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運転手は、目線は前のままに己の秘密を打ち明け始めた。
「僕ね、犯罪者だったんだ」
一瞬、何を言われたのかわからず、##NAME1##はこれといった反応が出来なかった。
「は、はん」
「ハッキングの罪に問われてね。冤罪じゃないよ、実際に色々やらかしたんだ。詳しくは言えないけど、その罪で僕はアメリカには到底帰れない身分になってしまった」
だから音沙汰無かったとでもいうのか。それが理由で姿をくらましていたというのか。
「嘘…」
「今嘘ついてどうするのさ」
##NAME1##の感想は半笑いで一蹴されてしまう。
「だって……ジャックくん、あんなに成績良かったし…」
「学校の成績なんて、その人物の能力の一つに過ぎない」
成績が良くて穏やかで気が利いて、彼は皆の模範となる学生だった。犯罪とは無縁な人物だと思っていた。
「##NAME1##ちゃん達に会いに行った一年前は、もう法的にはお咎め無しになってたよ。けど、僕は大分有名人だったらしい。警察を中心にね」
どういうことかと口を開く前に彼は続ける。
「彼らの目は冷たかった。と言うより、鋭かった。こいつはまた何かやらかすんじゃないかって、そしたら俺が捕まえてやるんだって目だった」
「……」
「もう帰国しても問題は無いんだけど、アメリカはかなり居まずい場所になっていた。だからこれが一段落しても、滅多に帰らないと思うよ。まあ、まだまだこっちでの仕事が忙しいだろうし」
「……」
##NAME1##の顔からはすっかり血の気が引いてしまっている。
隣に座っているこの男は、最早自分の知っている友人などではなかった。罪状は違えど、今日と昨日襲ってきた者達と同じ、犯罪者である。
先程彼はハッキングと言っていた。その行為で直接人を殺せはしないだろうが、人殺しと同じくらい重い罪を、または結果的に殺人に繋がる罪を犯したのだろうか。その帰国できない程の罪は、何故急にお咎め無しになったのか。そこでもまた後ろ暗いことをしたのかもしれない。
「……」
言葉が出せない。声すら出せない。
予想通り、汗だくになって小さく震える彼女を横目で見て、ジャック・デイビスは鼻で笑った。
「怖い?」
既にわかりきっている質問に返答できず、更に硬直する。元よりこの車から逃げ出す気は無いが、とにかく今は、彼の隣に座っていたくなかった。
「軽蔑する?」
「……わかんない」
やっとのことで絞り出したが、それすら十分な答えになっていない。
「ハッキングは…人に、迷惑をかけることは、悪いことだけど……でも、それが、ジャックくんにとって、どうしても必要なことだったなら……私は何も言えないよ…」
当たり障りの無いことしか口に出せないのは単純に恐怖のせいもあるが、遺跡の探索や避けられない争いの上で必要な手法だったのかもしれないと思うと、安易に彼を責めることができなかった。
「##NAME1##ちゃんならそう言ってくれるって思ってたよ。エジプト行きを名乗り出たのが他の奴だったらここに呼べなかった。今回の計画、正義感が強すぎても駄目だからね」
一年前彼が##NAME1##や他の友人に会いに来たのは、単に顔を見たかったからではなく、今回の協力者である三人目を査定するためだった。
「…そ、そっか…」
しっかり者だと思っていたが、そこまで抜け目の無い人間だったとは。
「あと口が軽いのも論外」
君の口は軽くないよね、という念押しに聞こえる。
「##NAME1##ちゃんがエジプトに着いた日さ、ホテルに来てもらってすぐに出発したじゃん。当初の日程がギリギリで忙しなかったのも、わざと。万一何か仕掛けられたり勝手なことをされたりしたら、困るからね」
疑われていた上に、最初から手の平の上で転がされていたのか。
「あ、不安にさせちゃった?言われた通り全部さらけ出したんだけど…僕の言い方がマズかったかな?」
否定されるとわかっていて敢えて自分のせいなのかと、ジャック・デイビスは可愛らしく首をかしげる。
「ううん!そうじゃないの!私が、勝手に…」
背もたれに体を預けられない。指先に体温が戻ってこない。とてもじゃないが、横を向けない。
「勝手に……なんでもない…」
当時虫を怖がっていた男の子の口から、今晩は彼らしくない言葉が次々と飛び出てきた。何より、友人が犯罪者になってしまっていたという事実を未だに受け入れられない。
「…昔は犯罪に手を染めた。悪知恵を働かせてきた。沢山の人を困らせてきた。その自覚はあるよ。人によっては、僕は一生許されない極悪人かもしれない。けれど、少なくとも明日は、君やジョナサンを手助けするために知識も知恵も最大限に活用する。##NAME1##ちゃんのために、全力を尽くす」
肩をすくめる##NAME1##の隣で、前科者は真っ直ぐ前を見て言い切った。
真っ白なバンは目的地に向け再度走り出す。
「たとえ僕が非情な大犯罪者だとしても、一般人の##NAME1##ちゃんを裏切ったところで何のメリットも無いからね。むしろ、君が無事にアメリカへ帰れなかったら真っ先に僕が疑われることになる。せっかく犯罪履歴を」
「あの、わかった」
覚悟が足りなかったのかもしれない。自分から聞き出すようなことをしておいて、耳を塞ぎたくなった。
「わかったから……もう良いから…」
本音もきつい冗談も、彼の口から出る言葉が全て冷淡に感じてしまう。今はとりあえず、もう何も聞きなくない。何も言わないでほしい。
「……」
「俯いてたら酔っちゃうよ」
言われるままにゆっくりと顔を上げる。
十二分に眩しい月明かりに照らされ、舗装されていない夜道が嫌でも目に入ってきた。真夜中にも関わらず、転がっている石ころやまばらな雑草まで妙にはっきりと見て取れる。砂漠を成すのは、きめ細やかなサラサラとした砂ばかりではない。
「……」
「……」
目的地に到着するまでに眠れるだろうか。エジプトに来たばかりだった一昨日の、何も知らなかった自分が羨ましく感じる。
「知るっていうのは、そういうことだよ。明日はよろしくね」
「……うん」
車内後部から聞こえる下品ないびき声が、今の彼女にとってはせめてもの癒やしだった。
「僕ね、犯罪者だったんだ」
一瞬、何を言われたのかわからず、##NAME1##はこれといった反応が出来なかった。
「は、はん」
「ハッキングの罪に問われてね。冤罪じゃないよ、実際に色々やらかしたんだ。詳しくは言えないけど、その罪で僕はアメリカには到底帰れない身分になってしまった」
だから音沙汰無かったとでもいうのか。それが理由で姿をくらましていたというのか。
「嘘…」
「今嘘ついてどうするのさ」
##NAME1##の感想は半笑いで一蹴されてしまう。
「だって……ジャックくん、あんなに成績良かったし…」
「学校の成績なんて、その人物の能力の一つに過ぎない」
成績が良くて穏やかで気が利いて、彼は皆の模範となる学生だった。犯罪とは無縁な人物だと思っていた。
「##NAME1##ちゃん達に会いに行った一年前は、もう法的にはお咎め無しになってたよ。けど、僕は大分有名人だったらしい。警察を中心にね」
どういうことかと口を開く前に彼は続ける。
「彼らの目は冷たかった。と言うより、鋭かった。こいつはまた何かやらかすんじゃないかって、そしたら俺が捕まえてやるんだって目だった」
「……」
「もう帰国しても問題は無いんだけど、アメリカはかなり居まずい場所になっていた。だからこれが一段落しても、滅多に帰らないと思うよ。まあ、まだまだこっちでの仕事が忙しいだろうし」
「……」
##NAME1##の顔からはすっかり血の気が引いてしまっている。
隣に座っているこの男は、最早自分の知っている友人などではなかった。罪状は違えど、今日と昨日襲ってきた者達と同じ、犯罪者である。
先程彼はハッキングと言っていた。その行為で直接人を殺せはしないだろうが、人殺しと同じくらい重い罪を、または結果的に殺人に繋がる罪を犯したのだろうか。その帰国できない程の罪は、何故急にお咎め無しになったのか。そこでもまた後ろ暗いことをしたのかもしれない。
「……」
言葉が出せない。声すら出せない。
予想通り、汗だくになって小さく震える彼女を横目で見て、ジャック・デイビスは鼻で笑った。
「怖い?」
既にわかりきっている質問に返答できず、更に硬直する。元よりこの車から逃げ出す気は無いが、とにかく今は、彼の隣に座っていたくなかった。
「軽蔑する?」
「……わかんない」
やっとのことで絞り出したが、それすら十分な答えになっていない。
「ハッキングは…人に、迷惑をかけることは、悪いことだけど……でも、それが、ジャックくんにとって、どうしても必要なことだったなら……私は何も言えないよ…」
当たり障りの無いことしか口に出せないのは単純に恐怖のせいもあるが、遺跡の探索や避けられない争いの上で必要な手法だったのかもしれないと思うと、安易に彼を責めることができなかった。
「##NAME1##ちゃんならそう言ってくれるって思ってたよ。エジプト行きを名乗り出たのが他の奴だったらここに呼べなかった。今回の計画、正義感が強すぎても駄目だからね」
一年前彼が##NAME1##や他の友人に会いに来たのは、単に顔を見たかったからではなく、今回の協力者である三人目を査定するためだった。
「…そ、そっか…」
しっかり者だと思っていたが、そこまで抜け目の無い人間だったとは。
「あと口が軽いのも論外」
君の口は軽くないよね、という念押しに聞こえる。
「##NAME1##ちゃんがエジプトに着いた日さ、ホテルに来てもらってすぐに出発したじゃん。当初の日程がギリギリで忙しなかったのも、わざと。万一何か仕掛けられたり勝手なことをされたりしたら、困るからね」
疑われていた上に、最初から手の平の上で転がされていたのか。
「あ、不安にさせちゃった?言われた通り全部さらけ出したんだけど…僕の言い方がマズかったかな?」
否定されるとわかっていて敢えて自分のせいなのかと、ジャック・デイビスは可愛らしく首をかしげる。
「ううん!そうじゃないの!私が、勝手に…」
背もたれに体を預けられない。指先に体温が戻ってこない。とてもじゃないが、横を向けない。
「勝手に……なんでもない…」
当時虫を怖がっていた男の子の口から、今晩は彼らしくない言葉が次々と飛び出てきた。何より、友人が犯罪者になってしまっていたという事実を未だに受け入れられない。
「…昔は犯罪に手を染めた。悪知恵を働かせてきた。沢山の人を困らせてきた。その自覚はあるよ。人によっては、僕は一生許されない極悪人かもしれない。けれど、少なくとも明日は、君やジョナサンを手助けするために知識も知恵も最大限に活用する。##NAME1##ちゃんのために、全力を尽くす」
肩をすくめる##NAME1##の隣で、前科者は真っ直ぐ前を見て言い切った。
真っ白なバンは目的地に向け再度走り出す。
「たとえ僕が非情な大犯罪者だとしても、一般人の##NAME1##ちゃんを裏切ったところで何のメリットも無いからね。むしろ、君が無事にアメリカへ帰れなかったら真っ先に僕が疑われることになる。せっかく犯罪履歴を」
「あの、わかった」
覚悟が足りなかったのかもしれない。自分から聞き出すようなことをしておいて、耳を塞ぎたくなった。
「わかったから……もう良いから…」
本音もきつい冗談も、彼の口から出る言葉が全て冷淡に感じてしまう。今はとりあえず、もう何も聞きなくない。何も言わないでほしい。
「……」
「俯いてたら酔っちゃうよ」
言われるままにゆっくりと顔を上げる。
十二分に眩しい月明かりに照らされ、舗装されていない夜道が嫌でも目に入ってきた。真夜中にも関わらず、転がっている石ころやまばらな雑草まで妙にはっきりと見て取れる。砂漠を成すのは、きめ細やかなサラサラとした砂ばかりではない。
「……」
「……」
目的地に到着するまでに眠れるだろうか。エジプトに来たばかりだった一昨日の、何も知らなかった自分が羨ましく感じる。
「知るっていうのは、そういうことだよ。明日はよろしくね」
「……うん」
車内後部から聞こえる下品ないびき声が、今の彼女にとってはせめてもの癒やしだった。