Case11 大切な人が
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先程のお騒がせ者は片方の肘掛けへ体重をこれでもかと乗せていた。本来それは隣に座る堂嶋幹夫のものだが、彼は嫌な顔ひとつしないでいる。
「ありがとうございます、顔本さん。私達の為に堪えてくださって」
「……」
顔本は自分の手に押し付けた頬により潰れ気味の目で相手を睨む。眉間のシワを深め、視線を安定の笑顔から反らした。
「そんなに抵抗がお有りですか?第一次帰還計画」
「……帰りたくない訳じゃない」
この険しい表情の理由は別にある。
「私は、みんながちゃんと帰れるのか確認してからが良かった」
「みんな……大介達のことですか?」
「みんなはみんな!渋谷の人全員!」
顔本はその場で座り直し、己の膝小僧を強く掴んだ。
「顔本さん。お膝を閉じてください」
「第一次っつってるけど、じゃあ第二、第三はあるの?」
「可能性レベルですかね。牟田さんの話通りに事が進むとは限りませんから」
周囲の渋谷民を不安に陥れないよう、幹夫は自分の考えをなるべく小声で告げた。
「可能性って…100%じゃなきゃ…!」
「顔本さん。膝」
バスの補助席で行儀良く座っている場合ではない。今すぐにでもこんなところから飛び出して何かしらの手を打ちたいが、その何かが顔本には全く見えてこない。
「みんなが…頑張ってきたみんな、住民も警察も、大人も子供も、全員が2017年に帰って来られる保証はあるの?大介くん達は?泉海さんは?署長は…!?」
「顔本さん…」
もどかしい。今の自分に出来る足掻きは、肘掛けをぎりぎりと握り締めることくらいだ。
「……正直、私も半信半疑なままです。リヴィジョンズは渋谷が未来に転送されたあの日、我々2017年の人間を次々と襲いました。そのリヴィジョンズが、一部であれど我々を無事に帰すとは……どうにも……」
顔本はあの怪物を初めて目の当たりにしたときのことを思い出した。
「ゆくゆくは全員帰還出来るという噂、果たして本当なのか……そもそも、今バスに乗っている私達もこれからどのような扱いを受けるのか……実際行ってみないことにはわかりませんね」
「……居る、よなぁ。シビリアン」
返ってきた声はこの上なく弱々しい。てっきり強気な態度を取り戻し、内緒話を切り上げられると思っていた。
「着いたら、絶対顔、合わせるんだろうなぁ…」
顔本の顔は垂れる髪で遮られている。一方で指先の震えを隠しきれていない手を、幹夫はそっと覆ってやった。
「何かあっても、私が側についていますよ」
ヒョコヒョコと前後の座席から覗き見の頭が生えてきたが、顔本は個人的な異変に気を取られていた。
「……」
女は上から包まれた手を真顔で凝視している。
「……」
男は無言の圧に負けじと重ね続けることで、自身の想いの丈をあざとく主張してみせた。
「これは……なんで……」
「何か?」
幹夫は爽やかな笑顔を返す。
「いやあ、なんでか平気だなぁって。お医者さんだから?」
「?」
「ああ、で。すんません、何でしたっけ。シビリアンがーって話だったか。救急箱あるんだ?このバス」
「……はい?」
「それかちょっとした手術道具とか?まあ何にせよ、頼りにしてますよ。先生っ」
「……」
期待外れの流れに逸れたお陰で、意気消沈した野次馬は全て引っ込んだ。幹夫の気持ちも急速に冷めていく。
「手はもう良いから、足首診てもらえます?さっき運ばれたとき地味に痛くって」
「鈍いですよ」
「?…痛みが?神経が?」
顔本は自分の足を片方の膝に乗せ、膝から足首にかけてを不思議そうに揉む。もう彼は行儀の悪さを注意してくれない。
「パッと見だけでわかるの?」
「教えてあげません」
「……何怒ってんの?珍し~…」
「ありがとうございます、顔本さん。私達の為に堪えてくださって」
「……」
顔本は自分の手に押し付けた頬により潰れ気味の目で相手を睨む。眉間のシワを深め、視線を安定の笑顔から反らした。
「そんなに抵抗がお有りですか?第一次帰還計画」
「……帰りたくない訳じゃない」
この険しい表情の理由は別にある。
「私は、みんながちゃんと帰れるのか確認してからが良かった」
「みんな……大介達のことですか?」
「みんなはみんな!渋谷の人全員!」
顔本はその場で座り直し、己の膝小僧を強く掴んだ。
「顔本さん。お膝を閉じてください」
「第一次っつってるけど、じゃあ第二、第三はあるの?」
「可能性レベルですかね。牟田さんの話通りに事が進むとは限りませんから」
周囲の渋谷民を不安に陥れないよう、幹夫は自分の考えをなるべく小声で告げた。
「可能性って…100%じゃなきゃ…!」
「顔本さん。膝」
バスの補助席で行儀良く座っている場合ではない。今すぐにでもこんなところから飛び出して何かしらの手を打ちたいが、その何かが顔本には全く見えてこない。
「みんなが…頑張ってきたみんな、住民も警察も、大人も子供も、全員が2017年に帰って来られる保証はあるの?大介くん達は?泉海さんは?署長は…!?」
「顔本さん…」
もどかしい。今の自分に出来る足掻きは、肘掛けをぎりぎりと握り締めることくらいだ。
「……正直、私も半信半疑なままです。リヴィジョンズは渋谷が未来に転送されたあの日、我々2017年の人間を次々と襲いました。そのリヴィジョンズが、一部であれど我々を無事に帰すとは……どうにも……」
顔本はあの怪物を初めて目の当たりにしたときのことを思い出した。
「ゆくゆくは全員帰還出来るという噂、果たして本当なのか……そもそも、今バスに乗っている私達もこれからどのような扱いを受けるのか……実際行ってみないことにはわかりませんね」
「……居る、よなぁ。シビリアン」
返ってきた声はこの上なく弱々しい。てっきり強気な態度を取り戻し、内緒話を切り上げられると思っていた。
「着いたら、絶対顔、合わせるんだろうなぁ…」
顔本の顔は垂れる髪で遮られている。一方で指先の震えを隠しきれていない手を、幹夫はそっと覆ってやった。
「何かあっても、私が側についていますよ」
ヒョコヒョコと前後の座席から覗き見の頭が生えてきたが、顔本は個人的な異変に気を取られていた。
「……」
女は上から包まれた手を真顔で凝視している。
「……」
男は無言の圧に負けじと重ね続けることで、自身の想いの丈をあざとく主張してみせた。
「これは……なんで……」
「何か?」
幹夫は爽やかな笑顔を返す。
「いやあ、なんでか平気だなぁって。お医者さんだから?」
「?」
「ああ、で。すんません、何でしたっけ。シビリアンがーって話だったか。救急箱あるんだ?このバス」
「……はい?」
「それかちょっとした手術道具とか?まあ何にせよ、頼りにしてますよ。先生っ」
「……」
期待外れの流れに逸れたお陰で、意気消沈した野次馬は全て引っ込んだ。幹夫の気持ちも急速に冷めていく。
「手はもう良いから、足首診てもらえます?さっき運ばれたとき地味に痛くって」
「鈍いですよ」
「?…痛みが?神経が?」
顔本は自分の足を片方の膝に乗せ、膝から足首にかけてを不思議そうに揉む。もう彼は行儀の悪さを注意してくれない。
「パッと見だけでわかるの?」
「教えてあげません」
「……何怒ってんの?珍し~…」