TOUKENRANBU
[懐メロ]
本丸の広間で、夕方の柔らかな光が差し込む中、主はソファに腰を下ろし、楽しそうにテレビを見つめていた。
番組は「歌詞が心に刺さる歌特集」を扱っている。彼女の表情はどこか懐かしそうで、目がキラキラと輝いている。その姿に気づいた加州清光が、手元の手入れ道具を片付けながら声をかけた。
「主、なんか楽しそうだね」
彼女は顔を上げて、嬉しそうに答えた。
「これ、私が小さい頃によく聴いてた曲なの」
主が目を輝かせながらテレビに向かって声を上げる。彼女のその反応が面白くて、清光はくすっと笑った。
「へぇ、こんな曲聴いてたんだ。あんたが小さい頃ってどんな感じだったの?想像つかないけど」
清光の問いに、主は少し照れたように笑って答える。
「そんな大したことないよ。普通の子供。家でお母さんが流してた曲が多くて、私も覚えちゃったんだよね」
その言葉を聞いて、清光は彼女の横顔をじっと見つめた。懐かしそうに目を細め、過去を思い返している様子が微笑ましい。
「ふーん、そっか。で、次はどんな曲?」
画面が切り替わり、別の曲が流れ出すと、主がまた声を上げた。
「あ、これ学生の時にめっちゃ流行ってたやつ!懐かしいなぁ」
彼女の声は弾んでいて、嬉しそうだった。清光はその様子を見て、思わず微笑んだ。
「学生時代か……あんたってさ、どんな学生だったの?やっぱり真面目な優等生?」
「うーん、どうだろう。普通に勉強してたけど、友達と遊ぶのも大好きだったよ。教室でこの曲をみんなで歌ってたり、授業中に先生に怒られたり……懐かしいなぁ」
彼女の話に耳を傾けながら、清光は自然と彼女の横顔に目を向けた。楽しそうに笑い、思い出を語るその表情は、とても穏やかで愛おしい。
清光はふと、自分がこの本丸に来る前、主がどんな人生を歩んできたのかを想像してみた。彼女には彼女の過去があり、その中で出会った人たちや経験があった。それが積み重なって、今こうして自分の隣で笑っている。
「……いい顔してんじゃん」
清光が思わず口にすると、主が振り向いた。
「え?何か言った?」
「なんでもないよ。あんたが楽しそうで、こっちも嬉しいってだけ」
軽く流すように言いながらも、清光の声にはどこか優しい響きがあった。主は少し不思議そうに彼を見つめた後、再びテレビに目を戻した。
「清光は、こういう歌とか聞いたことあるの?」
不意に振られた質問に、清光は少し考え込んだ。
「俺が知ってる曲って、主が教えてくれる歌ばっかだよ。あんたが楽しそうに歌ってるの、俺、結構覚えてるから」
その言葉に、主は驚いたように目を丸くした。
「そうなの?でも私、歌うの下手だよ?」
清光は笑いながら首を振った。
「別に上手い下手じゃないんだよ。あんたが楽しそうに歌ってるの、俺、好きなんだ」
その言葉に、主の頬が少し赤らんだ。
「清光って、たまにそういうこと言うからズルいよね」
「なにそれ、別にズルくないだろ。俺の本心だし」
清光は微笑みながら、また彼女の横顔に視線を戻した。音楽番組は次々と曲を流し続けるが、清光にとってはそれよりも、彼女の楽しそうな表情の方が何倍も価値があるものだった。
「主とこうして一緒に過ごす時間、いいな」
心の中でそっと呟き、清光は自分の中に広がる温かな幸せを感じていた。
「待って、改めて聴くと今の曲すごく良いじゃん。清光にいつも思ってることが、そのまま歌詞に表現されてる」
その言葉に、清光は少し首をかしげた。
「俺にいつも思ってること?どんな歌なの?」
彼女が指差したテレビ画面には、大きな文字で『三日月』と表示されていた。その瞬間、清光の表情が微妙に曇る。
「三日月?俺、三日月宗近じゃなくて加州清光なんだけど」
彼は少し不満げに画面を見つめた。主が心底楽しんでいる様子に少し苛立ちつつも、気になって仕方がない。
「この歌、そんなにいいの?どのへんが?」
清光は歩み寄りながら問いかけると、彼女は画面に映る歌詞の一部を指差した。
「特にね、『繋がっているからね』『愛してるからね』ってところが…私が清光に思ってる気持ちそのままなんだ」
その言葉に、清光は一瞬動きを止めた。彼の瞳が彼女の横顔を捕らえたまま、動かない。
「ふーん、繋がってる、……ね」
軽く相槌を打ちながらも、心の中ではそれをどう受け止めればいいのかわからなかった。
彼は肩をドンッと軽くぶつけ、視線をテレビ画面に戻した。
「俺へのラブソングなら、もっと俺っぽいタイトルでもいいんじゃないの?」
冗談めかして言ったつもりだったが、主は小さく笑いながら答えた。
「タイトルなんて関係ないよ。私の中では、これは清光のための歌だから」
その真っ直ぐな言葉に、清光は一瞬言葉を失った。普段の軽口とは違う、彼女の真剣な表情が胸にじんわりと染み込んでくる。
「……ふーん、そう」
視線を逸らしながら、彼は小さく呟いた。
その時、広間の窓からふわりと桜の花びらが舞い込んできた。柔らかな風に乗って花びらが漂う様子に、清光は目を細める。彼の胸の中に、暖かい気持ちが広がっていった。
「ありがと、主」
小さな声でそう言いながら、清光は隣に腰を下ろした。彼女の手に触れそうなほど近くに座り、少し照れくさそうに目をそらす。
主は彼の横顔を見つめ、そっと微笑んだ。
「こちらこそ、清光。いつもありがとう」
その言葉に、清光は思わず顔を向けた。そして、彼女の優しい笑顔に触れると、桜の花びらが再びふわりと舞う中で、静かに笑った。
「まったく、こういうのは不意打ちなんだよな……」
苦笑混じりに言いながらも、清光の頬は少し赤らんでいた。
本丸の広間は、桜の香りと暖かな空気に包まれ、二人の心が静かに繋がっていくようだった。