ステージ4 カイエワン遺跡 作成途中
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一本道をしばらく進むと、いきなり最大とも言える難関に行き当たってしまった。
「ここを越えるしかなさそうだな」
崖の数メートル下では、赤黒く染まった無数の剣山が兎と人間を待ち構えている。
「ここを、ですか」
大分前に罠に掛かった探検家だろうか、彼らの異臭が二人に引き返すよう薦めているようだ。
「戻ったってさっきの骨山で行き止まりだし。ちょっと待っててくれ」
ジョナサンは跳び上がると同時に二本のうさ耳を一本の長い鎖へと変化させ、壁から突き出ている装飾にその端を引っかける。振り子の原理で何回か勢いを付けた後、軽々と向こう岸に着地してみせた。
「うん。二人一緒でも問題無く行けそうな距離だな」
そう言うと元人間は同じ要領で##NAME1##の前まで戻ってきた。
「博士、その耳どうなっているんですか?今鎖みたいな形に……それも呪いですか?」
「半分そんなもんだな。ああいう出っ張ったものなら引っかけられるんだ。便利だろ?」
『一年前、こことはまた別の遺跡を探検していたときに手に入れた能力だよね。あの頃からジョナサンがどんどん人間離れしていってたなあ』
「鎖だけじゃない。でっかい紙飛行機の形にもなるんだぞ~、ほら!」
バサッとパラソルを開くような音と共に、今度は大きな白い紙飛行機の形に変わり足元に濃い影を落とした。己の身に降りかかる人間離れした現象を、彼は気にするどころか楽しんでいるようにも見える。
「ん?どうした?」
「博士…本当に人間に戻りたいんですよね?」
「勿論さ!」
ジョナサン・バンフィールドは体の一部を可愛いうさ耳に一瞬で戻し、胸を張って答える。
「それに人間に戻らないと、ほら~、その~……##NAME1##は人間だろ?」
「?」
『お喋りはその辺にして、気をつけて行ってね』
「はいはい。さあ##NAME1##、一緒にここを飛び越すぞ。しっかり掴まっててくれ」
これまた可愛らしい手を差し出され言われるがままに握ると、勇気とまでは行かないにしろ自然と前向きな気持ちになれた。
この先に待ち受ける罠は怖いけれど、それ以上に彼が頼もしい。気分はターザンのヒロインだ。
「行くぞ!」
「はい!」
そんなフワフワとした思考よりも、もっと大事なことがあった。
一昨日、月明かりの下であの艶々で素晴らしい毛並みを目にしていたのだ、そこまで考えた上で掴まるべきだったのに。
「やっ…!」
互いに強く強く握っていても、絶対に離してはいけないタイミングで彼女の手は容易くすり抜ける。
「しまっ…!」
崖と崖とのちょうど中間で、無防備な人間は背中から刺さりに行った。
「きゃ…」
無論、借りているマシンガンはこの状況では全く役に立たない。
目を閉じた##NAME1##が死を覚悟するよりも先に、上へと伸ばしたままの腕に音を立てて鎖が絡みついた。
「うおおおおお!!」
ジョナサンは力の限り、己とすれ違うように仲間を斜め上へと放り投げる。##NAME1##は向こう岸で尻餅をついた。
「いったた……」
痛みはあれどここは針一本無い、平らな床だ。まだ震えすらしていない手で確かめるように冷たい石畳を撫でる。
突然のことで実感が無いが、私は死にかけたところを助けられ、こうして生きている。兎博士が機転を利かせてくれたお陰だ。
「ありがとうございます、はか…せ…」
彼女はようやく顔を上げたが、進む道の先に彼の姿は無い。返事も無い。罠に落ち行く自分と、空中ですれ違った。
と、なると。
「……うそ」
腰を抜かしたまま動けなくなる。背後の崖下を覗き込むどころか、少しも振り向けない。
絶対に惨い光景だから。
「そんな…どうしよう…いや、嫌っ…!!」
自分のせいで、彼を。元の姿に戻りたいという目的意識のある、可愛らしくも頼り甲斐のある、人物を。
「博士…博士っ…返事して、どうか…!」
完全に絶望へと染まり切る前に、彼女の背後で青白い閃光が辺り一帯を照らし上げた。
「!?」
光の出所は彼の亡骸がある場所。眩しくなくなったと同時にその谷底から生まれ出たように飛んできた者は、##NAME1##の真横に軽々と着地した。
「ふー、焦った。君の命は一度限りだからな。大丈夫だったか?」
「……どうして、平気……傷も…なんで…」
言いたいことは山程あるが、まだキチンとした言葉にできない。顔面蒼白の##NAME1##はやっとのことで当然の疑問を絞り出した。
「今のは?」
「ちょっとした裏ワザってとこさ……何だ?」
彼女は目の前の現象が信じられず、彼の腕や耳をしつこく触ったり揉んだりしてもまだ納得できていない。
「フェイクでも幽霊でもないぞ。一応言っておくと、俺の命はこれで守られた。この通り復活できるのさ」
そう言う彼の手には黒く分厚い本が。一体どう裏をかけば書物が人を救うのだろうか。
「遺跡の入口にアンクがあっただろ?あれと同じ石像の前でまたお祈りするまでは、効き目はお預けだがな」
『だから気をつけて行ってねって言ったじゃないか』
「わかってるよ。早いとこアンクを見つけておかないと心もとないな。あ、ちょいと失礼」
ジョナサンはその場で腰を下ろし、白く太い麺が入ったビニールパックを懐から取り出した。その中にソースのような液を注ぐと、箸を器用に使ってズルズルとすすり始める。
「復活できるのは、んぐんぐ、良いけど、これ使った後はどうも腹が減るんだよなあ」
『ジョナサン、食べながら喋らないで』
「……」
「うむむ、常温のうどんは時間と手間は省けるが、やっぱりどこか味気ない」
「……」
「今度保冷剤を一緒に…いや、俺のお腹が冷たくなっちまう。魔法瓶はかさばるし…」
「じゃあ」
しばらく俯いていただけだった##NAME1##がジョナサンの食事を邪魔するように口を開いた。
「お!何か良い案でも?」
「じゃあ……博士は一度、死んでしまったってことですか?」
「ん?そのこと?ああ、まあそうなるな。死んだっちゃあ、死んだな」
「ごめんなさい」
乾いた床にポタポタと作られていく染み。それを見て、いくら好物と言えどもジョナサン博士の持つ箸は完全に止まり、持ち上げられた麺は一旦汁の中へ飛び込む。
「私が、私がしっかり貴方に掴まっていれば、博士を死なせずに済んだのに!」
自責と涙は止まらない。明らかに自分は彼の足を引っ張った。他人様を一人、死に至らしめてしまった。
「えっ、ちょ…っと……おい」
「最初の、骨の部屋でジャンプ、したときみたいに、博士の服に掴まっていれば、こんな、ことには…!」
「いやいやいやいや、泣くこと無いって!だって…そうだ!俺は今こうやって生きてるから全然気にすることじゃない!な?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「じ、実は俺~、こうやって生き返ったことが何度もあるんだ。今回が初めてじゃなくて。そう!もともと死にまくり野郎なんだよ!死にまくり!」
「し、死に…」
「だからこんなの屁じゃないって言うかさ。ほらっ、もうピンピンしてるぞ!ほらっほらっ!」
ジョナサンはその場で何度もジャンプしてみせる。
「俺としては、博士が生きてて良かったです~って抱き締めてほしいところだな。逆に言えば、##NAME1##にとってはハグの一つで済む話だ」
「そうですね…生きてて、良かった、です…」
涙を拭えどまだまだ尽きないようで、彼女はその顔を上げてくれない。ちなみにハグの気配は無し。
「……」
「……」
「え~と……耳、俺の耳、柔らかいぞ?」
「存じております…」
「触るか?」
柔らかくも芯のある耳を黙って握る##NAME1##の様子を、うどんを食べながらしばしの間うかがっていた。
「と、とにかく先に進もう!うん、そうだ!こんな所気味悪いもんな!さあ、はぐれるなよ!」
「はい…」
耳の端を持ったまま##NAME1##は歩き出す。彼に気を遣わせてしまい、更に申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさい…さっきからメソメソしてばかりで…」
「仕方ない。古代遺跡の罠、しかもあんなエグい奴にかかるなんて人生初だろ?誰だって怖いさ」
「……そうじゃ、なくて」
最初のトラップこそ周囲の死体や身の危険から縮こまっていたが、今泣いている理由の種類は違う。自分のせいでこの人を死に至らしめてしまった。酷いことをしてしまった。
素晴らしい毛並みのお陰で、気を抜くと彼の耳は指からするすると滑り落ちてしまう。何より、##NAME1##がそれを掴もうという気力が十分に無いのだ。
「そうだ、こうした方が楽だろう」
彼は先程と同じように耳を変形させ、先端を大きな輪っかにした。これで掴み易くなったは良いが、その対価として嫌な光景が##NAME1##の脳裏に蘇る。この鎖は、博士が死ぬ間際に発揮した能力だ。
泣き止んではいるが、##NAME1##は神妙な顔をして俯いてばかり。
「参ったな……そうだ、甘いものでもどうだ?元気が出るぞ」
ジョナサンは自分の服を探り始める。腰のポケットからは黄色いキャラクターが印刷されたパッケージのお菓子、お尻のポケットからは何の包装も無いレーズン数粒が取り出された。
「……」
肛門近くから出現した黒い粒々を兎から手渡しされるという状況に、たちまち食欲が激減してしまった。哺乳類生物による渾身のギャグだろうか。だとしたら最低だ。
「違っ…レーズンだからな!レーズンだからな!!」
とんでもないものを見られる目で、さすがの彼も自分のしていることに気付き慌てて弁解する。
『カメラが無いから見えないけど……ジョナサン、まさか際どいことしていないだろうね?』
「ジャックこそ変な想像してるんじゃないだろうな!?違うからな!?」
いい歳した大人は危険な罠のある遺跡の内部で、どうでも良いことに今日一番の大声を出す。
「ふふっ、ふふふ」
「……何笑ってんだよ」
「わかってますよ、美味しそうな干しブドウですね。頂きます」
彼の必死な形相に思わず頬を緩めながら、##NAME1##は当然の如くチョコモナカを選択した。
「うお…やっぱそっちか」
「ふふふ」
「ここを越えるしかなさそうだな」
崖の数メートル下では、赤黒く染まった無数の剣山が兎と人間を待ち構えている。
「ここを、ですか」
大分前に罠に掛かった探検家だろうか、彼らの異臭が二人に引き返すよう薦めているようだ。
「戻ったってさっきの骨山で行き止まりだし。ちょっと待っててくれ」
ジョナサンは跳び上がると同時に二本のうさ耳を一本の長い鎖へと変化させ、壁から突き出ている装飾にその端を引っかける。振り子の原理で何回か勢いを付けた後、軽々と向こう岸に着地してみせた。
「うん。二人一緒でも問題無く行けそうな距離だな」
そう言うと元人間は同じ要領で##NAME1##の前まで戻ってきた。
「博士、その耳どうなっているんですか?今鎖みたいな形に……それも呪いですか?」
「半分そんなもんだな。ああいう出っ張ったものなら引っかけられるんだ。便利だろ?」
『一年前、こことはまた別の遺跡を探検していたときに手に入れた能力だよね。あの頃からジョナサンがどんどん人間離れしていってたなあ』
「鎖だけじゃない。でっかい紙飛行機の形にもなるんだぞ~、ほら!」
バサッとパラソルを開くような音と共に、今度は大きな白い紙飛行機の形に変わり足元に濃い影を落とした。己の身に降りかかる人間離れした現象を、彼は気にするどころか楽しんでいるようにも見える。
「ん?どうした?」
「博士…本当に人間に戻りたいんですよね?」
「勿論さ!」
ジョナサン・バンフィールドは体の一部を可愛いうさ耳に一瞬で戻し、胸を張って答える。
「それに人間に戻らないと、ほら~、その~……##NAME1##は人間だろ?」
「?」
『お喋りはその辺にして、気をつけて行ってね』
「はいはい。さあ##NAME1##、一緒にここを飛び越すぞ。しっかり掴まっててくれ」
これまた可愛らしい手を差し出され言われるがままに握ると、勇気とまでは行かないにしろ自然と前向きな気持ちになれた。
この先に待ち受ける罠は怖いけれど、それ以上に彼が頼もしい。気分はターザンのヒロインだ。
「行くぞ!」
「はい!」
そんなフワフワとした思考よりも、もっと大事なことがあった。
一昨日、月明かりの下であの艶々で素晴らしい毛並みを目にしていたのだ、そこまで考えた上で掴まるべきだったのに。
「やっ…!」
互いに強く強く握っていても、絶対に離してはいけないタイミングで彼女の手は容易くすり抜ける。
「しまっ…!」
崖と崖とのちょうど中間で、無防備な人間は背中から刺さりに行った。
「きゃ…」
無論、借りているマシンガンはこの状況では全く役に立たない。
目を閉じた##NAME1##が死を覚悟するよりも先に、上へと伸ばしたままの腕に音を立てて鎖が絡みついた。
「うおおおおお!!」
ジョナサンは力の限り、己とすれ違うように仲間を斜め上へと放り投げる。##NAME1##は向こう岸で尻餅をついた。
「いったた……」
痛みはあれどここは針一本無い、平らな床だ。まだ震えすらしていない手で確かめるように冷たい石畳を撫でる。
突然のことで実感が無いが、私は死にかけたところを助けられ、こうして生きている。兎博士が機転を利かせてくれたお陰だ。
「ありがとうございます、はか…せ…」
彼女はようやく顔を上げたが、進む道の先に彼の姿は無い。返事も無い。罠に落ち行く自分と、空中ですれ違った。
と、なると。
「……うそ」
腰を抜かしたまま動けなくなる。背後の崖下を覗き込むどころか、少しも振り向けない。
絶対に惨い光景だから。
「そんな…どうしよう…いや、嫌っ…!!」
自分のせいで、彼を。元の姿に戻りたいという目的意識のある、可愛らしくも頼り甲斐のある、人物を。
「博士…博士っ…返事して、どうか…!」
完全に絶望へと染まり切る前に、彼女の背後で青白い閃光が辺り一帯を照らし上げた。
「!?」
光の出所は彼の亡骸がある場所。眩しくなくなったと同時にその谷底から生まれ出たように飛んできた者は、##NAME1##の真横に軽々と着地した。
「ふー、焦った。君の命は一度限りだからな。大丈夫だったか?」
「……どうして、平気……傷も…なんで…」
言いたいことは山程あるが、まだキチンとした言葉にできない。顔面蒼白の##NAME1##はやっとのことで当然の疑問を絞り出した。
「今のは?」
「ちょっとした裏ワザってとこさ……何だ?」
彼女は目の前の現象が信じられず、彼の腕や耳をしつこく触ったり揉んだりしてもまだ納得できていない。
「フェイクでも幽霊でもないぞ。一応言っておくと、俺の命はこれで守られた。この通り復活できるのさ」
そう言う彼の手には黒く分厚い本が。一体どう裏をかけば書物が人を救うのだろうか。
「遺跡の入口にアンクがあっただろ?あれと同じ石像の前でまたお祈りするまでは、効き目はお預けだがな」
『だから気をつけて行ってねって言ったじゃないか』
「わかってるよ。早いとこアンクを見つけておかないと心もとないな。あ、ちょいと失礼」
ジョナサンはその場で腰を下ろし、白く太い麺が入ったビニールパックを懐から取り出した。その中にソースのような液を注ぐと、箸を器用に使ってズルズルとすすり始める。
「復活できるのは、んぐんぐ、良いけど、これ使った後はどうも腹が減るんだよなあ」
『ジョナサン、食べながら喋らないで』
「……」
「うむむ、常温のうどんは時間と手間は省けるが、やっぱりどこか味気ない」
「……」
「今度保冷剤を一緒に…いや、俺のお腹が冷たくなっちまう。魔法瓶はかさばるし…」
「じゃあ」
しばらく俯いていただけだった##NAME1##がジョナサンの食事を邪魔するように口を開いた。
「お!何か良い案でも?」
「じゃあ……博士は一度、死んでしまったってことですか?」
「ん?そのこと?ああ、まあそうなるな。死んだっちゃあ、死んだな」
「ごめんなさい」
乾いた床にポタポタと作られていく染み。それを見て、いくら好物と言えどもジョナサン博士の持つ箸は完全に止まり、持ち上げられた麺は一旦汁の中へ飛び込む。
「私が、私がしっかり貴方に掴まっていれば、博士を死なせずに済んだのに!」
自責と涙は止まらない。明らかに自分は彼の足を引っ張った。他人様を一人、死に至らしめてしまった。
「えっ、ちょ…っと……おい」
「最初の、骨の部屋でジャンプ、したときみたいに、博士の服に掴まっていれば、こんな、ことには…!」
「いやいやいやいや、泣くこと無いって!だって…そうだ!俺は今こうやって生きてるから全然気にすることじゃない!な?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「じ、実は俺~、こうやって生き返ったことが何度もあるんだ。今回が初めてじゃなくて。そう!もともと死にまくり野郎なんだよ!死にまくり!」
「し、死に…」
「だからこんなの屁じゃないって言うかさ。ほらっ、もうピンピンしてるぞ!ほらっほらっ!」
ジョナサンはその場で何度もジャンプしてみせる。
「俺としては、博士が生きてて良かったです~って抱き締めてほしいところだな。逆に言えば、##NAME1##にとってはハグの一つで済む話だ」
「そうですね…生きてて、良かった、です…」
涙を拭えどまだまだ尽きないようで、彼女はその顔を上げてくれない。ちなみにハグの気配は無し。
「……」
「……」
「え~と……耳、俺の耳、柔らかいぞ?」
「存じております…」
「触るか?」
柔らかくも芯のある耳を黙って握る##NAME1##の様子を、うどんを食べながらしばしの間うかがっていた。
「と、とにかく先に進もう!うん、そうだ!こんな所気味悪いもんな!さあ、はぐれるなよ!」
「はい…」
耳の端を持ったまま##NAME1##は歩き出す。彼に気を遣わせてしまい、更に申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさい…さっきからメソメソしてばかりで…」
「仕方ない。古代遺跡の罠、しかもあんなエグい奴にかかるなんて人生初だろ?誰だって怖いさ」
「……そうじゃ、なくて」
最初のトラップこそ周囲の死体や身の危険から縮こまっていたが、今泣いている理由の種類は違う。自分のせいでこの人を死に至らしめてしまった。酷いことをしてしまった。
素晴らしい毛並みのお陰で、気を抜くと彼の耳は指からするすると滑り落ちてしまう。何より、##NAME1##がそれを掴もうという気力が十分に無いのだ。
「そうだ、こうした方が楽だろう」
彼は先程と同じように耳を変形させ、先端を大きな輪っかにした。これで掴み易くなったは良いが、その対価として嫌な光景が##NAME1##の脳裏に蘇る。この鎖は、博士が死ぬ間際に発揮した能力だ。
泣き止んではいるが、##NAME1##は神妙な顔をして俯いてばかり。
「参ったな……そうだ、甘いものでもどうだ?元気が出るぞ」
ジョナサンは自分の服を探り始める。腰のポケットからは黄色いキャラクターが印刷されたパッケージのお菓子、お尻のポケットからは何の包装も無いレーズン数粒が取り出された。
「……」
肛門近くから出現した黒い粒々を兎から手渡しされるという状況に、たちまち食欲が激減してしまった。哺乳類生物による渾身のギャグだろうか。だとしたら最低だ。
「違っ…レーズンだからな!レーズンだからな!!」
とんでもないものを見られる目で、さすがの彼も自分のしていることに気付き慌てて弁解する。
『カメラが無いから見えないけど……ジョナサン、まさか際どいことしていないだろうね?』
「ジャックこそ変な想像してるんじゃないだろうな!?違うからな!?」
いい歳した大人は危険な罠のある遺跡の内部で、どうでも良いことに今日一番の大声を出す。
「ふふっ、ふふふ」
「……何笑ってんだよ」
「わかってますよ、美味しそうな干しブドウですね。頂きます」
彼の必死な形相に思わず頬を緩めながら、##NAME1##は当然の如くチョコモナカを選択した。
「うお…やっぱそっちか」
「ふふふ」
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