Case13 仕方ないの
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顔本は署の外から微かに届いてくる音に顔を上げ、それの正体を目でとらえ小声で答え合わせした。
「雨か……」
この2388年の月と日が、2017年の頃のそれと一致し同時進行しているならば、今はもうじき梅雨の季節である。
「湿っぽいのは苦手だなー、なんか体ダルくなるし」
「シャキッとしなさいな顔本さんっ」
「ほら、相談者いらっしゃったわよぉー」
カウンター内の婦警達に諭され、顔本は姿勢と態度を正す。
「雨ん中どーもー」
態度は元通り緩んでしまった。
「顔本さん、いい加減にしないと泉海さん呼ぶわよ」
「いーもんねーだ、泉海さん甘々だもんねーっ」
「それか黒岩さん」
「い…いーもんねー…」
「あの、いいんです、お構い無く…私達の勝手な都合で聞いていただくことですから…」
態度については目の前の相談者本人達からお許しが出た。
顔本は気が楽になったと同時に、なんとなくこの男女に抱いている違和感に集中する。原因はまだわからないが、謙虚さとは異なる何かを感じ取っていた。
「実は私達、この6月に式を挙げる予定で…」
「式って…結婚式!?」
顔本の大きな声をきっかけに、周囲が悩めるカップルへ目を向け始める。
「へーっ、マジかぁおめでと!幸せ噛み締めろよ~?」
「あ、ありがとうございます。でも、こんな状況だから勿論中止になっちゃって…」
「それは…お気の毒です」
「お、泉海さん。おっつー」
下手な発言が飛び出ればフォロー必須なため、偶然通りすがった泉海は顔本の隣に来てスタンバイする。
「まあ、どうせ中止になっても困るのは僕と妻だけですし…」
「どゆこと?」
顔本は腕を組んだまま軽く尋ねる。
「2人で披露宴のこと取り決めをしに渋谷に来て、帰る途中にこんなことになったんです。ここには親戚も知人も居なくて…」
「なるほど」
「そうでしたか…」
渋谷時空災害の被災者の中には、当時渋谷や東京の外から訪れていてたまたま巻き込まれてしまった人々も多数存在する。この相談者や顔本も、いわゆる余所者だ。渋谷は居住区でも勤め先でもなく、土地勘の無い人達。地域によっては、邪魔者扱いされながらの避難民生活を強いられている。
「本当、どうしてこんなことになっちゃったんでしょ…はぁ…」
「な?打ち明けて気がいくらか晴れただろ?」
「そうね…今まで誰にも言えなかったから…」
違和感の正体は相談者達による諦めの感情だった。慣れない土地での疎外感も相まってなのか、彼等は最初から解決を求めていない。求めるエネルギーすら残り僅かのようだ。
「式は無事に帰ってから絶対挙げようか…」
「わかったわ……今はこらえなきゃよね…」
「……式はね」
黙って観察に徹していた顔本は、仏頂面で両腕を組んだまま短く呟いた。
「?」
「にひひー」
「雨か……」
この2388年の月と日が、2017年の頃のそれと一致し同時進行しているならば、今はもうじき梅雨の季節である。
「湿っぽいのは苦手だなー、なんか体ダルくなるし」
「シャキッとしなさいな顔本さんっ」
「ほら、相談者いらっしゃったわよぉー」
カウンター内の婦警達に諭され、顔本は姿勢と態度を正す。
「雨ん中どーもー」
態度は元通り緩んでしまった。
「顔本さん、いい加減にしないと泉海さん呼ぶわよ」
「いーもんねーだ、泉海さん甘々だもんねーっ」
「それか黒岩さん」
「い…いーもんねー…」
「あの、いいんです、お構い無く…私達の勝手な都合で聞いていただくことですから…」
態度については目の前の相談者本人達からお許しが出た。
顔本は気が楽になったと同時に、なんとなくこの男女に抱いている違和感に集中する。原因はまだわからないが、謙虚さとは異なる何かを感じ取っていた。
「実は私達、この6月に式を挙げる予定で…」
「式って…結婚式!?」
顔本の大きな声をきっかけに、周囲が悩めるカップルへ目を向け始める。
「へーっ、マジかぁおめでと!幸せ噛み締めろよ~?」
「あ、ありがとうございます。でも、こんな状況だから勿論中止になっちゃって…」
「それは…お気の毒です」
「お、泉海さん。おっつー」
下手な発言が飛び出ればフォロー必須なため、偶然通りすがった泉海は顔本の隣に来てスタンバイする。
「まあ、どうせ中止になっても困るのは僕と妻だけですし…」
「どゆこと?」
顔本は腕を組んだまま軽く尋ねる。
「2人で披露宴のこと取り決めをしに渋谷に来て、帰る途中にこんなことになったんです。ここには親戚も知人も居なくて…」
「なるほど」
「そうでしたか…」
渋谷時空災害の被災者の中には、当時渋谷や東京の外から訪れていてたまたま巻き込まれてしまった人々も多数存在する。この相談者や顔本も、いわゆる余所者だ。渋谷は居住区でも勤め先でもなく、土地勘の無い人達。地域によっては、邪魔者扱いされながらの避難民生活を強いられている。
「本当、どうしてこんなことになっちゃったんでしょ…はぁ…」
「な?打ち明けて気がいくらか晴れただろ?」
「そうね…今まで誰にも言えなかったから…」
違和感の正体は相談者達による諦めの感情だった。慣れない土地での疎外感も相まってなのか、彼等は最初から解決を求めていない。求めるエネルギーすら残り僅かのようだ。
「式は無事に帰ってから絶対挙げようか…」
「わかったわ……今はこらえなきゃよね…」
「……式はね」
黙って観察に徹していた顔本は、仏頂面で両腕を組んだまま短く呟いた。
「?」
「にひひー」