Case12 無償の愛
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「へ?私も?」
「そう!」
顔本にルウが満面の笑みで答える。
「S.D.S.メンバーでもない、警察の人間でもなくなった、私も?」
「は、はいっ、そうですっ」
今度は愛鈴が頷いた。
「何で?」
「普段からみんなの相談相手になってくれていたので、特別に許可します」
そして泉海も、振り向いた顔本に笑顔で補足説明する。
「ちなみに今後の役職名はS.D.S.カウンセリング係ってとこかしら。明日黒岩さんに打診しようかと思っててね」
「俺はカウンセリングなんかされた覚えは無い!」
「一番お世話になってる大介は黙ってて」
不機嫌な男子の横槍が警察署端のガレージ中に響いたが、実際彼は顔本の部屋へ一番通っている。ルウが当然のごとく言い伏せた。
「チッ」
先刻大衆の面前でからかわれた大介は、舌打ちの後更にむくれてそっぽを向く。
「そもそも私、S.D.S.に近付いちゃいけないんじゃなかったっけ?表向きはさ」
「そう、表向きはね。でも……リヴィジョンズは顔本さんに目を付けていた。第一次帰還、顔本さんは是非来るようにって言われていたんでしょ。それが判明した以上、ここはもう開き直ってガッツリ側に居る方が安心安全じゃない?」
「この件は対リヴィジョンズに限りません」
いつにも増して思い詰めた表情のガイが口を開いた。
「俺達が顔本さんと中途半端に距離を置いていたからこそ、牟田さん達に連れて行かれる隙を作ってしまったんじゃないかって…」
「だから、これからは兄さん達がボディーガードにもなるって訳。S.D.S.は満場一致で顔本さんの復帰に賛成だよ!」
「顔本さんに戻ってきてほしいですっ」
「黒岩さんすんなり通してくれると思うなー。それと、今はあんなだけど約1名この流れに超~絶喜んでますから!」
「うるさいっ!」
大介は怒りを訴えるように音を立ててテーブルに肘を突く。本来は顔本の方へ振り向き正面から向かい合うべき雰囲気だが、ここは幼稚な意地が打ち勝った。
「……辞めろっつったり戻って来いっつったり、なんなんだろうね全く」
「顔本さん嬉しそう~」
愛鈴の指摘で自身の口角の緩みに気付く。顔本は鼻から下を手で覆い、大きく咳払いした。
「話を戻すか。そんで……だから、私もお湯のお風呂を使っても良いと?」
ストリング・パペット用のエネルギーが詰まったキューブ発見により、つい先刻から渋谷全域の電力が復旧している。住人全員に強いられていた今までの我慢が少しだけ解放された夜、一番の功労者であるS.D.S.に新たな特権が与えられた。それが、入浴における湯の使用。
「特に顔本さんは包帯が蒸れちゃうでしょ?ひとっ風呂浴びてスッキリしようよ!」
「あぁこれね。ほぼ治ってるからもう巻かなくて良い頃かなって」
「堂嶋先生の許可が下りるまではダメです」
「面倒だなぁ」
不便な避難生活において、水もエネルギーも多量に要する湯船は贅沢品のひとつ。体の洗浄を毎日冷水で済ませている渋谷民にとって、喉から手が出るほど欲しい物だ。だが、誘われている顔本はどこか乗り気ではない。
「それ巻き直すの手伝ってあげるから!行こうよ!」
「私も、手伝いますっ、だから」
「嫌だ」
簡潔な回答によってS.D.S.基地のガレージは静まり返った。
「え?……い、嫌…?」
「うん嫌」
「まさか顔本さん、高校生には刺激が強すぎる刺青がビッシリ…?」
「なんでそうなる」
「顔本さん…湯に浸かれない程、傷口がまだ…」
「そういうことでもなくて。納得いかないの。S.D.S.程の働きしてない奴がS.D.S.とおんなじだけ良い思いするのはなんか嫌」
誘う側は全員目を丸くした後、拒絶の理由が大したものではないと判断し胸を撫で下ろした。
「なーんだそんなことか。顔本さんのことだから、ラッキー!フゥーッ!ってありつくと思ってた」
「気にしなくて良いんですよ?これだってS.D.S.満場一致なんですもの」
「やーだ!それに!一緒に入るつもりだろ!?」
「え?そうよ。さすがに男女別けてますけれど、なるべく一斉にね。エネルギーの無駄遣いは出来ません」
「顔本さん、私達とお風呂入るの、嫌ですか…?」
ショックを受ける女子高生に構わず顔本は目の前の人物を1人ずつ指差していく。
「嫌だねっ!私ルウちゃんみたいにお肌もスタイルも良くないし!マリ嬢みたいに隠れグラマーでもないし!泉海さんみたいに、んん、あー、えぇ~……だし!」
「ちょっと!私だけ何なの!?」
泉海香苗はこれまでにない形相で失言者に迫る。
「私は、み、み…女の魅力に欠けているって言いたいの!?」
「いやーそんなことは……まあ、言語化し辛いっていうんですかね?へへ」
「何笑ってんのよ!わ、私だってねぇ、脱いだら凄いんですから!!」
「あの……席外しましょうか?俺達」
ここは決して男子禁制部屋ではなく、S.D.S.全員が自由に出入りする公共スペース。
「不可抗力とは言え、色々と聞いちゃって済みませ~ん」
気まずそうにするガイの横では頬をポリポリ掻く慶作が小首をかしげ、なるべく軽い空気へ傾くよう振る舞う。
「なんかごめんなさい泉海さん」
「私もごめん」
大介でさえ気を遣い始める。似た者同士の男子と女性は取りあえず頭を揃って下げた。
「なんで私に謝るのよ~…」
「だーってセクハラしちゃったし私」
「顔本さんはもっとちゃんと謝って!」
任務中は頼もしい年上の警官がこんなことで向きになるとは呆れものだが、反面微笑ましくもある光景。当人への失礼にあたるので子供達は一生懸命笑いを堪えている。
「あ」
「今度は何ですっ?」
「セクハラで思い出し……何でもない」
「?」
「あのさ、お風呂は本当に大丈夫だから。みんなの気持ちだけでもう芯までポッカポカ。んじゃあ帰るね、お休み~、良い夢見られそうだわ~」
泉海と大介達の返答を待たずして、顔本は話を一方的に切り上げガレージから出て行った。
「そう!」
顔本にルウが満面の笑みで答える。
「S.D.S.メンバーでもない、警察の人間でもなくなった、私も?」
「は、はいっ、そうですっ」
今度は愛鈴が頷いた。
「何で?」
「普段からみんなの相談相手になってくれていたので、特別に許可します」
そして泉海も、振り向いた顔本に笑顔で補足説明する。
「ちなみに今後の役職名はS.D.S.カウンセリング係ってとこかしら。明日黒岩さんに打診しようかと思っててね」
「俺はカウンセリングなんかされた覚えは無い!」
「一番お世話になってる大介は黙ってて」
不機嫌な男子の横槍が警察署端のガレージ中に響いたが、実際彼は顔本の部屋へ一番通っている。ルウが当然のごとく言い伏せた。
「チッ」
先刻大衆の面前でからかわれた大介は、舌打ちの後更にむくれてそっぽを向く。
「そもそも私、S.D.S.に近付いちゃいけないんじゃなかったっけ?表向きはさ」
「そう、表向きはね。でも……リヴィジョンズは顔本さんに目を付けていた。第一次帰還、顔本さんは是非来るようにって言われていたんでしょ。それが判明した以上、ここはもう開き直ってガッツリ側に居る方が安心安全じゃない?」
「この件は対リヴィジョンズに限りません」
いつにも増して思い詰めた表情のガイが口を開いた。
「俺達が顔本さんと中途半端に距離を置いていたからこそ、牟田さん達に連れて行かれる隙を作ってしまったんじゃないかって…」
「だから、これからは兄さん達がボディーガードにもなるって訳。S.D.S.は満場一致で顔本さんの復帰に賛成だよ!」
「顔本さんに戻ってきてほしいですっ」
「黒岩さんすんなり通してくれると思うなー。それと、今はあんなだけど約1名この流れに超~絶喜んでますから!」
「うるさいっ!」
大介は怒りを訴えるように音を立ててテーブルに肘を突く。本来は顔本の方へ振り向き正面から向かい合うべき雰囲気だが、ここは幼稚な意地が打ち勝った。
「……辞めろっつったり戻って来いっつったり、なんなんだろうね全く」
「顔本さん嬉しそう~」
愛鈴の指摘で自身の口角の緩みに気付く。顔本は鼻から下を手で覆い、大きく咳払いした。
「話を戻すか。そんで……だから、私もお湯のお風呂を使っても良いと?」
ストリング・パペット用のエネルギーが詰まったキューブ発見により、つい先刻から渋谷全域の電力が復旧している。住人全員に強いられていた今までの我慢が少しだけ解放された夜、一番の功労者であるS.D.S.に新たな特権が与えられた。それが、入浴における湯の使用。
「特に顔本さんは包帯が蒸れちゃうでしょ?ひとっ風呂浴びてスッキリしようよ!」
「あぁこれね。ほぼ治ってるからもう巻かなくて良い頃かなって」
「堂嶋先生の許可が下りるまではダメです」
「面倒だなぁ」
不便な避難生活において、水もエネルギーも多量に要する湯船は贅沢品のひとつ。体の洗浄を毎日冷水で済ませている渋谷民にとって、喉から手が出るほど欲しい物だ。だが、誘われている顔本はどこか乗り気ではない。
「それ巻き直すの手伝ってあげるから!行こうよ!」
「私も、手伝いますっ、だから」
「嫌だ」
簡潔な回答によってS.D.S.基地のガレージは静まり返った。
「え?……い、嫌…?」
「うん嫌」
「まさか顔本さん、高校生には刺激が強すぎる刺青がビッシリ…?」
「なんでそうなる」
「顔本さん…湯に浸かれない程、傷口がまだ…」
「そういうことでもなくて。納得いかないの。S.D.S.程の働きしてない奴がS.D.S.とおんなじだけ良い思いするのはなんか嫌」
誘う側は全員目を丸くした後、拒絶の理由が大したものではないと判断し胸を撫で下ろした。
「なーんだそんなことか。顔本さんのことだから、ラッキー!フゥーッ!ってありつくと思ってた」
「気にしなくて良いんですよ?これだってS.D.S.満場一致なんですもの」
「やーだ!それに!一緒に入るつもりだろ!?」
「え?そうよ。さすがに男女別けてますけれど、なるべく一斉にね。エネルギーの無駄遣いは出来ません」
「顔本さん、私達とお風呂入るの、嫌ですか…?」
ショックを受ける女子高生に構わず顔本は目の前の人物を1人ずつ指差していく。
「嫌だねっ!私ルウちゃんみたいにお肌もスタイルも良くないし!マリ嬢みたいに隠れグラマーでもないし!泉海さんみたいに、んん、あー、えぇ~……だし!」
「ちょっと!私だけ何なの!?」
泉海香苗はこれまでにない形相で失言者に迫る。
「私は、み、み…女の魅力に欠けているって言いたいの!?」
「いやーそんなことは……まあ、言語化し辛いっていうんですかね?へへ」
「何笑ってんのよ!わ、私だってねぇ、脱いだら凄いんですから!!」
「あの……席外しましょうか?俺達」
ここは決して男子禁制部屋ではなく、S.D.S.全員が自由に出入りする公共スペース。
「不可抗力とは言え、色々と聞いちゃって済みませ~ん」
気まずそうにするガイの横では頬をポリポリ掻く慶作が小首をかしげ、なるべく軽い空気へ傾くよう振る舞う。
「なんかごめんなさい泉海さん」
「私もごめん」
大介でさえ気を遣い始める。似た者同士の男子と女性は取りあえず頭を揃って下げた。
「なんで私に謝るのよ~…」
「だーってセクハラしちゃったし私」
「顔本さんはもっとちゃんと謝って!」
任務中は頼もしい年上の警官がこんなことで向きになるとは呆れものだが、反面微笑ましくもある光景。当人への失礼にあたるので子供達は一生懸命笑いを堪えている。
「あ」
「今度は何ですっ?」
「セクハラで思い出し……何でもない」
「?」
「あのさ、お風呂は本当に大丈夫だから。みんなの気持ちだけでもう芯までポッカポカ。んじゃあ帰るね、お休み~、良い夢見られそうだわ~」
泉海と大介達の返答を待たずして、顔本は話を一方的に切り上げガレージから出て行った。