詐欺師

傘がないので、雨が止むまで図書室にいた。
友だちが少ないとこういう時に不便だなと思う。
完全下校時刻を告げる放送を聞く事になるとは思わなかったが、ちゃんと雨は止んだ。

校門まで続く道が大きな水たまりばかりで歩きづらかった。(家に帰るまで靴下無事かな。)と不安になる。

いつもより遅い帰路は雨の匂いと夜の匂いが混じり合って知らない場所の様だった。

「…珍しいの、こんな時間に」
ガコンと何かが落ちる音がして屈んでる白髪と目が合う。
学校の敷地外に出てすぐの角に自販機がある事をその瞬間まで忘れていた。

透明な液体の入ったペットボトルを拾い上げてこちらを向き直す彼とは学校の敷地外で会うのは初めてな気がした。

「傘なくて。止むの待ってたらこんな時間になっちゃった」
そう答えてから、(別に私に興味ないか)と思った。

彼は「ふーん、」と「ほう」の間みたいな返事をして、
「家どっちじゃ、途中まで送っちゃる」とペットボトルの液体を飲み込んだ。

「え…えきの方」と喉が声を絞り出す。
彼は薄く笑い「なんじゃ、同じ方向か。」と歩き出した。

自販機の青白い光が遠ざかり、緑道の紫陽花が雨に濡れていた。少し前を歩く白髪の彼の黄色いジャージの背中を眺めつつ、靴下が濡れてゆくのを感じていた。

さっきまで下ばかり見て歩いていたからか、見上げた月がなぜか眩しかった。
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