翌日早朝、白いバンはカイロ市内を規定内の速度で走っていた。

「それにしても参ったな、儀式に失敗したとなると…」
「今日の同じ時間に、もう一度試してみるのはダメなんですか？」
「うん。次のチャンスは千年後になる」
「せんっ…！？」

運転中のジャックはさらっと言ってのけたが、一世紀弱までしか生きられない普通の人間にとっては途方もない年月である。

「昨日デントさんが言ってた、次の手について詳しく聞いてみよう」
「##NAME1##を狙ったスナイパーの雇い主も気掛かりだ」
「それについても、アンドレ達が何か掴んでいるかもしれないね」

ここで話すのもなんじゃから、ゆっくりできる場所で落ち合うのはどうじゃ？というご老人の提案に皆が乗り、三人は今、亀人間達が滞在しているホテルに向かっている。

「一番広い部屋を借りているから、何人増えても構わないってさ」
「どこのホテルなんだ？」
「教えてもらった住所からすると、スチュワートホテルだよ」
「ああ、あそこか…」
「うん…」
「？」

運転席と助手席の間から覗いてきていた垂れ耳はより一層垂れ下がり、隣に居る友人はやや肩を落とした。

「俺への誤解は解けたんだろうな？」
「言い出した彼が悪人として逮捕されたんだし、一年も前のことだから大丈夫でしょ。それに“兎人間はVIP客だから丁重にもてなすこと”って社内報を念のため上げておいたよ」
「さすがだ」

助手席に座っている##NAME1##は、ジャックとジョナサンが何の話をしているのかさっぱり掴めない。

「ご存知なんですか？そのホテルのこと」
「あ、ええと…」
「まあ、ちょっとな」

何か一悶着あった口振りだが二人とも詳しく教えてくれず、適当に濁されてしまった。

「アンドレの奴、贅沢なこった」
「贅沢？」
「ああ。何せ、カイロで一番の最高級ホテルだからな」
「ほら、見えてきた。あれだよ」

ジャック越しに車の窓から外を見ると、巨大なホテルが手前のビルやマンションの背後から突き出していた。

その建物には##NAME1##も見覚えがあった。飛行機の中からエジプトの街を初めて目にした際、周りの建物を従えるかのようにそびえ立っていた建造物が未だ強く印象に残っている。

ジョナサン達は、そのホテルの天辺に招かれていた。