詐欺師

今日の練習はいつも以上に身が入らず柳や柳生に小言を言われ、真田には怒鳴られた。

頭を冷やすために校舎裏にあるお気に入りの涼しい場所に腰を下ろす。
たかがグミ一袋、たかが駅までの数分間。
それらが彼女にとっての特別な事である保証なんて無い。

(舞い上がってるのは俺だけ、か。)
コートから図書室を見上げるのがいつのまにか癖になって久しいが、一度だって彼女が窓辺に現れた事など無いのがその証拠だ。

他人になりすまして自分すら欺く様な人間が、好かれとるわけない。
それが今出せる答えの限界だった。
自虐気味に薄く笑いコートに戻る。誰かでいられるここは居心地がいいと言い聞かせながらラケットを振る。

練習終わりの部室でカバンから例の紫のパウチを引っ張り出す。
「おら、丸井。欲しがっとったろ、やるぜよ」
「赤也、お前も食え」

「え、仁王先輩いいんすか!?」
「未開封じゃないすか!」と喜ぶ後輩。
不思議そうな顔した丸井の視線も無視して荷物を背負う。

何も知らない赤也が封を雑に開ける。
一瞬だけ痛みに似た後悔が襲ったが、それすら心地よい。

「おつかれさん」
グミの行方を見届けることすらせず部室を後にする。
そうすることで、彼女からの好意をただのお菓子に格下げしたかった。それは嘘つきの詐欺師には造作もない事だと思いたかった。そもそも好意なんて無かったとしたかった。

そうでもしないと、彼女のまっすぐな生き方に飲み込まれてしまいそうで怖かった。
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