっただろう。
そして、きっと明日には忘れている。
「で、ミュータンの話はもういいのか?」
亀忍者の話を始めたのは彼なのに、急にみゆたんの話に戻す。ちゃんと私の話のターンに戻る。竜次のこういうところ、いいよな。
「いいよ、みゆたんモラハラだって気づいてないし」
「教えてやらねぇの?」
「まだ、彼氏のこと盲目的に好きだからうちらが言ってもダメ。ちょっと様子みる」
何が見たいわけでもないのでスマホを閉じる。
その場でモゾモゾと寝返りをうつ。
見上げた天井が白くて、竜次の部屋だなーと思う。
昨日、一昨日?日付が変わる頃帰ってきて、彼は寝たんだ寝てないんだかわからないけど、「鍵開けとく」と連絡が来ていて、そして今ここにいる。
合宿の話も海外の試合の話も彼は別にしない。
あ、種ケ島くんの話は少しするかも。でもそれくらい。
首だけ回して、彼を見る海外から帰ってきたばかりのくせに疲れてるとかそういう風でもない。まあ、疲れてたら呼ばないか。
横顔越しに見えた彼の綺麗に整った部屋、清潔できちんとした竜次の部屋。
「ほーん、ピザどれにする?俺のコレ、ペパロニのやつ」
気の抜けた返事、渡されたスマホ、デリバリーピザの注文画面、やけに赤いサラミが光っている。
「ほんとにタートルズじゃん、私パイナップルのやつ」
「あったかい果物キモくね?」
「キモくないよ、ディズニーでも売ってるじゃん」
スクロールして、トロピカルとかハワイアンとかそんな文字を探す。ベーコンとパイナップルのピザ。
「それはキモくないことの証明にはならない」
「なるよ、ずっとあるってことは売れてるんだよ」
確かに周りで食べてる人見ないなと思ったけど言わない。負けたみたいじゃん。
画面に映るペパロニとパイナップルのハーフ。
「まあいいや、生地薄いのと厚いのどうする?」
返したスマホを見ながら彼が言う。
「薄いのにしないと量食べれないよ何サイズにするの」
「2人だからMにしたけど、余ったら冷凍すりゃいい」
空っぽの冷蔵庫、炭酸水が二、三本入ってるだけ。
「じゃあなんでもいいよ」
「うい」
ピローンと決済が確定した音。
20分後だとよ、とスマホを伏せてまた本を読む彼。
サラダとか頼めばよかったな、とぼんやり思った。
さらさらの彼の髪を指で梳く。急に触っても怒らない。
読書の邪魔しても、多分怒りはしない。鬱陶しそうにはするかも。
「りゅち」
小さい声で呟いた、聞こえなくてもいいやと思った。
「あ?」
「…なんでもない」
ちゃん届いて、一度、引っ込める。
「あ?言えよ気持ち悪い」
本から視線を離さずに続きを促される。
「いや、私の彼氏がりゅちでよかったなーって」
思ったことをそのまま伝える。いろんな意味でそう思う、みゆたんの彼氏とか、久しぶりに会ったこととか、どうでもいい会話とか、ピザの具とか。
「竜次」が「りゅーじ」になりいつのまにか「りゅち」になるほどの時の流れとか。
「…そりゃ、どうも」
やっぱりこっちを見ない。それでも髪を撫でる私の手に、竜次の手が触れた。