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TOUKENRANBU


[赤い糸にまつわるエトセトラ]


◇赤い糸はほどけない

「清光みて、運命の赤い糸が見える薬もらったんだー」

主が無邪気に言って、俺の前で小さな瓶の蓋を開けて見せびらかす。
それって大丈夫なやつ?あんたが飲む前に俺が飲むからーーー、なんて制止をするまえにキュっと液体を飲み込む主。

「あまい……リンゴジュースみたいな味する」

そう言って、主は自分の左手の薬指をじっと見つめる。じっと目を凝らす主に、そんなのインチキに決まってるでしょ、と呆れていれば主は嬉しそうな声を上げた。

「少しずつ見えてきたかも!!清光!!清光の指みせて!!」

俺も、そんなに気になるならって、手を主の元へ差し出してやった。

「うんうん、清光の赤い糸見えるね。ちゃんと私の指に繋がってるかなー?」

主は、俺の薬指から床をたどって、それが自分の指に繋がっているのを確認して――

「えっ!?」

突然、驚きの声を上げた。

「なんか、すんごいぐるぐる巻きにされてるっていうか、糸っていうより鎖みたいになってるんだけど……」

主は俺を見上げて、唖然とした顔をしている。
――そりゃ、そうだよ。俺が、こよりみたいに撚って撚って撚りまくったんだから。

「……ねえ、清光、もしかしてたまに私の指すりすりしてたのって、この糸をこよってたってこと?」

主の声が、ちょっと怒ってるような、呆れてるような、でも少しだけ嬉しそうな響きを帯びる。
俺は口元を隠しながら、ふふっと笑ってみせた。

「……さあ、どうだろうね?」
「ずるい!!それなら清光の指にもぐるぐる巻かないとフェアじゃない!!」

主はそう言って俺の手を取ろうとするけれど、赤い糸には触れないみたいで、結局、もどかしそうに俺を見つめるだけ。
そうだろ? 俺みたいな刀剣男士にしかできないんだから、こういうことは。

「主の方はさ、俺に触れられてぐるぐる巻きになってるんだから、それでいいんじゃない?」
「やだ!清光も同じになって!」
「もうなってるけど?」

俺は、俺の指に巻き付いた赤い糸を軽く引っ張る。
主の指にぐるぐる巻いた糸が、俺の動きに合わせてきゅっと締まる。

「俺は最初から、ほどけるつもりなんてなかったしね?」

主は悔しいのか俺の胸元にぐりぐりと顔を埋める。

「ずるい……でも、いいや。清光のこと逃がさないもん」
「逃がさないもんはこっちのセリフ」

俺たちを繋ぐ赤い糸は、もはや切れるどころか、どこまでも強く、どこまでも確かに、固く結ばれていた。





◇赤い糸は、編まれる

これは、俺の主が赤い糸を“見つける”より、少し前の話――

***

「清光、なにしてるの?」

夜の本丸、灯りの落ちた部屋の片隅で俺は指をそっと動かしていた。
主が何気なくかけた言葉に、俺は少し肩を揺らして振り向く。

「ん?なにって……別に?」

わざとすっとぼけるけど、主の目はごまかせないみたいだ。
俺の左手の薬指に触れようとして――結局、何も掴めなくて、不思議そうに眉をひそめる。

「……なんか、清光が何かを撚ってたように見えたんだけど」
「気のせいじゃない?」
「気のせい、かなぁ?」

主は首を傾げながら、俺の手をじっと見つめる。
……主には見えない。俺にだけ見えるもの。
細くて、けれど絶対に途切れることのない「赤い糸」。

そう、それはただの一本の糸じゃない。
俺は、何度も何度も、それを撚って撚って――まるで編み物みたいに、太く、強く、形を変えてきた。
それは、俺が主を想うたびに、増えていくものだから。

「……ねえ、清光?」
「なに?」
「なんか、最近さ……私の左手の薬指が、あったかい気がするんだよね」

俺は、少し目を見開く。
やっぱり主には「見えない」。でも、感じてはいるんだ。
俺が何をしてきたか、きっと、無意識のうちに気づき始めてるんだ。

「……そりゃ、俺が毎晩すりすりしてるからじゃない?」

冗談めかして笑ってみせると、主は頬を染めて「もうっ」と小さく唇を尖らせる。
そんな表情を見ていると、俺の指先はまた、無意識に赤い糸を編もうとしてしまう。
もっと、強く。もっと、ほどけないように。

――どれだけ編み込んでも足りないくらい、俺は主を繋ぎとめたいんだから。

***

そして、翌日。

「清光みて、運命の赤い糸が見える薬もらったんだー」

嬉しそうに言う主の言葉に、俺は小さく息をのんだ。
――さて、俺がどれだけ撚ってきたか、主はどんな顔して見るのかな?
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