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Dr.stone

[このまちでいちばんやさしいウソ]
※おさななが中学3年生の秋にわちゃもちゃするお話(捏造過多)
 お互いがお互いのことを大好きで大切という気持ちがマシマシです。



 珍しく一人で帰ることになった夕方5時過ぎ。
通りの木にひっついているひぐらしがジリジリと寂しげに鳴いている。アスファルトに篭った熱を受け継いだ生温かい風は、太陽が主役の夏を名残惜しむかのように、白い制服の裾を通りすぎていく。
「ダリぃな……」
 柄にもなく、幼馴染2人の不在という心の隙間を感じている。数年前までは感じることのなかったそれは、良い変化か悪い変化か断ずることができずにいる。大樹は補習があるからと教室に残っていた。杠も今日は部活があるんだと放課後の騒がしい廊下ですれ違った時に言っていた。用事はないが、大樹の補習が終わるまで図書室で時間を潰すかと本を読み漁っていたが、書庫の整理をするから今日は早めに閉めると図書委員に言われ、渋々帰る準備をした。下駄箱に向かう前に教室を覗いたが、大樹はまだ机に置かれたプリントを睨みつける勢いで凝視している。手芸部に行くのは流石に気が引けたので、止む無く一人で校門を出た。
 ここずっと、3人でロケットを飛ばすためにと一緒に過ごした放課後が続いていたからか、どことなく物足りなさを感じている自分がいる。大樹、杠の2人と共にいるうちに、彼らに対して他とは少し違う執着を抱いていることには薄々気づいていた。ロケット作りに勤しむ間に折り重ねていった時間が、2人を信頼できる大切な仲間であると認識させ、真っすぐな優しさを持つ2人の隣は心地がいいと知ってしまったのだ。いつの間にか、そのぬるま湯のような柔らかさに甘やかされ、自分にとっての欠かせない居場所になっていた。
「フゥ……」
 ないものねだりをしても仕方がない。溜めこんでいた息を吐き切り、首を鳴らして思考を真っ白にリセットさせる。特に何もせず家に帰るのも何なので、気分転換がてら通学路にある公園に寄ってみることにした。
10分前に夕方5時を告げるチャイムが鳴ったことで、真面目な子供たちは帰ったのだろう。誰もいない公園を見て、今の自分の胸の内と重なるような気がした。
 向かい風が吹いている。視界を遮るようになびく前髪をかきあげて、近場にあったブランコに座る。空を見上げて、オレンジに染まる空の彼方にある一番星、金星を見つける。宵の明星を中心に、頭の中にある星座早見表を広げた。まだ見えてはいないが、もうすぐ天上に白鳥座が登るだろう。大樹に何度も「夏の“大三角形”じゃなくて“夏の大三角”な」と訂正していた3つの光る星を線でつなげていく。そういえば、小学生最後の夏に二人で天体観測をしていたら、大樹が夏の大三角をみてサンドイッチが食べたくなったと腹を鳴らしていたのを思い出した。数年の時間差で、俺の腹の虫もサンドイッチが食いたいと音を鳴らして空腹を主張したので、思わず笑ってしまう。
「あれ?千空くん?」
 今日の夕食は家に備蓄してあるチーズとハムを適当に食パンに挟むかと考えていたところに、ディナーの献立のアイデアを提供した男の想い人が現れた。
「おー手芸部じゃねえか。部活は終わったのか?」
「うん。今日はもう会えないかと思ってたから、なんだか嬉しいですな。千空くんはここで何してるの?」
 にこにこと話しながら、杠は俺の隣に空いているブランコに座る。大樹も杠も、感情を表に出すタイプだ。だからこそ、言葉通り杠が心から嬉しいという顔をしているのが直に理解できてしまい、それがどことなく気恥ずかしくて、素っ気ない返しをしてしまう。
「今日の晩飯のメニュー考案」 
「そうなんだ。もう何食べるか決まったの?」
 足で軽く地面を蹴り緩やかに揺れる杠の影を見て、同じように真似をする。
「サンドイッチ」
「えっ夜ご飯に?パンだったら後でお腹空いちゃうんじゃない?」
「あ゙ぁ。分かってっけど、なんっか今日無性に食いたくなったんだよ」
「そんなに食べたかったんなら、私のお昼ご飯おすそ分けすればよかったね」
「おありがてえが、昼休憩の時点では興味なかったんだわ」
 なにそれ本当に急だね、と笑う杠に得も言えぬ満足感が胸を満たしていく。大樹同様、杠は相手を優しく大切に扱う。何てことのない言葉の裏にある思いやりは、いつだって心地がいいのだ。やはり、この幼馴染達と話す時間が、今日は足りなかったのだろう。この微睡みのような時間をもう少し傍に置いておきたい。すぐに手放すにはあまりにも名残惜しいと思う。
 杠、このまま俺の家で晩御飯でも食って行ってくんねえかな、流石に急には無理だったりするか、と喉元まで出かかった言葉を飲みこみ、話の繋がりを構成していく。
「千空くんもパン食べるんだねー」
「人のことを何だと思ってんだ杠テメー。俺もパンくらい食うわ」
「小麦は消化吸収が早いから好みじゃねえ、とか言いそうだったから」
「おー、そりゃちょっと否定できねえな」
「否定できないんじゃん」
 からころと笑う杠は、昔馴染みの贔屓目を抜いても無邪気で可愛らしい。さらに美人ときたものだから、杠に想いを寄せている輩がうちの学校には巨万といる。高校に入れば恋敵はもっと増えるだろうから、さっさと告れよと胸の内で親友をけしかけた。
「小麦も必要な栄養素だ。米よりも育てやすい炭水化物だかんな」
「それは何となくわかるけど、千空くんがパンかぁ」
 隣で金属音を鳴らしながらブランコを漕いでいた杠は、はっと何かを思いついたように身を乗り出した。
「千空くんや。もしかしてもしかしてなんだけど、サンドイッチには学生の勉学に効く特別な成分でも入ってたりするの?」
「おー、んなもんはねえはずだ」
「そうなんだ、ふーん……」
 少しだけ眉を八の字にして相槌を打つ杠に、そこまでサンドイッチが食べたくなった理由が知りたいかと内心苦笑いする。
「大したことじゃねえよ。昔、大樹が夏の大三角のことをサンドイッチみたいだって言ってたのを思い出しただけだ」
 テレビで活躍するインチキマジシャンのような大それたネタばらしでもないが、答えを聞いた杠は満足した顔をする。
「あ~、そういうことでしたか!ふふふ、大樹くんらしい」
「百夜が送ってくれた食パンやら具材が家にあるからな。この際、丁度いいと思ってな」
「なるほどですな。えー、なんだか私までサンドイッチが食べたくなってきちゃった」
 この流れで誘ったら、杠は来てくれるのではないか。これまでに何度も、ロケット解説などで杠には5時間以上も居座らせたこともある。しかし、小川家では既に夜ご飯の準備がされているかもしれない。そうなると、やはり杠は帰ってしまうのだろうか。
「晩飯にパンを食っちゃいけねえってルールはねえからな」
隣の少女の反応を伺う。野暮な手段だが、大樹で釣ればいけるか。大樹は急遽晩飯を石神家で食べるなんてことをよくするし、大樹には後で連絡すれば家に来てもらえるだろう。杠も突然の夕食の誘いに参加することがしばしばあるので、無茶ではあるが可能性がないわけでもない。そのついでに夕食のメニューも何品か増やすことになれば、当初の予定より豪華なディナーになるだろう。一人で食べるには物足りないとでも言って上手く誘えばいい。話の切り出しにこれは好機だと口を開いたところで、くすくすと杠が笑う。
「そういえば、私も小学生の頃は星座を見て、おにぎりみたいだとか、ドーナツみたいだとかって友達と言い合ってたな」
 千空くんはそういう連想あんましてないかもだけど……と言われ、一瞬あっけにとられる。
「まあ、ちっせえ奴はみんなあらゆる連想をするもんだからな」
「そうそう。……でも、流石に光る星を繋げて神話を創った大昔の人たちには敵いませんな」
「違いねえ」 
 フッと短く笑う。話の切り出しには失敗したが、不思議と今の状況も悪くないと思った。日中の暑い日差しも日が沈むと控えめになり、外での他愛もない話がまったく苦にならない。互いの揺れる影を眺めながら、宙に浮く身体を機嫌よく高く飛ばしていく。
「その頃だったかな。今日みたいにこの公園のブランコで遊んでた時に、友達がね、ちょっとした幸せのおまじないを教えてくれたんだ。」
「シロツメクサの四つ葉を見つけたら幸せになる、みたいなやつか?」
「そこまで有名じゃなさそうだけど、そんな感じかな」
「ほーん、聞かせてみろ」
 どんな感じだったかなーと記憶を掘り起こす杠。その横顔を眺めながら、きっとその話は俺も大樹も知らないであろうと予測する。実験に明け暮れていた男児2人は、その手の話題にほとんど縁がなかった。
「確か、このブランコから靴を飛ばして、奥の方にあるすべり台の頂上に上手く乗せれたら、一番欲しいものが手に入るっていう話だよ」
 杠の言葉に合わせて、視線をすべり台の方へ向ける。ここからすべり台の間に障害物はないが、靴を飛ばすには結構な距離がある。
「初耳だな」
「本当かどうかはわからないけどね。多分、誰かが適当に作っただけだと思うし」
 小さい子なら誰でも一度は耳にする、まじないや占いの類。科学的な根拠はなくても、小学生達はそれが真実だと疑わずに鵜呑みにしてしまうものだ。
「私も実際にやってみたんだけど、ここからすべり台って結構な距離があるでしょ。だから、私も友達もあそこに一回も靴を乗せれたことはないんだ」
 少し寂しげに笑う杠。何度も靴を飛ばしては何度も失敗したのだろう。
「小学生の頃の話なんだろ?今なら乗せれるんじゃねえか。ククク、やってみるのもアリだな」
 センチメンタルな気持ちを蹴とばしてやろうと、真っすぐにすべり台を指して笑う。
「えー、乗っても乗らなくても、後で靴を拾いにいかなきゃいけないことを考えると、あまり乗り気になりませんぞ」
「んなことはどうとでもなる。杠、テメーはそこで見てていやがれ」
「えっまさか本当にやるつもりなの?」
 驚く杠にニヤリと笑って見せる。まさか、根も葉もない噂話に本気になるとは思わなかったのだろう。
「物理学と空間把握能力の実践的な勉強になるからな。他にはまあ、俺の個人的な筋力のデータも取れる」
「おまじないを検証するわけじゃないんだね」
「何言ってんだ。それが本題で後はついでだ」
「ワオ」
 自身が座っていたブランコを力強く漕いで、勢いが乗って来たら立ち上がる。靴を飛ばすために、右足の靴を軽く脱いだ。顔を流れていく風が少し涼しくて気持ちいい。そういえば、ブランコなんて何年振りだろうか。俺が5歳かそこらの時に、ブランコで一回転しようと必死に漕いでいたところを、慌てた百夜に中断させられたのが最後だと記憶しているから、ざっと10年振りか。
 隣に座っている杠の顔を見る。そこには、見たことのない世界まで連れて行ってよ、と言うかのように期待と好奇心で顔を輝かせる少女がいた。彼女が小学生だった頃に何度も失敗していたあの頃のノスタルジックな感情も含めて、今の俺に重ねているのかもしれない。なら、猶更この靴飛ばしは成功させたくなるものだ。
「いくぞ!」
 ブランコと身体が最前線に到達すると同時に、片足を思いっきり振り上げた。バランスが崩れたブランコは、前後だけじゃなく左右にも揺れる。飛ばされた靴は放物線を描いて狙ったところへ向かっていった。
「ワァァオ!すごいすごい!」
「行けそうか……!?」
 ガコン、と遠くの方で音が鳴る。俺の飛ばした靴は、すべり台の頂上にある手前側の手すりに当たり、ボトリと地面に落ちた。
「……っ」
勢いを失くしたブランコが動きを止め、束の間の静寂が俺たちを包む。
「あ゙―……失敗だ」
「でも、すごく惜しかったよ」
 残念ながら、小学生の少女が果たせなかったまじないへの挑戦を、俺が一発で達成することは叶わなかった。
「中学生でも靴を飛ばすのは難しいということですな」
「いいや、今の一投目で微弱な誤差は把握できた。まだ足元にはもう一足あるかんな」
「もう一回するの?」
「次はぜってー成功する」
 ワオ、と驚く声を出しているが、その表情は楽しみで仕方ないと笑っていた。
「千空くんが言うと、本当に乗せれちゃいそうだから不思議だな」
 俺の背中をそっと後押しするような声色に、ふともう一人の親友の顔が思い浮かんだ。成程、こういうところに大樹は心底惚れているのだろう。杠の優しさは、気づけばそっと添えられているような、身に馴染むような温かさが根源にある。少女の折り重なった優しさに真心で返していった大樹と、それを受け止めてまた優しさで返していく杠を、互いの想いを通わせあうようになるまでずっとそばで見守っていたのだから、俺は手に取るように分かる。隣の少女は気づいていないが、大樹の好意はダダ漏れだし、ついでに言うと、二人とも気づいていないだけでとっくに両想いなのだ。
「これが成功したら、テメーと大樹が付き合って“欲しい”って願ってみるか」
「え……?せ、千空くん!?そういうのはちょっと、違うと思うのだよ!」
 俺の戯言に真っ赤になって抗議する杠。肩にぐりぐりと拳を押し付けているが、痛くも痒くもない。
「それに、こういうのは、自分の力でなんとかしたいし……」
 彼女の言葉が後になるにつれ尻スボミになっていく。そのひたむきさが、誠実さが、より一層眩しくもあり愛おしく感じる。俺の視線に気づいた杠は、わたわたと両手を目の前で振る。
「だから、千空くんの欲しいものをちゃんと願ってね!」
 それでも、最後は意志の篭った瞳で返されて、誇らしささえ感じる幼馴染の頑固さにやれやれと首を振った。
「じゃあいくぞー」
「おー!」
 次は、成功させる。絶対に。再びブランコを力強く漕いで、靴を飛ばすために今度は左足の靴を軽く脱ぐ。
 そうして俺は、もう一度すべり台の頂上へ靴を飛ばした。次は絶対に成功させると、屈強な意志を込めて放った足先が一気に冷たくなる。同じように綺麗な放物線を描いた俺の靴は、カコンと音を鳴らしてすべり台の頂上に君臨した。
目の前で起きたことを見極めるように、しばしの沈黙が2人を包む。その沈黙を破って、杠が確かめるように顔を覗き込む。 
「これって……成功したよね?」
 はっきりと届けられた杠の言葉が合図のように。
「あ゙ぁ、成功だ!!」
 二人して幼い子供のようにハイタッチをして喜びを分かち合った。
「成功しちゃった!もう本当に千空くんはすごいですな~!」
「こんくらいどうってことねえ。案外、地道にやってりゃ誰でもできるもんだ」
「そうだね。千空くんが言うなら、きっとそうだよ」
 私も飛ばしちゃおっかなぁ、なんて冗談か本気か分からない返しをする杠。
「だが、流石にあそこまで靴を取りにいくのは靴下のままだと流石にヤバいか?裸足になるしかねえな」
「私が取って来るよ。元は私が言い出したことだしね」
 そう言って立ち上がり、ブランコに座っていた時に付いたほこりを手ではらう。揺れる金属音を手で押さえながら、そういえばね、と杠は俺に内緒話でもするかのような口ぶりで話し出す。
「さっきの千空くん、実験してる時と同じくらいキラキラしてたよ」
 悪戯をしでかした子供のような笑顔を向けて、杠はすべり台の方へ駆けて行った。唖然と聞いていた刹那、そりゃテメーもだろうが、と独りごちる。しかしまあ、軽やかなステップですべり台を登る杠を眺め、聞かれなくてもいいかと思い直した。
「はい、どーぞ」
「どーも」
 俺に靴を渡した杠は、再びブランコへ座りゆるく漕ぎ始める。杠が持ってきてくれた靴を履き直してるときに、どでけえ声が遠くから聞こえた。
「千空―!杠―!2人とも何をしているんだー!」
西日を浴びて大きく手を振る大樹。杠が手招きしてドタドタと小走りでやってくる。
「大樹くん惜しかったですなぁ。ちょっと前に千空くんがミラクルを起こしていたんだよ」
「何―!?もっと早く補習を終わらせていれば俺もその場に立ち会っていたというのに!!」
「奇跡じゃねえ。仮説を立て実証し、考察して再検証した結果だ」
「ワオ、なんか難しく言い直してる」
「つまり、2人は何をしていたんだ!?」
 杠が大樹にさっきまでの経緯を身振り手振りを加えて話す。己の言葉に大袈裟なくらいに反応する大樹相手だと、さぞ話すのが楽しいのだろう。杠は誇らしげに語っていた。
「そうなると……千空は今、千空が一番ほしいものが手に入るのか!千空は何がほしいんだ?」
「あ゙?あ゙―……」
 そういえば、欲しいものがあった気がする。思い出そうかとも考えたが、それをするのは何故だか野暮な気がしてやめた。欲しいものはいつだって自分の手で手に入れることができる。トライ&エラーで不可能を可能ににするのが自分の信じて来た道だったから。
「俺にそんなんはねえな。どっかのインチキ話に頼らなくても、欲しいもんはいつか手に入れてみせる」
「それってつまり、今欲しいものはないってこと?」
「なんだか勿体ないぞー!」
 疑問と不満の声が重なって空に溶けていく。溶けた先を見上げると、西日は薄くなり空は深い青へと徐々に変化していた。暗くなったためか、天上に夏の大三角が見えた。同じように空を見上げたのだろう。大樹が星を見つけて声を上げる。
「もうかなり暗いじゃないか!星も輝いているぞ!」
 東京の濁った空では、たくさんの星はみつけられない。だからこそ、一際輝く3つの星がすぐ目に入ることもある。
「おおー!あれは夏の大三角じゃないか?俺は昔、あの星をサンドイッチに見えると思っていたんだが、今もそんな風に見えるぞ!そう思うとお腹が空いてきたな!?」
「それさっき千空くんからも聞いたような気がしますなー、デジャヴかな。千空くんは今日の夜ご飯にサンドイッチを食べるんだって」
「それはいいなあ!俺もサンドイッチが食べたいぞ!」
「ククク、テメーはそうだったな」
 小学生の頃と変わらず空想しては腹を空かせる大樹に笑っていると、ねえねえ、と声がかかる。
「せっかくだし、今日は千空くん家で夜ご飯一緒に食べてもいい?千空くん」
「俺もご一緒してもいいか?千空」
 にこにこと笑う二人を見て、思い出した“欲しい”もの。
「俺はかまわねえが、テメーらの家で既にご飯が作られている、なんてことになってたりしねえか?」
 二人には見透かされていたのだろうか。どうしようもなく照れくさくなって、また素っ気ない返しをしてしまった。
「大丈夫です!まだ作ってないと思うから、すぐに連絡すればいけると思うよ」
「俺も今日は1人飯の予定だったからな。何も問題ないぞ!」
「……なら、帰り道のスーパーにでも寄って他のおかずも買うか。百夜の仕送り分じゃちと足りねえかもしねえ」
「むう、俺はたくさん食べすぎてしまうからな……」
「大丈夫だよ。私もなにか適当に作るね。キッチン借りてもいい?」
「かまわねえ」
 先に歩き出した二人を少しの間見つめて、小走りで追いかける。追い風に背中を押され、二人の隣に並んだ。
 今日はこれから二人と食卓を囲む。たったそれだけのことで、胸の奥が満ち足りていく。隣に並ぶ幼馴染達に対しての愛しさがゆらゆらと燃えていて、くすぐったいようなあたたかい気持ちになる。たまらなくなって、大小並んだ頭をコツンと2回小突いた。
「あいたっ」
「うわっ!?なんだ急に!ビックリしたぞー!」
「とっとと行くぞ、テメーらにはまだまだ付き合ってもらわなくちゃなんねえかんな」
 意地悪く笑ってみせると、大樹と杠は一瞬呆けた後に顔を見合わせて笑い出した。写し鏡のような2人に、また愛おしさが溢れて胸を熱くする。
「どこまでもついて行くぞ!千空!」
「ですな!でも無茶振りはほどほどにしてね、千空くん」
 二人の肯定の言葉を耳にして、これ以上ないくらいの熱いものが畳みかけて溢れかえった。

 杠が教えてくれた風の便りは、誰も真相を突き詰めていない些細な“作り話”なのだろう。四つ葉のクローバーが幸運をもたらすなんて科学的根拠はないし、黒猫が道を横切っても不幸なことなんて起きないのだ。

 それでも、今日はもっと幼馴染二人と一緒にいたいという小さな願いは、どうやら叶ったらしい。
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