短編
放課後、部活に向かう淳くんを引き留めてしまうくらいには余裕がなかった。
いつもなら笑顔で見送れるのに、今日はなぜか無性に不安で心配になってしまった。
「…あつしくん、ってほんとに私のこと、すき?」
上手くしゃべれない。のどにつかえて、私の声が淳くんの耳までちゃんと届いたかもわからない。
淳くんからの返事がないから、不安が募る。
自分がすごく重い女の子だと知られるのも怖かった。
じわじわと目頭が熱くなってくる。泣きたいわけじゃないのに、勝手に涙が溜まってゆく。
放課後の廊下にはいっぱい人がいて、柳沢くんの「淳が女子泣かせてるだーね!」という声が聞こえてきて、(そうだよね、淳くんに泣かされたみたいになってるよね)と焦れば焦るほど涙が出てくる。
テニス部の人達が私たちを見てるのがわかる、彼らの視線がピリピリと痛かった。
逃げ出したいけど、それすらできない。
彼らが私たちを見て何を言ってるかはわからないけど、私が淳くんを困らせてるのはわかる。こんなことがしたかったんじゃないのに。
「…はぁ。」淳くんのため息が聞こえる。
もうだめだ、嫌われちゃった。
涙がボロボロ溢れる、泣いたらもっと嫌われちゃうよ。
「うるさいよ、外野。」
その一言で騒いでた柳沢くん達が静かになる。
淳くんがゆっくり近づいてくる。ポケットから綺麗に畳まれたハンカチが出てきて、差し出される。
俯く私に対して、淳くんが少し屈んで視線を合わせる。
「いい?聞いて。一回しか言わないよ。」
淳くんの優しい声が耳に響いた。