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bang-dream

[さよなら今夜meteor]


「初めての枕投げはいかがだったかな?お姫様」
「さいっこうに楽しかったわ!」
「はぐみもはぐみもー!」
「またやろうね」
「なら明日もしましょう!」
「そんなやったら身体がもたんわ!年に1回とかそんな感じでいいから」

 たのしい枕投げを堪能したわたしたちは、各々の布団に入り静かに会話を飛ばしていた。各々の布団を定位置にして、まだ眠りたくないといわんばかりにみんなでおはなしをする。

「こころんのプラネタリウムに、ブラックホールもつければよかったかなー」
「それはちょっと難しいんじゃない?」

「明日はミッシェルにも会いたいわ」
「私も同じ気持ちだよ、こころ」

 でも、ぽつり、ぽつりと、少しずつ会話がとぎれとぎれになっていく。もう、みんな眠いのかな。静かなやすらぎが下りてきている空間に、なんだか私も眠たくなって、瞼と頭が重たくなっていく。
 今日もたのしかったね。あしたも、みんなで一緒に過ごそうね。
 そう思いながら私も意識を手放そうと、ふわふわとした心地に身を任せるため、瞼をとじようとした。
 するとごそごそと音が聞こえる。音のする方へ眼を向けると、こころちゃんが扉を開けてどこかへといなくなっていくのが見えた。どうしたんだろう。トイレかな。こころちゃんと一緒に……ハロハピのみんなで、夢の世界に行きたいのに。
 ふわふわとした意識で、こころちゃんを待とう、だからまだ眠っちゃいけない、と自分自身に言い聞かせた。

 数分もしないうちにこころちゃんは戻ってきた。
 こころちゃんは、わたしたちの作ったプラネタリウムを持ち出してきて、暗くなった部屋一面に満面の星を照らした。真っ暗な世界から、まばゆい光があちこちに散りばめられる。
「ちょっとこころ。もう寝る時間」
 美咲ちゃんが不満そうな声をだす。プラネタリウムの位置を調整しているこころちゃんを見て、ため息もついていた。
「あら、とっても綺麗じゃない?この星の中にいたら、あたし、すっごくハッピーな気持ちで眠れる気がするの」
「明日も朝がはやいんだから、さっさと寝ようよ」
 呆れたように美咲ちゃんは言い募る。それでも、美咲ちゃんはプラネタリウムを消してとは言わなかった。こころちゃんがわたしたちの作ったプラネタリウムを大切にしているって、みんな分かっているから。
 そんな美咲ちゃんの様子を見て、いたずらが成功した子供のような顔をしたこころちゃんが、そそくさとプラネタリウムから離れて私の布団にもぐりこんできた。まるで私の布団に避難しに来たみたいに、布団を深く被っている。
「花音、美咲に怒られちゃったわ」
 怒られたというわりには楽しそうなこころちゃんに、私もつられて笑う。美咲ちゃんは部屋を真っ暗にしないと眠れないタイプなのかな。
「美咲ちゃん、これだと眠れない?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
 私の言葉を聞いた美咲ちゃんが、ちょっと困ったようにごにょごにょと答えてくれる。なら、美咲ちゃんは夜更かしして、明日の朝に起きるのが遅くなることを、心配してくれてたのかな。なんだかんだ言いながらも、面倒見のいい美咲ちゃんだから。特に、こころちゃんとはぐみちゃんは元気にはしゃぐから、それを見越してくれていたのかも。
「いいじゃないか美咲。わたしたちのつくった星に囲まれながら眠りにつく……なんて儚いんだ」
「はぐみも、おほしさまに囲まれながら寝てみたいってずっと思ってたんだー」
 まだ起きていたらしい薫さんとはぐみちゃんも、会話に参加し始める。それだけで、部屋全体があたたかくなったような気がして、なんだかうれしくて、無意識のうちに頬を緩めた。
「はあ、みんながいいならいいけど。でももうそろそろ寝ないと、明日起きられなくなっちゃうよ」
 やれやれと言いたげな声を出して、美咲ちゃんは布団を被りなおす。
「大丈夫だ。私が真っ先に起きて、みんなを儚い朝日へいざなおう」
「かのちゃん先輩、儚い朝日ってなに?」
「それはちょっと分からないかな」
「ミッシェルならわかるかな?」
「うーん、ミッシェルでも分からないかもね」
「それも儚いというものさ」
 薫さんのそんな言葉に、みんなで笑った。いつものハロハピらしいやりとりに、みんなが笑顔になっていく。これからも、こんな毎日が過ごせたらいいな。明日も、みんなの笑顔がみられますように。
 散りばめられた星々が、そんな私たちを見守るようにやわらかく照らしてくれていた。

「こころは花音さんのところで寝るの?狭くない?」
「ええ、今日はここで寝るわ」
「私も大丈夫だよ。ありがとう、美咲ちゃん」
「じゃあ……薫さんのとこに詰めてもいい?」
「もちろんよ」
「私の隣に来るといい」
「ずるーい!はぐみも間にはさまるー!」
「さすがに狭いから!ほら、もう寝るよ。みんなおやすみ」
「おやすみなさーい」
「おやすみなさい」
「おやすみ、いい夢を」
 おのおのが布団をかぶり、もう一度眠りにつく。
 そんな様子を、優しいまなざしで見つめていたこころちゃんが、最後に言葉を紡いだ。

「おやすみなさい、みんな。夢でも笑顔を配りに行きましょう」



* * *



ふわふわとした すわりごこち

ここは どこだろう

わたしは なにをしていたんだっけ


下に目を向ければ、私はクラゲの上に座っていた。

周りを見渡すと、薫さんが薔薇の花に囲まれていて、

はぐみちゃんはコロッケのロケットで飛んでいる。

美咲ちゃんはミッシェルに手を引かれていた。

そんな私たちを取り囲む色とりどりの星が、躍るように回っている。

ここは、宇宙の真ん中だった。


みんなで宇宙旅行をした。

たくさんの惑星を探検して、たくさんの流れ星を見た。

ハレー彗星がわたしたちを迎えに来た時に、

ふとした違和感に気付く。


そういえば、こころちゃんの姿が見当たらない。

あたりを見ても、彗星に乗って探しても、

こころちゃんはどこにもいなかった。

こころちゃん、どこにいるの?

こころちゃん。


どうして、こころちゃんがいないの。


* * *



 ふと、目が覚めた。
 パチリと開いた視界には、小さな光が舞い踊る部屋。今は何時だろうと、スマホを確認するために起き上がろうとする。すると、隣で目を輝かせるこころちゃんが、またたく星を眺めていた。
 ーもしかして、まだ起きてたの。今は、何時?

 もぞもぞと動いたからか、こころちゃんは私の方を見て、少し驚いた表情をした。
「花音、起こしちゃったかしら」
 綺麗なソプラノが耳を通る。私にしか聞こえないくらいの、ちいさな声で、こころちゃんは話しかけた。
「ううん、たまたま目が覚めちゃっただけ。こころちゃんこそ今まで起きてたの?」
「ええ、すぐに眠るつもりだったのだけれど、花音達が作ってくれた星空を見ていたら、こんな時間になっていたの」
「えっと、いまは……」
「夜中の1時よ」
 壁にかけてあった時計の方をちいさく指さす。私には星の光しかわからないけど、こころちゃんには見えているのかな。こころちゃん、身体能力だけじゃなくて視覚もいいんだね……。頭に思い浮かんだ言葉は、眠気に邪魔をされてしまって、私の口から出ることはなくどこかへ消えていった。
「きれいな星空ね」
 こころちゃんの目は、プラネタリウムを映しキラキラと輝いていた。その瞳の、あまりの美しさに、胸がせつなくなる。
 私もこころちゃんと同じように、目の前に広がる人口の星空を見つめる。都会の星は、多くても10こくらいしか見えないから、私たちの作ったプラネタリウムでも、十分な感動をくれる綺麗な夜空を、部屋に作ってくれていた。

 どのくらい時間が経ったんだろう。二人してぼんやりとプラネタリウムを眺める。
「ずっと気になっていたの。あれはなんていう星なのかしら」
 ふと、こころちゃんはひときわ輝く一番星を指さした。
 それは星座早見表にはない―――、そもそもこの宇宙には実在しない光。
その星をみて、私の眠気は一気に吹き飛んだ。

 こころちゃんが見つけた星は、この地球からは確認されていない、わたしたちが作った、架空の星。世界でまだ誰も発見していない、幻のもの。天文学部のこころちゃんが疑問に思うのも当たり前で。
 この星は、こころちゃんの誕生日プレゼントを何にするかみんなで考え、プラネタリウムを作ることに決まった時、真っ先に私が作りたいと思ったもの。夏のハロハピ合宿会の1日目の夜、こころちゃんと美咲ちゃんが話してるのを聞いて、私がずっと考えていた、こころちゃんのーーーこころちゃんのためだけの星。

 自分の星が見つからないと笑顔で話していたこころちゃんに、私がこころちゃんの星を見つけてあげたいと思った。
 星が大好きなこころちゃんが作ってくれた、ハロハピ座。それなのに、こころちゃんだけいないなんて、すごくかなしい。こころちゃんのいないハロハピ座は、きっと、星座として未完成なものだから。ハロハピは、6人でハロハピ。だから、こころちゃんの星座も見つけてあげたかった。
 まず、空気の澄み渡る夜に、星空を見上げて探した。こころちゃんが作ったハロハピ座の近くに、こころちゃんの星になるものがないか。都会の空は、街の光で星が隠されてしまうから、どんなに目を凝らしても、こころちゃんの星は見つけられなかった。
次に、星座早見表や図鑑を使って、それらしい星を探した。目で見ることはできなくても、存在する星がたくさんあると、薫さんが教えてくれたから。でも、私より圧倒的に星に詳しいこころちゃんが見つけられなかった星を、私にみつけられないような気がした。たくさんの図鑑をみても、こころちゃんだと思える星は見つからなかった。
だからーーーだから、今回のプレゼントで、星座までは作れなくても、こころちゃんの星を作ってあげたかった。たとえ、今はまだそこになくとも、こころちゃんも同じハロハピ座の一部として、そばにいてほしかった。
他のみんなには、プラネタリウムを作る時にこのことを話して協力してもらえた。肝心のこころちゃんには、誕生日当日も、そのあとも、タイミングが合わず言えないままだったのが、心残りだったけれど。

 だから今、伝えないといけない。私の想いを。宇宙に存在しない光が、なぜここで見れるのかを。
 この宇宙に存在はしていなくても、わたしたちの作った星で、こころちゃんもいっしょに輝いてほしい。世界に笑顔を届ける大好きな人が、宇宙でも輝けるように。
 だって、私がそうしたかったから。

「あれはね、こころちゃんの……星なんだ」
 ついにこの時が来てしまったと身体がこわばる。緊張した身体をほぐすようにそっと息を吸ったけれど、私の口からはひゅっと音がなってしまった。
「あたしの、星?」
「うん。夏休みにハロハピで合宿したでしょ。その時に、こころちゃん、自分の星座が見つからなかったって言ってたから。だから、こころちゃんの星を作ったの。ごめんね、勝手に……」
 自分の声が小さくなっていく。衝動的に自分で動いておきながら、今更これでよかったのだろうかと不安になり、こころちゃんから目をそらしてしまった。今になって、心臓が嫌な音を立てて動き始め、手先が冷たくなっていく。
 こころちゃんが見つけられなくても、私はこころちゃんの星座を見つけたかった。ハロハピを、接点がなかったわたしたちを、線と線でつなげてくれたこころちゃんだから。そんなこころちゃんだって、私たちと同じ空にいてほしい。ハロハピ座は、こころちゃんがいてこそだと思うから。
 そんな私のエゴも、こころちゃんなら受け入れてくれると心のどこかで感じていたから、プレゼントは最後まで作ることができて、サプライズも成功もしたけれど、この状態になると、そんな自信もなくなってこころちゃんの反応が怖くなる。
 ついに何も言えなくなった私は、目の前の暗闇を見ることしかできなくなった。流れ出しそうになる涙をぐっとこらえて目を瞑る。

「そうだったのね」
 凛とした声が耳に届く。こころちゃんは、そんな私の不安を吹き飛ばすかのように、それはすごく綺麗な顔立ちで花が咲くようにかんばせを綻ばせてくれた。
「とってもうれしいわ。ありがとう花音」
 再度わたしに向けてくれた天真爛漫な笑顔は、こころちゃんにしか出せない無邪気さと輝きがあって、私は時がとまったかのように見惚れてしまう。
 こころちゃんの、言葉に、表情に、また私は……。
 こみあげてくる涙をこらえるように、そっと息を吐き出す。こころちゃんは何度も私に勇気と笑顔をくれる。そんなこころちゃんが大好きで、大切で。
 どうかこの大好きな笑顔が、これからも一番近くで輝いてほしいと願った。

「こころちゃんはね、わたしたちハロハピにとっての北極星だよ。いつでも、どんな時でも、わたしたちを笑顔へ導いてくれる、一番星」
 こころちゃんの星座を探すと決めていたときから思っていたことを、想いをのせて口にする。隣にいるこころちゃんに伝わるように。
あの日、私に勇気をくれたこころちゃん。ハロハピにどんな困難が立ち塞がっても、笑顔で乗り越えて手を差しのべてくれるこころちゃん。
 旅人や航海士が星空に輝く北極星を目印にしていたみたいに、わたしたちにはこころちゃんがいてくれたなら、どこへだって行けるから。
「まあ、なんて素敵なの!」
 こころちゃんの笑顔をみて、私も小さく笑った。いつかこの笑顔が、こころちゃんの星空にいるわたしたちと一緒に輝ける日を夢にみて。
「一緒に、ほんものの空でもこころちゃんの星をみつけようね」
「そうね。花音やみんながいてくれれば、きっとみつかるわ」
 そう言ったこころちゃんの声は、ふわりとした夢見心地にいるようだった。そろそろ、眠たくなってきたのかな。くすりと笑ってこころちゃんの分の布団をかけなおす。私の意図を察してくれたらしいこころちゃんが、私をみて、やさしく笑った。

 こころちゃんといるときはいつも私の心があたたかくなるけど、ときどき、すごく胸が苦しくなる。その答えをずっと知りたいと思っていたけど、まだ見つかりそうになかった。
「……こころ、ちゃん」
 それでも、勇気を振り絞って隣で笑うこころちゃんを呼ぶ。喉に障害物があるかのような錯覚に見舞われて、上手く言葉が出ないけど、今、伝えないといけないことがある。
 名前をつけることができない感情も、あなたへの止まらない愛も。伝えたい。私にしかできない言葉で。
「こころちゃん、笑顔になってくれた?」
 うまく笑顔で言えたかな。こころちゃんの目に、私はどう映ってる?
 零れる手前の涙であふれた瞳だと、こころちゃんの表情がうまくつかめなくて、せっかくこらえた涙もあふれだしちゃいそう。でも、この涙がいつか星になって、こころちゃんを照らす光になるのなら、私はいくらだって目の前にいる大好きな人のために涙を流したい。
 この幸せがあなたにも伝われば、こんなにも嬉しいことはない。すぐに道に迷ってしまうし頼みごとは上手く断れないし、あなたに出逢うまでは勇気もなかった私だけど、そんな私に勇気をくれたこころちゃんだから。
「ええ、花音。私、今とってもハッピーだわ」
あぁ、もうずるいよ。
 そうやってこころちゃんは何度も何度も、私の不安や自信のない部分を消してくれるかのように、笑ってくれる。その笑顔に、今日も私は救われた。



* * *



「そろそろ寝なくちゃね。美咲に怒られちゃうわ」
「大丈夫。美咲ちゃんはきっと今、夢の中にいるからわからないよ」
「それもそうね。なら、私もみんながいる夢の中に行くから、花音もすぐに来てちょうだい」
「うん、待っててね。おやすみ、こころちゃん」
「おやすみ、花音」


 部屋の窓を開けて夜空を見上げれば現実が広がっているけれど、今日はこの狭い部屋にしかない、消えそうなくらい輝いている一番眩しい星につつまれて眠ろう。そして、世界に幸せをばらまく愛しい人のために、小さく涙をながしたら、先に夢の世界に行ってわたしたちを待っている仲間のもとへ、こころちゃんと共に逢いに行こう。

 明日もまた、みんなが笑顔になれますように。

 そう思いながら、夢の世界に行ったこころちゃんを追いかけるように、そっと瞼をおろしていった。




 きっと今夜も、こころちゃんの星座はみつからない。
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