Case13 仕方ないの
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「……何ですか?」
一対一で向かい合い座っている担当医へ、顔本は深々と頭を下げていた。
「……顔本さん?」
秒針の進む無機質な音だけが清潔な診察室に響く。
「頭を上げてください」
「私のせいで」
「……」
「私のせいで、先生…この間、連れ去られて…」
頭頂部しか見えないが、今にも泣き出しそうな声から彼女の真剣な表情を容易に推測できる。
「そのことですか。何を仰いますか、決して顔本さんのせいではありませんよ」
「でも私が居なかったら、大介くんは真っ先に先生を助けに行けた!それに私は、浅野さんやみんなの不安を煽って…先生が止めにバスを出て行って…だからリヴィジョンズに…」
「頭を上げてください、貴女らしくない。結果から言えばむしろプラスですよ。私は今こうして無事渋谷に戻ってきたし、貴重なサンプルを持ち出すこともできた。貴女が気に病む必要はありません」
「……怒ってないの?」
「とんでもない」
堂嶋幹夫は反省しきっている顔本へ朗らかな笑顔を向ける。
しかし、彼は掛けている眼鏡を怪しく光らせた。
「そういった……あえての冷たい態度だとか……特殊な接し方を望まれるのであれば、私も努力を惜しみませんが」
あくまで場を和ませるための冗談。それと、上目遣いで恐る恐るこちらの様子を窺ってくる彼女が可愛らしくて、つい。
「やめてやめて。優しい先生が好き」
最後に使われた単語には他意が無い。バスで隣の席に座っていた時もそうだ。脈ナシな患者と医師の関係、それ以上でも未満でもない。
幹夫は側のテーブルに肘を突いた。自身の額に触れ視線を落とす。
「……はぁー」
「うっ…やっぱ怒ってるじゃん」
「ある意味では。逆に顔本さんは怒らないんですか?」
「?は?誰を?」
「誤った診断を下してきた私を」
今日顔本が彼に会うべく病院に出向いたのは、自身の診断結果を聞くためだった。現代の医療技術に基づいた、正式な結果内容を。
「急に頭を下げられてうやむやになるところでした。先程も申し上げましたが、顔本さんは実は最初から軽傷でした」
「それは……なんとなくわかってたし」
わかっていたというのは、怪我が痛みの割に大して重くなかったことなのか、医師が誤った診断をしてしまっていたことなのか、それとも、医師に嘘を吐かれていたことなのか。それ以上顔本は深掘りしなかった。
「ってことはだよ、私はもう安静第一じゃなくても…!」
「そうなりますね……そこで、もし宜しければ」
患者は急に立ち上がり医師の提案を遮った。退屈していた元相談窓口係の一般人は希望に満ち溢れた顔で、彼方を見ている。堂嶋幹夫はその眼中に無い。
「あ?何すか?」
「……いえ、お大事に」
「うん。今までありがとっ、先生!」
最高の笑顔を見せた元患者は颯爽と病院を後にした。
「……必要無かったか、私のお節介は」
堂嶋幹夫は壁際に吊るされた予備の白衣へ目を向ける。粗暴だが心優しい彼女に案外似合いそうと思っていたが、実現は叶わず終い。
「次の方どうぞ」
渋谷の電力が復旧し、医療現場に十分な電気が通い始めた。そしてRVウイルスのサンプルを持ち帰ってきたばかり。医師として大勢から頼られている彼には、個人的な事情で胸を痛めている暇はほとんど無かった。
一対一で向かい合い座っている担当医へ、顔本は深々と頭を下げていた。
「……顔本さん?」
秒針の進む無機質な音だけが清潔な診察室に響く。
「頭を上げてください」
「私のせいで」
「……」
「私のせいで、先生…この間、連れ去られて…」
頭頂部しか見えないが、今にも泣き出しそうな声から彼女の真剣な表情を容易に推測できる。
「そのことですか。何を仰いますか、決して顔本さんのせいではありませんよ」
「でも私が居なかったら、大介くんは真っ先に先生を助けに行けた!それに私は、浅野さんやみんなの不安を煽って…先生が止めにバスを出て行って…だからリヴィジョンズに…」
「頭を上げてください、貴女らしくない。結果から言えばむしろプラスですよ。私は今こうして無事渋谷に戻ってきたし、貴重なサンプルを持ち出すこともできた。貴女が気に病む必要はありません」
「……怒ってないの?」
「とんでもない」
堂嶋幹夫は反省しきっている顔本へ朗らかな笑顔を向ける。
しかし、彼は掛けている眼鏡を怪しく光らせた。
「そういった……あえての冷たい態度だとか……特殊な接し方を望まれるのであれば、私も努力を惜しみませんが」
あくまで場を和ませるための冗談。それと、上目遣いで恐る恐るこちらの様子を窺ってくる彼女が可愛らしくて、つい。
「やめてやめて。優しい先生が好き」
最後に使われた単語には他意が無い。バスで隣の席に座っていた時もそうだ。脈ナシな患者と医師の関係、それ以上でも未満でもない。
幹夫は側のテーブルに肘を突いた。自身の額に触れ視線を落とす。
「……はぁー」
「うっ…やっぱ怒ってるじゃん」
「ある意味では。逆に顔本さんは怒らないんですか?」
「?は?誰を?」
「誤った診断を下してきた私を」
今日顔本が彼に会うべく病院に出向いたのは、自身の診断結果を聞くためだった。現代の医療技術に基づいた、正式な結果内容を。
「急に頭を下げられてうやむやになるところでした。先程も申し上げましたが、顔本さんは実は最初から軽傷でした」
「それは……なんとなくわかってたし」
わかっていたというのは、怪我が痛みの割に大して重くなかったことなのか、医師が誤った診断をしてしまっていたことなのか、それとも、医師に嘘を吐かれていたことなのか。それ以上顔本は深掘りしなかった。
「ってことはだよ、私はもう安静第一じゃなくても…!」
「そうなりますね……そこで、もし宜しければ」
患者は急に立ち上がり医師の提案を遮った。退屈していた元相談窓口係の一般人は希望に満ち溢れた顔で、彼方を見ている。堂嶋幹夫はその眼中に無い。
「あ?何すか?」
「……いえ、お大事に」
「うん。今までありがとっ、先生!」
最高の笑顔を見せた元患者は颯爽と病院を後にした。
「……必要無かったか、私のお節介は」
堂嶋幹夫は壁際に吊るされた予備の白衣へ目を向ける。粗暴だが心優しい彼女に案外似合いそうと思っていたが、実現は叶わず終い。
「次の方どうぞ」
渋谷の電力が復旧し、医療現場に十分な電気が通い始めた。そしてRVウイルスのサンプルを持ち帰ってきたばかり。医師として大勢から頼られている彼には、個人的な事情で胸を痛めている暇はほとんど無かった。