Case14 繰り返す過ち
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夜も更け、もうじき日付が変わろうとしている。本日の用事も残すところあと1件。
「まあ楽にしなよ」
顔本は署長室の2人掛けソファに深々と座り、背もたれに両腕を乗せ無防備な姿勢。ここは自分の部屋だと言わんばかりのリラックス振りだ。
「もし、これが苦ならば拒否しても構わない」
「苦?ンな事私いつ言った~?」
質問返しを食らっても黒岩署長はソファになかなか座らず、顔本の横に立って彼女を真っ直ぐ見下ろしている。
この女性は平気な顔を作っている。
「だとしてもそん時は自分から言う。だからそれまでは安心してなって。この魅惑の太ももに包まれながらさぁ~」
相手をからかう薄ら笑いのまま顔本は押し倒された。
「やはり」
引きつるよりも先に渋谷警察署長の顔面が間近に迫る。
「……何」
「震えているぞ」
揺らぐ目と目がかち合った状態で指摘される。押さえ付けられている手首は正直だ。健気な嘘がバレてしまった。
「まさか自分で気が付いていなかったか?お前は自分自身の事になるとたちまち雑になるからな」
「そっ、そうでもないしっ、そんなことないしっ!自分超大事にしてる、し……っ!」
首筋に顔を埋められ、顔本の身体はぴくりと反応する。
「や、…ちょっ…!」
欲情と同時に、それとはまた異なるうずきで身体の芯が震えた。
「どちらにせよ、今のお前は無理をして俺に接している」
今の怯える目が何よりの証拠。
「今後直に会うことは控えよう。ここにもしばらく来なくて良い」
黒岩が上から退き、組み敷かれていた顔本は開放感に襲われる。
「え…?」
来なくて良い。そう言われた。
役割が無くなる。求められなくなる。血の気がみるみる引いて行くのが手に取るように分かった。
「ま、待って!待っ……」
焦りから顔本は仰向けのまま咄嗟に手を伸ばすが、目の前の光景が昼間の空へと切り替わる。
「!?」
白い装甲で覆われた巨大な後ろ足が、私に向かって勢いをつけ下りてくる。
「うぅっ!?……?」
踏み潰される直前で、視界は署長室の天井に戻った。ほんの一瞬の出来事だった。
「また……まただ……」
「?」
「瓦礫に……奴等の足に……今日なんか目が、目っていうか、なんか変だわ私」
「もう帰れ。帰って、しっかり休め」
署長は部下に背を向けて立ち、彼女が大人しく帰るのを待つつもりでいた。
「ありがと……でも、変なのは署長もだよ。どしたの?」
黒岩は思わず息を呑んだ。
「なんかあった?」
「……」
「ほらまた黙るー!誤魔化そうったって無駄だからね、『まさか自分で気が付いていなかったか?』……署長の手もバッチシ震えてたよ」
顔本に顔本自身の恐怖を自覚させている間、己の手も同じく緊張していたらしい。数時間前の出来事がまだ尾を引いている。情けないことだ。
「……敵わないな」
諦めからか笑みが自然と溢れる。もう隠すのは止めだ。部下がこちらの顔を覗きに来るよりも早く、渋谷警察署長は真剣な面持ちで振り向いた。
「慶作が死んだ」
S.D.S.カウンセリング係の足はソファから立ち上がったところでピタリと止まる。
「厳密には消滅したとの報告だ。5時間前の、オペレーション・ネフェリム遂行中にな」
「……」
「慶作が搭乗していたパペットも失った。全て俺の責任だ」
渋谷警察署長は真っ直ぐ見据えてくる。逆に顔本の方がたまらず目を逸らした。
「……」
「……」
「そ、そう……そうか…」
やっとのことで重い沈黙を破った。さすがの顔本も精一杯言葉を選ぶ。
「残念だね……大変だったんだね、今日は……本当に、お疲れ様」
「それは顔本も同じだろう。今夜はもう帰って休養を」
顔本は改めてソファに座り、自身の太ももをポンポン叩いて注目を促した。
「ほら」
「?」
「このために出張サービス頼んだんでしょ?ほれほれ」
まるで慶作の件を聞いていなかったかのような態度で顔本はにっこり笑ってみせる。
「……俺が間違っていた」
部下の気遣いは逆効果だった。黒岩署長は片手で額を覆い、苦しい表情のままうつ向いた。
「結果的に……今日の作戦も、お前についても……」
「聞くから。話聞くから。とりあえずこっち来て飛び込んどけ」
「顔本。身体的にも精神的にも……無論、性的にも……お前にこれ以上負担を掛ける訳には…」
「だぁーっ!!もう!いいから黙って仕事させろや!」
なかなか甘えてこない黒岩の首元に顔本が飛び付いた。掴んだ頭と肩は高い位置にあるが、身長差を物ともせず無理矢理降ろしにかかる。
「うあっ、お、おいっ、顔本っ!?」
「はーい望まぬ膝枕の刑ーっ!」
有無を言わさない流れについ押され、黒岩はソファに寝転がってしまった。
「っ……慶作の死は、お前にとってもショックな出来事だ!」
下手に抵抗して怪我をさせてはならない。黒岩は膝枕に従いつつも大声で抗議する。
「俺の独断であの子を死なせたも同然…!」
「はいはい」
「それでいて、お前にこうして頼るのは…頼ってしまうのはっ…」
「はいはい。起こすの何分後?それともこのまま朝までコース?」
「止めるんだ。そもそもストレスだろう、俺に触れるのは」
黒岩の頭を馴れ馴れしく撫でようとした寸前で手は停止する。
「止めなさい」
「いいの。膝枕なら、大丈夫なの。でも……」
部下の女性は目を固く瞑った。
「怖い……怖いよ、やっぱ。怖くなっちゃったの。署長が…男性が…ほとんどの男性が、触るの怖くなっちゃった」
顔本は組んだ両手を口に押さえ付けて、沸き上がる震えをなるべく押さえ込む。
「原因は多分、アレ。あの時のやつ」
「あの時?」
「私と署長で『あの時』っつったら……分かるでしょ?」
暴漢数人に襲われたあの日から、その余波を互いに慰め合ったあの日から、ずっとだ。
「『あの時』、か……」
「きっと私、雌としてビビっちゃってるだけだよ、雄に。いや、署長の底知れぬ性欲の強さに」
顔本は部屋に2人きりの男性のことをわざと茶化して気分転換を図る。
「その説は、その、済まなかった…」
「謝るくらいなら」
戸惑う黒岩を起こすも隣に座らせるも最早自由自在。非力な女の誘導に男はぎこちなく従う。
「してよ。荒治療」
今度は顔本が押し倒す側。
「……済まないが、どうにもそんな気分にはなれない。特に、今日は……こんな日は……」
「こちとら、こんな日にこじれちゃうくらい重傷なんですけど」
顔本はねっとりとした手付きで警官服の上から相手の厚い胸を撫でる。
「し、しかしだな顔本っ、慶作を失ったばかりで、その……俺達だけ、このような……こういったことは…!」
「だからこそじゃん」
黒岩のお堅いネクタイを顔本はするするとほどき取り払った。
「こんな時だからこそ、元気出すために……明日も生きてくために、するの」
彼女は彼の肩に口元をうずめて目を再び固く瞑る。
「元気、頂戴。あげるから」
「……」
異性が怖くなってしまったというのに、こちらは気分が乗らないというのに、この雌は無理矢理事を進めようとしてくる。頭を包み込んで撫でてくる。彼女なりの優しさなのか、動物的本能故なのか。
「……不全になったらお前のせいにするからな」
「上等」
「まあ楽にしなよ」
顔本は署長室の2人掛けソファに深々と座り、背もたれに両腕を乗せ無防備な姿勢。ここは自分の部屋だと言わんばかりのリラックス振りだ。
「もし、これが苦ならば拒否しても構わない」
「苦?ンな事私いつ言った~?」
質問返しを食らっても黒岩署長はソファになかなか座らず、顔本の横に立って彼女を真っ直ぐ見下ろしている。
この女性は平気な顔を作っている。
「だとしてもそん時は自分から言う。だからそれまでは安心してなって。この魅惑の太ももに包まれながらさぁ~」
相手をからかう薄ら笑いのまま顔本は押し倒された。
「やはり」
引きつるよりも先に渋谷警察署長の顔面が間近に迫る。
「……何」
「震えているぞ」
揺らぐ目と目がかち合った状態で指摘される。押さえ付けられている手首は正直だ。健気な嘘がバレてしまった。
「まさか自分で気が付いていなかったか?お前は自分自身の事になるとたちまち雑になるからな」
「そっ、そうでもないしっ、そんなことないしっ!自分超大事にしてる、し……っ!」
首筋に顔を埋められ、顔本の身体はぴくりと反応する。
「や、…ちょっ…!」
欲情と同時に、それとはまた異なるうずきで身体の芯が震えた。
「どちらにせよ、今のお前は無理をして俺に接している」
今の怯える目が何よりの証拠。
「今後直に会うことは控えよう。ここにもしばらく来なくて良い」
黒岩が上から退き、組み敷かれていた顔本は開放感に襲われる。
「え…?」
来なくて良い。そう言われた。
役割が無くなる。求められなくなる。血の気がみるみる引いて行くのが手に取るように分かった。
「ま、待って!待っ……」
焦りから顔本は仰向けのまま咄嗟に手を伸ばすが、目の前の光景が昼間の空へと切り替わる。
「!?」
白い装甲で覆われた巨大な後ろ足が、私に向かって勢いをつけ下りてくる。
「うぅっ!?……?」
踏み潰される直前で、視界は署長室の天井に戻った。ほんの一瞬の出来事だった。
「また……まただ……」
「?」
「瓦礫に……奴等の足に……今日なんか目が、目っていうか、なんか変だわ私」
「もう帰れ。帰って、しっかり休め」
署長は部下に背を向けて立ち、彼女が大人しく帰るのを待つつもりでいた。
「ありがと……でも、変なのは署長もだよ。どしたの?」
黒岩は思わず息を呑んだ。
「なんかあった?」
「……」
「ほらまた黙るー!誤魔化そうったって無駄だからね、『まさか自分で気が付いていなかったか?』……署長の手もバッチシ震えてたよ」
顔本に顔本自身の恐怖を自覚させている間、己の手も同じく緊張していたらしい。数時間前の出来事がまだ尾を引いている。情けないことだ。
「……敵わないな」
諦めからか笑みが自然と溢れる。もう隠すのは止めだ。部下がこちらの顔を覗きに来るよりも早く、渋谷警察署長は真剣な面持ちで振り向いた。
「慶作が死んだ」
S.D.S.カウンセリング係の足はソファから立ち上がったところでピタリと止まる。
「厳密には消滅したとの報告だ。5時間前の、オペレーション・ネフェリム遂行中にな」
「……」
「慶作が搭乗していたパペットも失った。全て俺の責任だ」
渋谷警察署長は真っ直ぐ見据えてくる。逆に顔本の方がたまらず目を逸らした。
「……」
「……」
「そ、そう……そうか…」
やっとのことで重い沈黙を破った。さすがの顔本も精一杯言葉を選ぶ。
「残念だね……大変だったんだね、今日は……本当に、お疲れ様」
「それは顔本も同じだろう。今夜はもう帰って休養を」
顔本は改めてソファに座り、自身の太ももをポンポン叩いて注目を促した。
「ほら」
「?」
「このために出張サービス頼んだんでしょ?ほれほれ」
まるで慶作の件を聞いていなかったかのような態度で顔本はにっこり笑ってみせる。
「……俺が間違っていた」
部下の気遣いは逆効果だった。黒岩署長は片手で額を覆い、苦しい表情のままうつ向いた。
「結果的に……今日の作戦も、お前についても……」
「聞くから。話聞くから。とりあえずこっち来て飛び込んどけ」
「顔本。身体的にも精神的にも……無論、性的にも……お前にこれ以上負担を掛ける訳には…」
「だぁーっ!!もう!いいから黙って仕事させろや!」
なかなか甘えてこない黒岩の首元に顔本が飛び付いた。掴んだ頭と肩は高い位置にあるが、身長差を物ともせず無理矢理降ろしにかかる。
「うあっ、お、おいっ、顔本っ!?」
「はーい望まぬ膝枕の刑ーっ!」
有無を言わさない流れについ押され、黒岩はソファに寝転がってしまった。
「っ……慶作の死は、お前にとってもショックな出来事だ!」
下手に抵抗して怪我をさせてはならない。黒岩は膝枕に従いつつも大声で抗議する。
「俺の独断であの子を死なせたも同然…!」
「はいはい」
「それでいて、お前にこうして頼るのは…頼ってしまうのはっ…」
「はいはい。起こすの何分後?それともこのまま朝までコース?」
「止めるんだ。そもそもストレスだろう、俺に触れるのは」
黒岩の頭を馴れ馴れしく撫でようとした寸前で手は停止する。
「止めなさい」
「いいの。膝枕なら、大丈夫なの。でも……」
部下の女性は目を固く瞑った。
「怖い……怖いよ、やっぱ。怖くなっちゃったの。署長が…男性が…ほとんどの男性が、触るの怖くなっちゃった」
顔本は組んだ両手を口に押さえ付けて、沸き上がる震えをなるべく押さえ込む。
「原因は多分、アレ。あの時のやつ」
「あの時?」
「私と署長で『あの時』っつったら……分かるでしょ?」
暴漢数人に襲われたあの日から、その余波を互いに慰め合ったあの日から、ずっとだ。
「『あの時』、か……」
「きっと私、雌としてビビっちゃってるだけだよ、雄に。いや、署長の底知れぬ性欲の強さに」
顔本は部屋に2人きりの男性のことをわざと茶化して気分転換を図る。
「その説は、その、済まなかった…」
「謝るくらいなら」
戸惑う黒岩を起こすも隣に座らせるも最早自由自在。非力な女の誘導に男はぎこちなく従う。
「してよ。荒治療」
今度は顔本が押し倒す側。
「……済まないが、どうにもそんな気分にはなれない。特に、今日は……こんな日は……」
「こちとら、こんな日にこじれちゃうくらい重傷なんですけど」
顔本はねっとりとした手付きで警官服の上から相手の厚い胸を撫でる。
「し、しかしだな顔本っ、慶作を失ったばかりで、その……俺達だけ、このような……こういったことは…!」
「だからこそじゃん」
黒岩のお堅いネクタイを顔本はするするとほどき取り払った。
「こんな時だからこそ、元気出すために……明日も生きてくために、するの」
彼女は彼の肩に口元をうずめて目を再び固く瞑る。
「元気、頂戴。あげるから」
「……」
異性が怖くなってしまったというのに、こちらは気分が乗らないというのに、この雌は無理矢理事を進めようとしてくる。頭を包み込んで撫でてくる。彼女なりの優しさなのか、動物的本能故なのか。
「……不全になったらお前のせいにするからな」
「上等」
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