短編

「ユウジは結局小春ちゃんが好きだもんね」

そう言う彼女の目には大粒の涙が溜まっている。
それを見たチームメイト達が「なに彼女泣かしてんねん!」だの「最低や!」だの好き放題言っている。

しかし俺は知っている。あの涙は目薬で作った偽物だし、俺が小春より彼女を優先していることは、この場にいる全員にとって周知の事実だということを。
わかっていて煽っているのだ。おもろいことに全力の俺たちだからこその愛情表現ってやつだろう。
その証拠に彼女の手には目薬が握られていて、隠すことすらしていない。

「おいおい、まだ二股かけてたんか!小春も泣いてるで!」謙也が話を大袈裟にする。いつもの流れだ。
「先輩、最低っすわ。これネットに晒してもええっすか?」
珍しく財前が真顔でノってくる。小春は「ユウくんの浮気者!どっちを選ぶん!」と顔を覆って激しく肩を揺らす。
白石すらも笑ってこちらを見ている。
完全に俺が悪役、逃げ場なし。
こういう茶番が結局一番楽しい。

普段なら「小春に決まっとるやろ!」と即決し、「いや、ちゃうやろ!私選べや!」と彼女にツッコミを入れられてドッカン湧いて終いや。それがお決まり、乳首ドリルせんのかーい!や。
でも何故か今日はいい意味で期待を裏切ってみたくなった。かと言って急に最適解を見つけられるほどアドリブに強いわけじゃない。
全員が待ってる「俺の愛は小春のものや!」を。もう視線が俺に集まりつつある、早く答えを出さなければ。
でも、今日は小春が好きでラブルスの俺は休みやねん!
土壇場、火事場の馬鹿力、あとなんやえーっとイタチの最後っ屁!!どれも違うか!

「…っあぁぁああもう!」
「うっさい!お前が好きじゃ!ボケ!」


妖精超えてペガサスが横切ったかのような沈黙が流れる。


こいつらってこんなに静かにできるんや。と思った。

予想外だったのは、想像以上に赤面している彼女だ。
耳まで真っ赤に染まって、固まっている。
そして、俺も信じられないくらい赤面している。
ストレートにものを言うことがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。

そんな俺たちを知ってか知らずか、盆と正月が一緒にきたかのように煽りまくるチームメイト。
「やるやん!」だの「よう言うた!」だの「かっこええぞ!」だの本当に好き勝手なことを言う奴らだ。

収集がつかなくなってしまった上に、彼女はまだ真っ赤な顔をして立ち尽くしている。
「ほんまに可愛いやっちゃな!!」
仕方なしに手首を引っ掴んでここから連れ去る。
ヒューヒューと騒ぐチームメイトを背中に熱い夏の中へ駆け出してゆく。彼女の手首を掴んだ手のひらが汗ばむのを感じた。
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