Case14 繰り返す過ち
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「こんばんわぁ~」
「こんばんは、姉さんが最後の相談者かな。お待たせ」
目の前のやるべき仕事に集中し、終わりが見えてきた頃にはすっかり日が暮れていた。
「顔本さ~ん、相談ってゆーか質問ってゆーか確認なんですけどぉ~」
「何?」
同年代かそれ以下の女性が猫撫で声と共ににじり寄る。顔本は毅然とした態度で接するが、カウンターがバリア代わりになってくれて己の苛立ちがいくらか収まり安堵している。
「ケーサツの人達がぁ~、アダ名かな?顔本さんのこと『処理女』って言ってたの、聞いちゃいまして~」
彼女の発言には嘘も勘違いも無い。S.D.S.随一の問題児をあやす係は顔本と決まっており、今日もこの署内1階カウンターにて生かしどころのないクレーム対応に追われていた。
「だから?」
「だからやっぱぁ~、うふふ、顔本さん、黒岩署長の性欲処理係ってホントなんですかぁー?」
窓の外は暗く、フロア内の人もまばら。だからこそ、この女の踏み込み過ぎな発言はよく響き渡った。
「……」
「あれぇー?顔本さん?顔本処理係さーん?」
渋谷警察署のトップに関する、取り扱いの難し過ぎる話題。あることないこと吹聴されれば、渋谷民の結束が緩み兼ねない。
「……」
「もしかして地雷踏んじゃった~?」
通りすがりの警官達は耳を澄ませて顔本の回答を待つ。先輩警官達からすれば顔本も十分問題児だ。単なるクレームや悪口ならともかく、今回は顔本自身にも関わってくる質問内容。彼女はどう返すつもりでいるのか。いざとなればフォローに回らなければならない。
「いやぁーっ!実はこの間さ~…あっ、ここだけの話だからねコレ!」
無反応から一変、相談窓口係は内緒話へ陽気に誘い込む。
「うんうんっ」
「実はさ……膝枕頼まれて」
「……はい?」
「急に署長室呼び出されてさー、何事かと思うじゃん?したらただ座ってろってさ」
「え、え?は?何?膝枕?」
「参っちゃうよー、地味に足痺れるし。姉さんの推理惜しかったね、私は署長の睡魔処理係」
「ちょっ、待ってよ!違うっつーの!そーいうのじゃなくって!」
「じゃないとは?」
「だ、だから!その…あるでしょ!?」
「あるとは?」
クレーム対応で疲弊しきったところにちょっかいを出せば、きっとこの女、ひいては渋谷が刺激的で面白いことになってしまうだろう。しかもこの私がきっかけで。そんな期待を胸に質問者は渋谷警察署を訪れたのだが、壁は思いの外強固だった。
「~っ、セックスしたかって聞いてんの!!」
「おおお、ハッキリ言うね。急にサバサバ女子」
「性欲処理っつったらセックスに決まってんだろ!?」
「おうおう膝枕だって立派な性欲処理よ。女の太もも癒し効果ナメんな」
「ソッチこそナメんな!どーせヤりまくってんだろー?権力者様とよーぉ~!?」
「は~あ?知らね~よ署長のンな個人的なこと!」
周りの数人は割り込むでもなく無視するでもなく、幼稚な口喧嘩をただただ見守っている。フォローしなくてもなんだか大丈夫な気がしてきた。
「てか署長あの感じで童貞だったらヤバくね?」
「誤魔化すんじゃねーよ!呼び出されて男と女2人きりだったんだろ?なんも無いワケねーじゃん!」
「だったら童貞は有り得ねーって言いたいの?被ってないと?」
かなり下世話な話題。もし泉海巡査長ならば即座に止めに入っていたのだろう。
「質問してんのはこっち!」
「私にアレコレ聞かれてもねぇ~。そもそもあの人彼女か奥さん居るんじゃね?」
「その辺もアンタが一番知ってんだろォ~?」
本人の許可も得ずに口を割るつもりは毛頭無いし、だとしてもこのタイミングで話題を進展させる程顔本は命知らずではない。相談窓口係の視界に超強力な助っ人が映り込んだからだ。
「そこまで知りたいなら本人に聞けばぁ~?」
「プッ、バカじゃね?本人に聞けねーからこうしてアンタに聞い……え?」
厄介なクレーマーは血の気が引いた顔でゆっくり振り向く。背後には渦中の人物、渋谷警察署のトップが仁王立ちしていた。
「サバサバ系女子ガンバッ!」
「い、い~えぇ~結構ですぅ~っ」
最後の相談者が帰り、顔本の仕事がようやく終わった。
「窓口に復帰したは良いけどさ、ああいう冷やかしばっか!マトモな相談全然来ないんだけど?」
「そんなことはない。あれはあれでお前を必要としているんだ」
「へーへーそりゃ有り難ぇこった。たしかに今日は忙しかったしなぁ。で?なんか用?」
「……」
わざわざ顔本の持ち場に現れた黒岩だが、その理由を聞かれた途端押し黙ってしまう。
「……大した用ではないのだが……」
「『手が空いたら署長室に来てくれ』って?はいよー」
「……助かる」
顔本は先程の相談者に嘘は言っていない。渋谷民のあずかり知らないところで、秘密の膝枕は頻繁に行われていた。
「こんばんは、姉さんが最後の相談者かな。お待たせ」
目の前のやるべき仕事に集中し、終わりが見えてきた頃にはすっかり日が暮れていた。
「顔本さ~ん、相談ってゆーか質問ってゆーか確認なんですけどぉ~」
「何?」
同年代かそれ以下の女性が猫撫で声と共ににじり寄る。顔本は毅然とした態度で接するが、カウンターがバリア代わりになってくれて己の苛立ちがいくらか収まり安堵している。
「ケーサツの人達がぁ~、アダ名かな?顔本さんのこと『処理女』って言ってたの、聞いちゃいまして~」
彼女の発言には嘘も勘違いも無い。S.D.S.随一の問題児をあやす係は顔本と決まっており、今日もこの署内1階カウンターにて生かしどころのないクレーム対応に追われていた。
「だから?」
「だからやっぱぁ~、うふふ、顔本さん、黒岩署長の性欲処理係ってホントなんですかぁー?」
窓の外は暗く、フロア内の人もまばら。だからこそ、この女の踏み込み過ぎな発言はよく響き渡った。
「……」
「あれぇー?顔本さん?顔本処理係さーん?」
渋谷警察署のトップに関する、取り扱いの難し過ぎる話題。あることないこと吹聴されれば、渋谷民の結束が緩み兼ねない。
「……」
「もしかして地雷踏んじゃった~?」
通りすがりの警官達は耳を澄ませて顔本の回答を待つ。先輩警官達からすれば顔本も十分問題児だ。単なるクレームや悪口ならともかく、今回は顔本自身にも関わってくる質問内容。彼女はどう返すつもりでいるのか。いざとなればフォローに回らなければならない。
「いやぁーっ!実はこの間さ~…あっ、ここだけの話だからねコレ!」
無反応から一変、相談窓口係は内緒話へ陽気に誘い込む。
「うんうんっ」
「実はさ……膝枕頼まれて」
「……はい?」
「急に署長室呼び出されてさー、何事かと思うじゃん?したらただ座ってろってさ」
「え、え?は?何?膝枕?」
「参っちゃうよー、地味に足痺れるし。姉さんの推理惜しかったね、私は署長の睡魔処理係」
「ちょっ、待ってよ!違うっつーの!そーいうのじゃなくって!」
「じゃないとは?」
「だ、だから!その…あるでしょ!?」
「あるとは?」
クレーム対応で疲弊しきったところにちょっかいを出せば、きっとこの女、ひいては渋谷が刺激的で面白いことになってしまうだろう。しかもこの私がきっかけで。そんな期待を胸に質問者は渋谷警察署を訪れたのだが、壁は思いの外強固だった。
「~っ、セックスしたかって聞いてんの!!」
「おおお、ハッキリ言うね。急にサバサバ女子」
「性欲処理っつったらセックスに決まってんだろ!?」
「おうおう膝枕だって立派な性欲処理よ。女の太もも癒し効果ナメんな」
「ソッチこそナメんな!どーせヤりまくってんだろー?権力者様とよーぉ~!?」
「は~あ?知らね~よ署長のンな個人的なこと!」
周りの数人は割り込むでもなく無視するでもなく、幼稚な口喧嘩をただただ見守っている。フォローしなくてもなんだか大丈夫な気がしてきた。
「てか署長あの感じで童貞だったらヤバくね?」
「誤魔化すんじゃねーよ!呼び出されて男と女2人きりだったんだろ?なんも無いワケねーじゃん!」
「だったら童貞は有り得ねーって言いたいの?被ってないと?」
かなり下世話な話題。もし泉海巡査長ならば即座に止めに入っていたのだろう。
「質問してんのはこっち!」
「私にアレコレ聞かれてもねぇ~。そもそもあの人彼女か奥さん居るんじゃね?」
「その辺もアンタが一番知ってんだろォ~?」
本人の許可も得ずに口を割るつもりは毛頭無いし、だとしてもこのタイミングで話題を進展させる程顔本は命知らずではない。相談窓口係の視界に超強力な助っ人が映り込んだからだ。
「そこまで知りたいなら本人に聞けばぁ~?」
「プッ、バカじゃね?本人に聞けねーからこうしてアンタに聞い……え?」
厄介なクレーマーは血の気が引いた顔でゆっくり振り向く。背後には渦中の人物、渋谷警察署のトップが仁王立ちしていた。
「サバサバ系女子ガンバッ!」
「い、い~えぇ~結構ですぅ~っ」
最後の相談者が帰り、顔本の仕事がようやく終わった。
「窓口に復帰したは良いけどさ、ああいう冷やかしばっか!マトモな相談全然来ないんだけど?」
「そんなことはない。あれはあれでお前を必要としているんだ」
「へーへーそりゃ有り難ぇこった。たしかに今日は忙しかったしなぁ。で?なんか用?」
「……」
わざわざ顔本の持ち場に現れた黒岩だが、その理由を聞かれた途端押し黙ってしまう。
「……大した用ではないのだが……」
「『手が空いたら署長室に来てくれ』って?はいよー」
「……助かる」
顔本は先程の相談者に嘘は言っていない。渋谷民のあずかり知らないところで、秘密の膝枕は頻繁に行われていた。