詐欺師

にお08

進まなかった本を集中して読もうと図書室に向かう。
司書さんに挨拶をしていつもより奥の席へ腰を下ろす。
奥の席は椅子が古くて薄暗く人気(ひとけ)がないのでここなら読める。と考えたのだ。

予想通りやっと文字を目で追える。内容がわかる。
物語に没頭する。私はこれが好き、幸せだと思い出した。

どれくらい時間が経っただろう。読み終えた手元の本を返却し新しく借りる本を探すために立ち上がる。
外はまだ明るく、眩しかった。

移動しようと荷物をまとめていると、聞き馴染みのない音が鼓膜を揺らす。窓に近づき外を見る。
「…!!」驚きすぎて可愛くない声が出た。
思わずその場にしゃがみ込む。
毎日の様に通ってた図書室なのに、奥の席からテニスコートが見えることを知らなかった。

やっとの思いで端に追いやった正体不明の感情が波のように押し寄せる。
こんなにも考えない様にすればするほど意識してしまい、離れようと思うほど引き寄せられる。

私はこの気持ちがなんなのか、知ってる。
知っているけど、扱い切れる気がしない。
だから、知らないふりをする。見ないふりをする。

思考から逃れる様に本棚の間をすり抜けて、適当に黄色い背表紙の本を手に取る。
司書さんが心配そうに名前を呼んでくれていたが、それすら煩わしく、一刻も早くここから、学校から立ち去りたかった。
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