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TOUKENRANBU

[清さにSS詰め]


◇門限戦争


冬の寒空の下、刀剣男士たちが日々の任務を終え、本丸の灯りが暖かく揺らめく中、一人の審神者と初期刀である加州清光が廊下で言い合いをしていた。

「やだやだ! いくら初期刀でも私の門限に口出しする権利ないでしょ! 日付変わらなかったらいいじゃん!」

若い審神者が拳を握り締めながら声を張り上げる。彼女の瞳はまるで子どもが駄菓子をねだる時のようにキラキラしているが、口調は完全に反抗期のそれだ。

「はぁ~? 小娘のくせになに生意気な口きいてんの?」

加州清光はため息交じりに前髪をかきあげる。彼の紅い瞳は冷たさを含んでいたが、その中にはどこか心配する色が見え隠れしていた。

「清光は推定400歳越えのジジイのくせに!」
「ジジイ言うな!」

審神者は一歩も引かない。むしろ言葉を大げさに投げつけ、清光を煽る。清光は目を見開き、肩を震わせる。手にしていた襟巻きをパンと叩きつける仕草がどこかコミカルだ。

「あんた、刀を持った神様相手にそんな失礼なこと言っていいと思ってるの? しかも俺は、あんたの事が心配で言ってんのに!」
「ホントに心配してる?!子守が面倒だからじゃないの!」

審神者が片眉を上げぷんすこと頬を膨らませる。

「そうだよ! 俺はあんたの恋人だし!」

清光はついに口走った。まるで子どものように顔を赤らめながら、ぷいと顔をそむける。
一瞬、廊下に静寂が訪れる。だがそれも束の間だった。

「……清光、今なんて言ったの?」

審神者が目を細めて清光をじっと見つめる。

「……あんたのことが心配な恋人だって!」

清光はついに観念したかのように叫ぶ。顔は赤く、声は少し震えている。
審神者は一瞬きょとんとした後、口元を緩めるとニヤリと笑った。

「ふーん。じゃあ、その『恋人』にお願いしたら門限、緩めてくれる?」
「だーかーら! そういう話じゃない!」

清光は頭を抱える。どうしてこんな小娘と恋仲まで発展してしまったのか、過去の自分に問いただしたい気分だった。

「いい? 清光。私は審神者。清光は初期刀。どっちが上かっていうと、そりゃ私でしょ?」

審神者は腕を組み、勝ち誇ったように微笑む。

「はぁ……それで無事に帰ってこなかったらどうすんの? あんた、俺に心配かけて楽しい?」

清光は怒りを抑えながらも、真剣な声で問いかける。その表情には、ほんの少し寂しさも滲んでいた。
その言葉に、審神者は少しだけ口ごもる。そして、少しだけ目をそらしながら、ぽつりと呟いた。

「……別に楽しくないけど」
「なら、聞き分けよくしてくれよ。俺だって、あんたが元気に帰ってくるのが一番いいんだからさ」

清光は小さく息をつくと、彼女の頭にそっと手を置く。思わず審神者は顔を赤らめた。

「……じゃあ、今夜だけは早く帰る。でも、日付が変わる前なら次は許してよね」

そう言って、彼女は不服そうに唇を尖らせ、自分の部屋へ入っていった。

「やれやれ、ほんと面倒な主だよ、あんたは」

清光は肩をすくめながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。





◇ギャグセンス皆無


本丸の台所に響くのは、ため息混じりの審神者の声だった。

「……生姜がない。これじゃ角煮作れないじゃん」

冷蔵庫を覗き込んで肩を落とす審神者。数日前から楽しみにしていた角煮を作るための材料が、最後の最後で欠けていることに気づいたのだ。
その後ろで頬杖をつきながら座っていた加州清光が、唐突に口を開いた。

「それはしょうがないねー」
「……」

審神者は冷蔵庫から顔を上げ、静かに清光を振り返った。彼の口元には薄い笑みが浮かんでいる。

「清光、流石に寒い」

彼女が呆れたように言うと、清光は椅子から軽やかに立ち上がり、ひらりと手を広げて答えた。

「寒いの? あたためてあげよっか」
「……もしかして清光、それが目的でいつも親父ギャグ言ってるの?」

審神者は眉を寄せて問い詰める。呆れた表情だが、頬が少し赤くなっているのを隠せない。
清光はにやりと笑い、彼女に一歩近づく。

「バレた?」
「やっぱりかー!」

審神者は思わず頭を抱えた。清光はそんな彼女を見ながら楽しげに続ける。

「だってさ、親父ギャグ一つであんたがこうやって反応してくれるし、ついでに距離も縮まるじゃん? 便利だと思わない?」
「便利って言い方! それに寒いギャグ聞かされるこっちの身にもなってよ!」

彼女は真剣に抗議するが、清光は全く聞く耳を持たない様子だった。

「でもほら、あんたも嫌いじゃないでしょ?」

そう言って、彼は審神者の目をじっと見つめた。

「……べ、別に好きじゃないけど!」

審神者が顔をそむける。耳まで赤くなっているのを見て、清光はさらに楽しそうに笑った。

「はいはい、ツンデレな主様ですこと。でも、ギャグが寒かったのは本当なんだろ?」

清光が肩をすくめながら言う。

「そうだよ! ほんと、なんでそんなギャグ思いつくかな……」

審神者は再びため息をつくが、清光は意に介さず、彼女の目を見て優しく笑った。

「じゃあ、もっと寒くならないうちに、一緒に買い物行こっか? 生姜、買いにさ」
「……はぁ、しょうがないなぁ」

そう言いながらも、審神者は小さく笑みを浮かべた。
清光はその様子を満足げに眺めながら、彼女の肩を軽く叩いた。

「それは俺のセリフね」





◇誕生日プレゼント


本丸の縁側に座りながら、審神者はぼんやりと夕暮れを眺めていた。傍らには初期刀の加州清光。清光は微かに紅く染まる空を見上げながら、ふと口を開いた。

「ねえ、主」
「ん?」
「明日の誕生日、何がほしい?」

その問いに、審神者は一瞬考え込むそぶりを見せたが、すぐに笑顔で答えた。

「清光がくれるものならなんでも嬉しいよ」

その言葉を聞いた瞬間、清光の目がキラリと輝く。そして彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、体を少し乗り出して言った。

「そう? じゃあ、明日から主に毎日『おはよう』と『おやすみ』のチューするね」
「……え?」

審神者の笑顔が一瞬固まった。その後、彼女はなんとか笑顔を保ちながらも、どうしても隠しきれない迷惑そうな表情が顔に出てしまう。
清光はそれを見逃すはずもなかった。

「……何その顔」
「えっ? な、なんのこと?」

審神者は慌てて首を振り、必死に作り笑いを浮かべる。

「いやいやいや、絶対今ちょっと迷惑そうだったでしょ?」

清光は鋭く詰め寄り、彼女の顔を覗き込む。その瞳にはじわりとした不満と、どこか面白がっている様子が同居していた。

「そんなことないよ! 嬉しいよ! ……ただ、ちょっとびっくりしただけで!」

審神者は笑顔をキープしつつ、必死に弁解する。

「ほんとに? 嬉しいのにその顔?」

清光は腕を組んで疑いの目を向ける。その表情が少しムッとしているようにも見えるが、唇には微かに笑みが残っている。

「ほ、ほんとだってば!」

審神者はさらに苦しい言い訳を続けるが、清光はじっと彼女を見つめてため息をついた。

「まあいいけどさ。そんなに迷惑そうな顔されると、俺だって傷つくんだからね」

清光は頬を膨らませて、あからさまに不貞腐れた態度を見せる。

「ごめんごめん! 清光がしてくれることなら嬉しいんだけど……でも、その、毎日はちょっと……ね?」

審神者はなんとか彼を宥めようと、手を合わせて謝る。
清光は少し考えるふりをしたあと、仕方ないなとばかりに肩をすくめて言った。

「わかったよ。じゃあ、おはようかおやすみ、どっちかだけにしてあげる」
「……それでも十分多い気がするけど」

審神者は苦笑しながら呟いたが、清光は聞かなかったことにした。

「ま、明日になったらちゃんと覚悟しといてよね、主」

清光は満足げに笑い、空を見上げた。その横顔には、どこか本気で楽しみにしているような色が浮かんでいた。
一方で、審神者は「明日どうやって逃げようか……」と心の中で悩み始めるのだった。





◇大切なだけ


本丸の中庭、審神者が庭の掃除をしている様子を、加州清光と大和守安定が少し離れた縁側から眺めていた。清光はいつも通り髪をいじりながら、目線は完全に審神者に釘付けだった。

「あー、あの箒持ってる姿もかわいいわー」

清光がぽつりと呟く。

「ほんと、主のこと好きだよね、清光」

隣にいた安定が、ちょっと呆れたような声で笑う。

「当たり前じゃん。俺の主だよ?そりゃ大切にするでしょ」

清光はさらっと答えるが、その声には少し熱がこもっている。
安定はそんな清光をじっと見つめ、ふと面白そうなことを思いついた。

「ねえ、清光ってさ」
「ん? なに?」
「主と話した誰かに対して、『今日あんたは俺の主と〇回目が合って、×回話して、△回主に微笑みかけられたよね。もう消すしかない』とか言いそうだよね」
「……はぁ!? 言わねーし!!」

清光は顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。

「俺、そんなヤンデレじゃねーし! 誰がそんなストーカーみたいなことするか!」
「でもさ、清光なら本気で言いそうなんだよね。だってほら、主のことずーっと見てるじゃん。記録くらいしててもおかしくないって思うよ?」

安定は腕を組みながら、にやにやと笑っている。

「俺はただ、主が危なくないかとか、ちゃんと幸せそうかとか、そういうのを見守ってるだけで!」

清光は必死に否定するが、どこか焦っている様子が見える。

「ふーん。でもさっきも『かわいい』とか言ってたよね? それ、主本人が聞いたらどう思うかな?」

安定が挑発するような口調で言うと、清光は一瞬動きを止めた。そして慌てて周りを見回す。

「……聞こえてないよな?」

清光が安堵のため息をつくと、安定はさらに追い打ちをかけるように言った。

「清光、ほんとに隠しきれると思う? 主も薄々気づいてるんじゃないの?」
「もういい! お前、今日は主と話すの禁止な!」

清光は顔を真っ赤にして、安定に背を向ける。

「ほら、そういうとこがヤンデレっぽいって言ってるんだよ」

安定が肩を揺らして笑うと、清光は一瞬振り返り、手袋を叩きつけるような仕草をして見せた。

「俺はただ、主が好きなだけだっつーの! 安定も変なこと言って主を困らせたら……絶対許さないから!」

清光は捨て台詞を吐くと、足早に審神者のほうへ向かって行った。

「やっぱりヤンデレ気味だよね」

安定は笑いを堪えながらそう呟き、縁側に寝転んだ。
一方、清光は主の近くでなんとか好感度を下げまいと、いつもの調子で笑顔を浮かべながら話しかけているのだった。





◇持病が発症しました


本丸の縁側で審神者は肩を落として呟いた。

「清光が今日ずっと離れないんだけど」

その言葉に反応した加州清光は、背後から彼女をしっかりと抱きしめたまま、小さく息をついて答えた。

「持病のメンヘラが発症しました」
「……清光、それ冗談だよね?」

審神者は苦笑いを浮かべながら振り返るが、清光は真顔で首を振る。

「冗談じゃないし。主が俺を少しでも寂しくさせるから、こうなってるの」
「いやいや、今日は普通に仕事してただけでしょ?」

審神者は反論するが、清光はさらにぎゅっと抱きしめる力を強めた。

「ほら、今も言い訳ばっかり。これだから持病が悪化するんだって」
「……ちょっと待って、主ずっとぎゅーされてるんだけど」

審神者はますます困った顔になりながら、体をどうにか動かそうとする。しかし清光は全く放そうとしない。

「持病のメンヘラが発症しています」

清光は言葉を繰り返しながら、さらに腕の力を込める。その声はどこか甘えた響きを帯びていた。

「清光、苦しいからちょっと締め付け緩めてくれると助かるんだけど」

審神者が半ば懇願するように言うと、清光はにっこりと笑った。

「緩めるわけないでしょ。こうやってずっと主を抱きしめてたいんだから」
「えええ……」

審神者は完全に脱力し、諦めたように溜め息をつく。

「だってさ、主が他の刀と楽しそうにしてるの見てたら、どうしてもこうしたくなるんだよ。俺だけの主でいてほしいって思っちゃうし」

清光の声は普段の軽さを保ちながらも、どこか本音が滲んでいる。

「別に清光のこと嫌いなわけじゃないんだから、そんなに気にしなくてもいいのに」

審神者は呆れたように言いながら、少しだけ彼の腕に触れる。

「俺の主がそう言うの、めちゃくちゃ嬉しいんだけどね。でも、言葉だけじゃ足りないから……こうやって確かめたいの」

清光は優しく笑いながら、さらに審神者に顔を近づける。

「……でもやっぱり苦しいから、そろそろ緩めてくれると嬉しいな」

審神者が再び訴えると、清光は少しだけ考え込むふりをしてから言った。

「うーん、苦しそうな主もかわいいけど……まあ、仕方ないか」

そう言って、ほんの少しだけ腕の力を緩める清光。

「ちょっとだけ緩んだ……ありがとう、清光」

審神者が安堵の息をつくと、清光は耳元でささやいた。

「でも、これで満足だなんて思わないでよね。俺、主が逃げられないくらい愛してるんだから」

審神者は苦笑しながらも、なんとなく清光の気持ちの重さが心地よく思えてしまう自分に気づき、少しだけ顔を赤くしたのだった。





◇あなたがもらってくれるから


本丸の広間で、審神者は座布団に寝そべりながら、ぐだぐだと過ごしていた。遠くから聞こえる歌仙の叱責もどこ吹く風、彼女の手元にはお茶と菓子があるだけだ。
そこへ現れた加州清光は、呆れた顔で腕を組み、審神者を見下ろした。

「そんなだらけてていいの? 歌仙に怒られても知らないよ」
「いいのー」

審神者は顔を上げることすらせず、力なく答える。清光は思わず額に手を当て、大きなため息をついた。

「はぁ……そんなんじゃお嫁の貰い手が俺くらいしかいないんだからね」

それを聞いた審神者は、ついに体を起こし、清光をじっと見つめた。

「清光がもらってくれるなら問題ないよ」
「えっ」

清光は一瞬固まった。まるで動きを忘れたかのように、目をぱちぱちと瞬かせている。
審神者はにっこり笑いながら言葉を続けた。

「だって、清光がもらってくれるんでしょ?」

その言葉に、清光の顔はみるみる赤くなり、肩がびくっと震える。そして、声が裏返りそうになりながらも、精一杯返事をした。

「ウ、ウン!!!!ソウダネ」
「ふふ、ありがとう。じゃあ私、清光にお嫁に行くね」

審神者は軽く冗談めかして言ったが、清光の耳は完全にそれを真剣に受け取っていた。

「え、待って待って! 本当にそれでいいの? 他にもっと立派なやつとか、もっと強いやつとか、いるかもしれないよ?」

清光は慌てて手を振りながら、どこか不安そうな顔をする。

「うーん……でも、清光みたいにかわいくて、主を大事にしてくれる人はいないと思うなあ」

審神者は首を傾げながら、微笑んで言った。

「か、かわいいとか、そんなんじゃなくて!」

清光はさらに真っ赤になりながら、何か言いたげにもじもじと視線を彷徨わせた。

「じゃあ清光、これからも主をずっと大事にしてくれる?」

審神者が真剣な目で問いかけると、清光は一瞬戸惑った後、きっぱりと頷いた。

「もちろん。俺が主を守るし、幸せにするって決めてるから!」

その言葉に満足したように微笑む審神者。そして、照れ隠しに後ろを向いてぶつぶつ言いながら部屋を出て行く清光の背中を見送りながら、彼女はそっと呟いた。

「やっぱり、清光は最高だなぁ」

その言葉が清光の耳に届いたかどうかは分からないけれど、彼の赤い耳がそれを証明しているようだった。
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