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bang-dream

[Doubt Lover]

グループのメンバーに視界を塞がれた瞬間、私は、まるでガラス玉を落とすように危機感を失ってしまっていた。
楽屋の控室でスマホを睨んでいた時、不意に背後から両手で目を覆われる。その人のくすくすと楽しそうな笑い声が耳をくすぐっていた。

楽屋に一番乗りをした私は、メンバー全員での打ち合わせまでまだまだ時間があるし、しばらく誰も来ないだろうからと姿勢を崩してだらけていたから、後で怒られないか心配だ。

「びっくりしたぁ……もっと後から来ると思ってたよー。ところで、これは何?」
「えへへー、彩ちゃんにイタズラしたら『るんっ♪』ってすると思ったんだー!ドッキリ大成功だね!」
「えっ、なになに、どうしたの?」

振り返ろうとしても、目隠しされたままの私は何も見えない。ただ、背後で響く楽しそうな声にどこか違和感を覚える。私の問いかけも届かないまま、彼女の声が弾む。

「アタシさー、今日はせっかくの機会だから彩ちゃんといろんな遊びをしたいなって思って!」
「それはいいけど、急すぎるよ。あと、見えないのは困るから、その手をどけてくれるとありがたいんだけど……」
「だぁめ! これも‘遊び’の一種だから、目隠しはそのままだよー」

上機嫌に振る舞う彼女の声の奥に、何かぎこちなさを感じた。どうしたら心を開いてくれるだろう——そう考えていると、耳元にふわりと息を吹きかけられる。

「ひゃっ!」
「おおー、今の彩ちゃん、すっごく色っぽかったねー」
「誰だって急に耳に息を吹きかけられたら、こういう反応するよ……」

曖昧な笑みを浮かべる彼女に、私は意を決して問いかけた。

「ねえ、何か嫌なことでもあったの?」

「えー? アタシは毎日がわからないことだらけで楽しいのに、なんでそんなこと言うのー?」
「うーん、ダメかぁ……」

普段の彼女なら、こんな軽口の後にはすぐに照れ笑いが続くのに、今日は違う。耳元で囁かれる声に混じる微かな震えを感じ取る。

そして、突如として彼女の柔らかい唇が耳に触れた。くすぐったさと共に危機感を覚えるべきなのに、私はただその場に立ち尽くす。唇は耳の輪郭をなぞるように、小刻みにキスを繰り返していく。そのリップ音が生々しく、身をよじる私に、動かないでとでも言うように舌先が耳に触れた。

「ねえ、本当にどうしたの?」
「だから、これは遊びなんだよー! 嫌じゃないでしょ?」

——そうじゃない。

何かが違うのだ。遊びにしては、その声にはどこか悲しげな色が滲んでいる。過去の喧嘩が脳裏をよぎる。あの日の彼女の言葉が、再び胸を刺す。

『彩ちゃん、日菜ちゃんとは何を言われても笑っているよね。怒らないし、許してあげて……』

あの日、結論が出ないままに終わった会話。彼女の心に、まだその不安が渦巻いているのだろうか。

「日菜ちゃんの手は、こんなに小さくないよ」

視界がようやく開け、彼女と目が合う。大きく見開いた瞳には動揺が浮かんでいた。

「日菜ちゃんは練習をあまりしていないから、指に豆なんてできてないよ。唇だって、千聖ちゃんはきちんとケアしてるけど、日菜ちゃんはたまに傷ができてたりするし……。あとね、千聖ちゃんは私といると手に汗をかくけど、日菜ちゃんはかかないもん。」

「……最初から、気づいてたの?」
「うん。だから、何度も聞いたのに。どうしたのって。」

恋人同士の心の距離を埋めようとする私の声が、千聖ちゃんの動揺した瞳を捉える。彼女の赤らんだ目元を見つめながら、静かに手を繋ぎ直した。

「私が触ってほしいのも、触れてもいいのも、千聖ちゃんだけだよ。」

彼女の唇が、震えるように私のそれに触れた。その荒々しさには、普段の優しさや技巧は欠けている。けれど、それが千聖ちゃんの不器用な愛情表現だと分かると、私の胸は温かく満たされていく。

「彩ちゃん……。本当に、最悪だわ。」

息を呑む私に、彼女は静かに微笑んだ。その顔が愛おしくて、私はそっと自分から唇を重ねる。

何度でも伝えよう。彼女の不安を消し去るために。
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