短編

男女混合の友人グループで夏祭りに来たはずなのに、気づいたら丸井と2人で人混みを流れていた。
彼はチョコバナナを食べながら、たこ焼きの屋台に並ぶらしい。よく食べるな〜と横顔を眺める。

女子の中で私だけが浴衣を着てなかった。そこで初めてこのイベントの趣旨を理解した。
あの子たちは気になる男子と接近するためにこれを企画して、なぜか私はその輪には入ってなかったらしい。
彼女たちは意中の相手と2人になれただろうか、とか私にも言ってくれれば良いのに、とかそんなことを考えながら延々と続く屋台を眺めていた。
別に怒っているわけじゃない。ただ、後から知るくらいなら最初から教えてくれても良かったのに、と思う。
せめて、ドレスコードとして浴衣を指定するとかさ!

「何、百面相してんの?」と丸井が私の顔を覗き込んで笑っている。
「なんでもない。……口の端チョコついてるよ」と頬を指差す。私の考えてることをそのまま喋っても困らせるかもと思った。
「え?どこ?」と彼が半歩近づいた拍子に、頬に指が刺さる。
「あ、ごめん」なんて謝ってしまう。
「気にすんなよ」とプニっとした頬で笑っていて、カバンからウェットティッシュを出してあげたらなぜか嬉しそうで、変なやつだなーと隣を歩く彼をチラチラ見てしまう。

花火開始に向けてのアナウンスが聞こえて、より一層人混みが熱を帯びる。
普通に歩いているつもりが少しずつ人の流れに押し出されていたらしく、いつのまにか丸井を見失う。
かと言って帰ることもできず、じわじわと花火を見るために会場に近づく。

「おい!急にいなくなんなよ!」と腕を引っ張られる。
「…そういうつもりじゃないんだけど」モゴモゴと答える。
「え?なに?」と彼の顔が近づいてくる。
(目、おっきいなぁ。)なんて思うくらいには丸井で視界がいっぱいだった。
「腕、離して、」「ああ、悪い」
とか、別に嫌じゃないのに、やな言い方しちゃったな。

人混みの中、迷子にならないように半歩近づいた彼の手と何度かぶつかる。
いちご飴、焼きそば、かき氷、金魚掬い。眩しく並ぶ屋台の中で歩きながらコツン、コツンとぶつかる手の甲。
避けるほど嫌じゃなくて、彼も避けないのは嫌じゃないからなのかな。とか思い始めて、恥ずかしくなる。
早く花火始まらないかな。なんて気を紛らわせてたら、「お前だけ浴衣じゃなくて良かった」と丸井が言う。
「……は?」人が気にしていることを、

「この祭り行くメンツ決めたの、俺だって言ったらどうする?」

なんて聞こえて、丸井の横顔が花火に照らされた。
私の「…え?」という言葉は花火の爆音に飲み込まれて、
彼の手がもう一度、私の手の甲に触れた。
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