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TOUKENRANBU

[清さにSS詰め2]


『正しい使用方法で』

現代遠征に出ると、俺はつい店を見て回りたくなる。
主の時代の物はどれも俺にとって新鮮で、妙に惹かれるんだよな。だから、任務が終わった後の自由時間は、俺にとって一種の楽しみ。

今日も主と一緒にドの付くディスカウントストアに来た。
任務のついでに立ち寄ったわけだけど、目に映る商品がどれもこれも面白いものばかりだ。スマホっていう小さな板で商品の詳細を調べる主を横目に、俺は陳列棚を眺めていた。

「主、これ何?」
「あ、それ?ペットカメラだって。家にいるペットの様子がスマホで見られるんだよ」
「へぇ……」

主が無造作に答える横で、俺は商品パッケージをじっと見つめる。
ペットカメラか……出掛けてても主の様子が分かるってこと?いや、普通に便利すぎだろ。俺たちが戦場に出ている間も、主の安全を確認できるってことだよな。
いいじゃん、これ。ちょっと欲しいかも。

「主、これ買ってみない?」
「え?うちはペットいないから意味ないでしょ?」
「んー、まぁそうだけど……ほら、何かに使えるかもだし?」
「何かって何?」
「秘密」

主は不思議そうな顔をしながらも深く追及してこない。それがまた可愛いんだよなぁ、うちの主。

次に主が足を止めたのは、雑貨のコーナーだった。
俺もついていくと、そこに「人間用の首輪」という不思議な商品が並んでいた。俺は思わず眉を上げる。

「主、これも気になる。何これ?」
「え、ああ……最近の流行ってやつかな?こうやって首に、チョーカみたいに付けるのかな?まぁそういうオシャレみたいなものか……」
「人間も好きな人は飼いたいんだ」
「えっ?」
「いや、こっちの話」

人間用の首輪を手に取て俺に渡す主を見て、俺はちょっと笑いをこらえた。

「どんなものか見てみる?」
「付けてもいいの?」
「清光がそうしたいなら。私には似合わなさそうだけど、清光なら似合うかも」

俺が首輪を付けたいのは、自分自身じゃなくて主になんだけどな。
それにしてもこの時代、本当に不思議な物が多い。そんなことを考えながら、俺はふと呟いた。

「主の時代って便利だよなー」

主はスマホを操作しながら「うん」と相槌を打ったが、その顔は少し困惑しているように見えた。
どうやら俺の言葉の意味を分かってないらしい。ま、それでいいか。

俺が店内を見て回る理由も、こうやって主と一緒にいる時間が楽しいからなんだよって言ったら、なんて返ってくるかな。……今は、これ以上言わなくていいか。

主の時代には、自分の気持ちを伝える“便利”な道具もあったりするのかな。





『気づいてよ』

夕方の庭。
冬の冷たい風が吹き抜け、空気は澄んでいるのに、清光の表情だけがどこか曇っていた。

「本当、危なっかしくて見てられないんだけど」
鋭い声に、私は肩をすくめた。

「ごめんね。でも、大したことじゃないよ? 転びそうになっただけだし――」
「だからそれが問題なんだって!」

清光が一歩こちらに詰め寄ってくる。
普段なら、彼のからかうような笑顔や柔らかな声が浮かぶ場面なのに、今日は違った。

「あんたさ、どれだけ鈍いの?」
「え?」

その言葉に、私は目を瞬かせる。彼の手が、軽く私の額を小突いた。

「毎回言わせないでよ。もっと自分のことも周りのことも気をつけなって」
「そんなに怒らなくても…」

どうしてそこまで怒っているのか分からない私は、彼をなだめようと手を伸ばす。
けれど、その手を振り払うように清光は言葉を続けた。

「…あんた、俺がいつも優しいからってさ、調子に乗ってるんじゃないの?」
「調子に…?」

清光の目は真っ直ぐだった。
普段の彼とは違う、どこか鋭い光を宿していて、私はその視線にすくんでしまう。

「いい加減、イライラしてくるんだよ。俺だって、怒るときは怒るんだからな」

そう言い捨てると、清光は踵を返して歩き出した。

「清光、待って――」

呼び止めても、振り向いてくれなかった。その背中は、普段の清光らしからぬ冷たさを纏っていて、胸の奥がチクリと痛んだ。


夜。私は布団の中でごろごろと転がりながら、夕方の清光の言葉を思い返していた。

「鈍いって…どういうことなんだろう」

考えても考えても分からない。
清光は普段、私に対していつも優しい。甘やかしてくれるし、少しくらいの失敗だって笑って流してくれる。
それなのに、今日はまるで別人みたいだった。

「怒らせるようなこと、したのかな…?」

自問自答するけれど、心当たりはない。ただ、清光の最後の言葉が胸の中で何度も反響する。

「あんた、俺がいつも優しいからって――」

そこに何か意味があるのだろうか。彼はただ心配してくれているだけ? それとも…?

「分からないよ、清光」

私は小さくつぶやく。けれど、心の中に芽生えたモヤモヤは、きっと私が気づくべき何かを示しているのかもしれない。

「…明日、ちゃんと話してみよう」

そう決めて目を閉じる。けれど、清光の寂しそうな背中が、いつまでも頭から離れなかった。





『ガワの裏側』

清光の部屋に顔を出すと、机に座ったまま爪をいじるその姿が目に入った。

「清光、ちょっと万屋に用事があるんだけど、明日一緒に……」

万屋に誘おうと傍に近づくと、こっちを見ることなくぶっきらぼうに言った。

「は?だる……」

そんな返事が返ってくるとは思っていなかった。
ちょっと胸がチクリとしたけれど、まあいいかと、適当にあしらわれたことにして部屋を後にした。

翌朝、ほかの刀を誘い、出発の準備を進めていると、遠くから急ぎ足でこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには目を疑うほどお洒落をした清光が立っていた。
いつも以上にセットされた髪に、ぴたりと決まった服装。表情は不機嫌そうだが、その姿は完璧だった。

「……なんで出発してんの?」
「え、だって清光、行きたくないって言ってたから。」
「はぁ!?俺に護衛しろって言ったの、あんただろ!」

怒りに満ちた声にたじろぎながらも、冷静を装おうとした。

「護衛なんて頼んでないよ。ただ買い物ついてきてって言っただけ……」
「護衛でしょ、それ!大事な主を守るのは俺の役目だろ!」

その言葉に含まれた熱が一瞬で胸に響いた。清光は必死に目を逸らしているが、その頬はわずかに赤い。

「じゃあ……来る?」
「来るも何も、最初からそのつもりだったし!」

清光はそう言いながら腕を組んで前を歩き始めた。
けれどその背中が妙に頼もしくて、そして少しだけ可愛らしく見えた。
普段ツンとした態度ばかり取るけれど、こうやって不器用に大切にしてくれるその姿が、やっぱり好きだと思った。





『社交辞令は要らない』

審神者室の空気は、いつもよりどこかピリついていた。
夕陽が部屋の窓から差し込む中、加州清光はふてくされた顔で腕を組み、視線を外している。

「主さー」
「なに?」
「告ってきた奴、ふったじゃん」

審神者は加州を見上げながら、小さくうなずいた。

「ああ、あの子のことね。ちゃんと断ったよ」
「『気持ちは嬉しいですが、付き合ってる人がいるので』って言ったでしょ」

加州は声をひそめることもなく、すぐ横にいる審神者に詰め寄る。

「そうだよ。それが普通じゃない?」

主のあっさりした返答に、加州は眉をひそめた。

「無理だった。かなり無理だった」
「……は?」

思わず噴き出しそうになるのを堪えながら、審神者は加州を見返す。
その目はいたずらっぽく光っていたが、加州はそんな態度に構わず言葉を続ける。

「『気持ちは嬉しい』なんて、何さらっと言ってんの? 俺以外の誰かの気持ちが嬉しいってどういうこと?」
「いやいや、それは社交辞令だって。適当に断ると変な誤解されるかもしれないしさ」
「無理」
「心狭いな」
「無理」
「だから狭いってば」
「夜覚えてろよ」

加州は低く吐き捨てるように言い放ち、踵を返して審神者室を出ていった。

夜、部屋に戻ると、何やらいつもより部屋が暗く感じる。明かりをつける手前で、後ろからひんやりとした指先が首筋に触れた。

「ひっ!」
「あーるーじー」

耳元で囁く声に、思わず体がすくむ。振り返ると、加州がにやりと笑っていた。

「な、何するの」
「別になにも。ただ、心の狭い俺が主にちょーっと用事があるだけ」
「なんの……用事?」
「さっきの続き。それよか主、他の奴に気持ちがどうとか、優しいとか言うの、禁止だから」
「禁止って……そんなの無理でしょ」

言い返すも、加州の目は真剣だった。普段の軽口とは違う、そのまっすぐな眼差しに、審神者の心臓が妙に早くなる。

「無理じゃない。主は俺のもんなんだから、他の誰かに微笑むの、全部ダメ」
「……独占欲強すぎない?」
「強くてもいいでしょ。俺、主が好きなんだから」

さらりと言う加州に、審神者は言葉を失う。けれど、その次の瞬間、加州の表情がふっと柔らかくなる。

「ふーん、そういう顔しちゃうんだ。なら今回は許してあげる」
「許すも何も、加州に決められることじゃないし」
「いいじゃん細かいことは。俺は主が好き、だから独占欲で主を縛ってもいい、そういうことだから」

それだけ言うと、加州はそっと審神者の手を取り、甘えるように握りしめた。

「だからさ、今日はもうずっと俺のことだけ見てよ、主」

彼の熱が孕んだ瞳が、審神者の心を揺らした。
誰よりもまっすぐで、少し不器用な加州清光。その独占欲も、愛情も、全部ひっくるめて悪くないと思う自分がいるのを、審神者は認めざるを得なかった。





『神域』

「加州くん、神域ってどんな感じ?」

主の言葉は、なんてことのない興味本位だったのだろう。だが、それは清光の心に妙に響いてしまった。

「神域かぁ…俺の力がある場所ってこと?」
「うん。加州くんの神域、どんな感じなのか見てみたくて」

清光は一瞬だけ考え込む仕草を見せた後、「いいよ」と軽く微笑む。主の無邪気な瞳を前に、特に断る理由もない。自分の領域に人を招くなんて滅多にないことだけど、この人なら――と、どこかで確信していた。

「じゃあ、手、出して」

差し出された主の手を取ると、ふわりと視界が歪み、気がつけば清光の神域へと足を踏み入れていた。
目の前には、揺れる薄紅色の花びらが舞い散る美しい庭園が広がっている。静寂の中に風の音と遠く水の流れる音だけが響き、穏やかでどこか非現実的な空間だ。

「……綺麗」

ぽつりと漏らした主の声に、清光は誇らしさを覚えつつもどこかそわそわしていた。

「まあね。俺のセンス、悪くないでしょ?」

嬉しそうに歩き回る主の姿を眺めながら、胸の奥に広がる温かさを感じていた。その一方で、心の隅に潜む感情がじわじわと広がっていくのを抑えきれない。

――この空間は、俺のものだ。誰にも侵されない、俺だけの領域。
でも、いま目の前で笑っているのは、主――「あんた」だけだ。
自分だけを頼って、無邪気にこの場所を楽しんでいる姿が、やけに刺さる。

「……どうしよっかな」

気づけば、清光はぼそりと呟いていた。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」

言葉を濁しつつも、心の中では決断していた。
この神域に主を閉じ込めてしまえば、永遠に自分のものになるんじゃないか――そんな考えが、どうしようもなく魅力的に思えてしまったのだ。
清光は小さく息を吐くと、周囲に意識を巡らせ、神域を閉ざす準備を進めた。

「……加州くん?」

突然、空気が変わったことに気づいたのか、主が不安そうに清光を見つめる。

「ん?どうしたの?」
「なんか、帰り道が分かんなくなったような……?」
「……ああ、それね」

清光は一歩近づき、主の目をじっと見つめた。その瞳にはいつもの柔らかな光はなく、少しだけ揺らぎを見せる。

「もしかしたら、俺……抜け方、分かんなくなっちゃったかも」
「え……?」

主の表情が曇る。その顔を見るのは初めてのような気がして、心が妙にざわついた。

――このまま、この人をずっと閉じ込めてしまえば。

そんな考えに囚われながらも、焦燥する主の姿を目の当たりにして、ふと冷静さを取り戻した。

「……なんてね」

清光は急に口元に笑みを浮かべた。

「これで懲りた?神域なんて軽々しく見たいとか言わないほうがいいよ」

冗談めかして、そう付け加えると、空気はすぐに元通りになる。

「……もう、驚かせないでよ」

涙ぐみながらも少し怒ったような声に、清光は肩をすくめた。

「ごめんごめん。俺の神域に入ったのが、どれだけ特別なことか分かってもらえたら、それでいいよ」

そう言いながら、心の奥底では複雑な感情を抱えたままだった。主の存在は、いつだって清光の理性を揺さぶる。

「でも……また見てみたいな、加州くんの神域」

その一言に、清光は思わず目を見開く。

「……懲りてないじゃん」

困ったように笑うその顔には、ほんの少しの切なさが混ざっていた。





『危険な相手』

冷たい冬の風が、障子の隙間から忍び込んでくる。
ふっと立ち上がり、風を防ぐために障子を閉じようとした瞬間、背後から声が聞こえた。

「主」

振り返ると、加州清光が立っていた。片手で髪を掻き上げながら、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。
だが、その瞳の奥には鋭い光が宿っていて、いつもの軽口だけで終わらないことを示唆していた。

「どうしたの、清光?こんな時間に」
「別に、大した理由じゃないよ。ただ、言っておきたいことがあってさ」

彼は近づいてくる。その距離が縮まるごとに、胸がざわついた。まるで捕らえられた小動物のように、体が動けなくなる。

「主は俺の初期刀でしょ?」

いつもはどこか軽く言われるその言葉が、今日はやけに重く響く。清光の瞳はまっすぐこちらを捉え、視線を逸らす隙を与えない。

「だから、どんな奴からも、何があっても守る。それが俺の役目だし、誇りでもある」

清光はそう言うと、一瞬だけ表情を緩めた。その言葉に嘘はなく、そこには確固たる信念が感じられた。
だが、次に彼が口にした言葉は、思いもよらないものだった。

「でもさ、それだけじゃないんだよね」

心臓が跳ねた。その低く落ち着いた声は、どこか危険な香りを帯びている。

「俺はあんたに惚れてる。だから、他の誰よりも危険な相手でもあること、覚えておいてね」

一歩、また一歩。清光は距離を詰める。その瞳に宿る情熱は、こちらを飲み込むかのようだ。

「守るって言ったけどさ、もし俺があんたを欲しがりすぎて苦しめたら、その時はどうする?それでも、俺を傍に置いてくれる?」

息が詰まる。清光の真剣な瞳と、どこか挑発的な口調。そのすべてが、まるで試されているようだった。
彼が手を伸ばし、そっとこちらの頬に触れる。その温かさに、思わず目を閉じてしまう。

「……俺が言いたいのはそれだけ。あんたにとって俺がどういう存在かなんて、俺には決められないけどさ」

清光はふっと微笑む。その表情はどこか寂しげで、それでいて決意に満ちていた。

「でも、あんたが俺を必要としてくれるなら、俺はその期待に応える。それだけだよ」

彼はそっと手を離し、踵を返した。その背中が障子の向こうに消えていくまで、ただ呆然と立ち尽くしていた。
危険な相手――確かにそうだ。けれど、これほど頼もしく、愛おしい相手もいないだろう。
冬の風が、心の奥まで吹き抜けた気がした。





『初期刀様より強い人』

加州清光は、今日も手入れ場で静かに刀を磨いていた。
審神者が近づくと、彼はちらりとこちらを見てから、口を開く。

「主さ、俺より強くなれみたいなこと、誰かに言った?」

不意を突かれて、審神者は目を瞬かせる。

「えっ、どうして?」
「最近、うちに来る子たちのやる気が異常だからさ。こっそり聞いたんだよ。主が“俺より強い人じゃないと嫌”って言ったってさ。」

清光は少し拗ねたように唇を尖らせ、手を止めてこちらを見つめてくる。その瞳に映る自分を見て、審神者は微妙に言い訳しづらい気持ちになった。

「……ああ、それね」
「やっぱり本当なんだ!」
「うん、でもさ!それにはちゃんと理由があるの!」
「ふーん、聞かせてよ。」

清光は腕を組み、少し挑戦的な表情を浮かべる。その姿を前にして、審神者は観念して話し始めた。

「……実は、最近いろんな刀たちに口説かれることが増えてさ、どうにも困っちゃって」
「口説かれる!?あんたが!?もっと早く言ってよ!!」
「そう。だから、“清光より強い人じゃないと嫌”って言ったの。清光って、誰よりも強くて綺麗で頼りになるから、他の刀たちも簡単には超えられないでしょ?」
「……は?」

清光は一瞬ポカンとした顔をしてから、次に大きなため息をついた。

「あーもー!なんだよそれ!まあ確かに俺を基準にするのは分かるけど……それ、余計に火をつけるだけじゃない?」
「そうかも、だけど、他にいい方法が思いつかなくて……」

審神者が肩をすくめると、清光は頭を抱えて苦笑いを浮かべた。

「まあいいや。強くなるのは悪いことじゃないし。でもさ」

清光はふと真剣な目つきになり、鋭い言葉を口にした。

「もし誰も俺を超えられなかったら、俺が主を貰うけど、それは平気?」
「えっ……」

審神者は言葉を失った。
冗談半分のようでいて、どこか本気の響きが清光の声にはあった。

「なにその言い方……清光、ずるい」

そう呟いた審神者に、清光はいたずらっぽく微笑む。

「ずるいかもね。でも、俺はこの本丸の初期刀様だし?」

清光はそう言って、刀を手に再び磨き始める。
その仕草は普段通りなのに、心のどこかに残るその言葉の余韻に、審神者は胸をそっと押さえた。
やっぱり、清光には敵わない──そう思うしかなかった。




『トリセツ』

カラオケの室内は、薄暗い照明とスクリーンから流れる映像が幻想的な空気を作っている。俺と主、二人だけの時間。

「次、俺が歌うね」

俺の言葉に、主がパッと顔を上げた。手に持っていたソフトドリンクのストローをくわえたまま、期待のこもった目で俺を見る。そわそわと俺の歌を楽しみにしてる。その姿が嬉しくて、ちょっとだけ心が熱くなる。

「ふふ、何歌うの?」
「あんたが好きそうな曲。楽しみにしてて」

画面を操作して入れたのは、西野カナの「トリセツ」。
これを選んだ理由なんて、説明するまでもない。歌詞の一言一句が俺の気持ちを代弁してくれるような気がして。
イントロが流れ始めると、主の目がさらにキラキラ輝いた。歌い出す俺に、全力で興味を向けてくれている。

「この度はこんな俺を初期刀に選んでくれてどうもありがとう」

歌いながら俺は、主の目を見つめた。こんな近くで俺のことを見てくれる存在は、この本丸でもあんただけだ。
主はリズムに合わせて首を軽く振ったり、口ずさむように動かしたりしながら楽しそうに聴いている。でも、あんたは分かっていない。俺がこの歌にどれだけ想いを込めてるかなんて。

「ずっと大切にしてね」

俺の言葉にならない心の声が、歌詞に重なって主に向かう。
この歌は、あんたへの俺の説明書だよ。俺がどういう存在なのか、どうしてほしいのか、全部詰め込んだもの。
最後のサビを歌い終わると、主は満面の笑みを浮かべて拍手してくれた。

「すごい!清光、めちゃくちゃ上手いね!この曲、似合う!」

そんなふうに笑ってくれるのが、嬉しいようで切ない。俺の中にある重い気持ちに、あんたは気づいてない。
でも、それでもいい。

「ありがとう。あんたが楽しんでくれたなら、それでいいよ」

俺は軽く肩をすくめてみせる。歌詞に込めた想いに気づかなくても、俺の歌であんたが笑ってくれるなら、それだけで十分だ。

「次、何歌おっかなー?」

俺の問いに主は考え込むような仕草を見せて、「また清光に歌ってほしい!」と無邪気に答えた。その言葉にまた少しだけ心が熱くなる。

「じゃあ、もう少し付き合ってよ。あんたが俺を見ててくれる限り、いくらでも歌ってあげるからさ」

主は「もちろん!」と笑いながら応じてくれる。
その笑顔を見て、俺は次の曲を入れる準備をした。
今日は、この時間が終わるまでずっと、俺の気持ちを歌に乗せて届けるつもりだ。
たとえ、それが伝わらなくても。





『寿命』


猫は、ふわふわとした毛を揺らしながら、審神者の膝の上で安らかに寝息を立てていた。その姿を見つめながら、審神者はそっとその背を撫でた。小さな体から伝わる温もりが、日々の喧騒を忘れさせてくれる。

「あと60年生きてもいいんだよ」

不意に口をついて出たその言葉は、静かな部屋の空気に溶け込むように消えていく。猫は何も言わず、ただその小さな体を丸めて夢の中にいる。
すると、隣でその様子を見守っていた加州清光が、ふっと笑みを浮かべた。いつもの自信たっぷりな笑顔ではなく、どこか柔らかく、温かい目をしている。

「主も、あと1000年生きていいんじゃない?」

その声は、冗談ではない。本気で、心からそう願っているかのような響きがあった。
審神者は、驚いて顔を上げた。清光の笑顔は変わらないが、その目にはどこか切なさと優しさが混じり合っていた。

「……清光」

その名を呼ぶと、言葉が続かなかった。胸の奥がじんと熱くなる。涙がこぼれそうになって、慌てて視線を猫に戻した。だが、猫の穏やかな寝顔を見ても、その感情は収まらなかった。
長い年月を生きてきた彼だからこそ、言葉の重みが違う。刀剣男士として、数えきれない命の営みを見届けてきた彼の言葉には、永遠を知る者だからこその真実があった。

「……そうだね」

やっとの思いで口にしたその言葉に、清光は「うん」とだけ返した。そして、静かに寄り添うように審神者の隣に座る。
部屋には、猫の寝息だけが響いていた。けれど、その静けさの中に、確かな温かさがある。

審神者は、清光の隣で胸の奥の熱を静かに受け止めながら、猫の背を撫で続けた。
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