滑走路から飛び立つジェット機を夕日がオレンジ色に染め上げる空の下。年頃の娘が、あるホテルの一室の前で立ち止まった。

転がしてきたカートを隣に置き、控えめな力で数回ノックする。

「やあ##NAME1##ちゃん」

約束の人物はすぐに扉を開けてくれた。眼鏡を掛けた、同世代の男性だ。

「ジャックくん、久しぶり！」
「久しぶり！迎えに行けなくてごめんね、ここに来るまで迷わなかった？」
「大丈夫、歩いてすぐだもの」

##NAME1##はエジプトのカイロ空港からこの簡素なホテルまで一人でやってきた。待ち合わせ場所は予定外だったが、土地勘の無い彼女でもこうして迷わず辿り着ける程近所だったのが幸いした。

「…来るの、早すぎた？」

数分前に急な連絡をよこした彼の茶色い頭や黒いズボンには、よく見なくとも白い埃のようなものがこびり付いている。久々に会う友人のために一生懸命掃除していたらしい。

「あっ、いいや！そんなことないよ！気にしないで」

彼と同じく白い埃にまみれたコロコロクリーナーを、今更ながら背に隠された。

「ねえ、ジャックくん。あれからまたしばらく連絡取れなかったけど……調査ってそんなに大変なの？」

自分に非があれば素直に謝罪し、再会する友のために安いホテルの部屋をわざわざ清掃する。まるで温厚を具現化したような人物だが、彼ジャック・デイビスは長い間行方を眩ませていた。つい最近になって##NAME1##や他の友人に連絡を寄越してきたのだ。

「この間だって、やっと会えたと思ったらすぐ居なくなっちゃうし…みんな心配してたよ」
「まあ、ちょっとね。後で話すよ。それより、こんな所まで来てくれてありがとう。苦労かけるね」
「ううん。エジプト初めてだから楽しみなの」

ジャックは申し訳なさそうに労りの言葉をかけるが友は明るく否定し微笑んでみせた。

「##NAME1##ちゃんだけだよ、来てくれたの。音沙汰無かった奴にいきなり海外に手伝いに来てほしいなんて言われても、やっぱり皆難しいみたいで」
「そうだ、その手伝ってほしいことって何なの？」

出入国カードには“観光”にチェックを入れて空港の審査をくぐってきたが、彼女の本来の目的は別にある。

「難しいことじゃないよ。観光ついで、むしろ遊び半分だと思ってもらっても良いくらい。説明は長くなるから、その前にシャワー浴びてきなよ」
「ありがとう。エジプトってやっぱり暑いんだね。あと砂っぽい」
「乾燥帯だから、昼は火傷する程暑く夜は意外と冷え込む。体調はしっかり管理しようね」
「はーい」