Case11 大切な人が
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「離せ!離せっつってんだろ!?」
顔本の体は区役所役員数人がかりでえんやえんやと担がれ、大型バスの乗車口まで運ばれてきたところ。
「だから痛いってば!離して!触んないでっ、もう触んないで!!」
先に乗り込み待機していた渋谷民達は、誰のせいで発車が遅れていたのかを即座に理解した。半狂乱の顔本が松葉杖もセットで車内の通路に降ろされる。
「私は渋谷に残る!ちょ、近付かないで!これって自由参加なんでしょ!?私は不参加!欠席!病欠!」
何故か涙目の顔本はバス後部から力の限りわめき散らしている。
「おわっ、だから近付くなってば!」
その割に、自分を連行した男性陣を押し退けてでも逃げ出そうとする気配は無い。
「そうは言ってもね、顔本さん」
自称総理大臣の牟田は病院に行きたがらない我が子や飼い犬をあやす感覚で上からものを言う。
「貴女は必ず一次帰還されたしと印が付けられているんですよ」
「はあ?どうして!?」
「どうしてって…それは……?」
理由を尋ねられても、先方から知らされていないのだから答えようがない。なぜか動揺する彼を見て顔本はやや落ち着きを取り戻す。
「?……牟田ちゃんがメンバー決めたんじゃなかったの?てか、印が付けられてる、って…?」
「っ……そんな事はどうだって良いでしょう!ほら出発しますよ。そこ、補助席出してやって」
大人しく着席している住民へ牟田は適当に指示を出す。
対抗するように顔本は腕を組んで仁王立ちした。股を開くスペースは大して無く、足を座席にぶつけたが顔色は変えない。
「出さなくて結構。窓から飛び降りてやるから。浅野さん、そこ開けて」
「いい加減にしなさい!」
慶作の母親が顔本をなだめるよりも先に牟田が叫び声を上げた。その声量はさして大きい方ではなかったが、場の空気を一気に張りつめさせる。
「約束の時間に遅れて帰還の話が白紙にでもなったら、貴女全責任取れるんですか!?」
牟田に叱られた経験は幾度かあれど、このように強く怒鳴られるのは初めてだ。
「顔本さん自身は構わないでしょう、2017年に帰るつもりが無い人なんだから」
「や、別にっ、今このタイミングはヤだってだけで…」
「でもね、この中には元の世界に帰りたくて帰りたくて、やっとの思いでこの藁にしがみついた人だって居るんです。貴女ひとりのせいで、大勢の人の…渋谷の希望が失われるんですよ!?」
「そんなっ…大袈裟じゃん…」
「第一次帰還計画はね、今バスに乗っている私達だけの救いの糸じゃあありません。今回選ばれなかった人々だって、次は選ばれるかもしれないんです。それでも自分のワガママを通したいんですか!?」
「……」
車内の視線全てが顔本へ集まる。半分は今後の展開に不安を抱えている眼差し。もう半分は、殺意一歩手前の目付き。
そのどちらも共通して訴えかけてきている。余計なことをするなと。
「……ましたよ」
「はい?なんて?」
「わかりましたよ!行きゃあ良いんでしょ行きゃあ!?」
顔本は補助席を乱暴に出して腰を降ろし脚を組んだ。
「ほら座ったから!従うから!わかったら男手は去れ!行った行った!」
渋谷の臨時政府総理大臣と警察署相談窓口係との言い争いは、後者が折れることで決着がついた。
程なくして、何台ものバスが沢山の人々に見送られながら渋谷の街を発った。
顔本の体は区役所役員数人がかりでえんやえんやと担がれ、大型バスの乗車口まで運ばれてきたところ。
「だから痛いってば!離して!触んないでっ、もう触んないで!!」
先に乗り込み待機していた渋谷民達は、誰のせいで発車が遅れていたのかを即座に理解した。半狂乱の顔本が松葉杖もセットで車内の通路に降ろされる。
「私は渋谷に残る!ちょ、近付かないで!これって自由参加なんでしょ!?私は不参加!欠席!病欠!」
何故か涙目の顔本はバス後部から力の限りわめき散らしている。
「おわっ、だから近付くなってば!」
その割に、自分を連行した男性陣を押し退けてでも逃げ出そうとする気配は無い。
「そうは言ってもね、顔本さん」
自称総理大臣の牟田は病院に行きたがらない我が子や飼い犬をあやす感覚で上からものを言う。
「貴女は必ず一次帰還されたしと印が付けられているんですよ」
「はあ?どうして!?」
「どうしてって…それは……?」
理由を尋ねられても、先方から知らされていないのだから答えようがない。なぜか動揺する彼を見て顔本はやや落ち着きを取り戻す。
「?……牟田ちゃんがメンバー決めたんじゃなかったの?てか、印が付けられてる、って…?」
「っ……そんな事はどうだって良いでしょう!ほら出発しますよ。そこ、補助席出してやって」
大人しく着席している住民へ牟田は適当に指示を出す。
対抗するように顔本は腕を組んで仁王立ちした。股を開くスペースは大して無く、足を座席にぶつけたが顔色は変えない。
「出さなくて結構。窓から飛び降りてやるから。浅野さん、そこ開けて」
「いい加減にしなさい!」
慶作の母親が顔本をなだめるよりも先に牟田が叫び声を上げた。その声量はさして大きい方ではなかったが、場の空気を一気に張りつめさせる。
「約束の時間に遅れて帰還の話が白紙にでもなったら、貴女全責任取れるんですか!?」
牟田に叱られた経験は幾度かあれど、このように強く怒鳴られるのは初めてだ。
「顔本さん自身は構わないでしょう、2017年に帰るつもりが無い人なんだから」
「や、別にっ、今このタイミングはヤだってだけで…」
「でもね、この中には元の世界に帰りたくて帰りたくて、やっとの思いでこの藁にしがみついた人だって居るんです。貴女ひとりのせいで、大勢の人の…渋谷の希望が失われるんですよ!?」
「そんなっ…大袈裟じゃん…」
「第一次帰還計画はね、今バスに乗っている私達だけの救いの糸じゃあありません。今回選ばれなかった人々だって、次は選ばれるかもしれないんです。それでも自分のワガママを通したいんですか!?」
「……」
車内の視線全てが顔本へ集まる。半分は今後の展開に不安を抱えている眼差し。もう半分は、殺意一歩手前の目付き。
そのどちらも共通して訴えかけてきている。余計なことをするなと。
「……ましたよ」
「はい?なんて?」
「わかりましたよ!行きゃあ良いんでしょ行きゃあ!?」
顔本は補助席を乱暴に出して腰を降ろし脚を組んだ。
「ほら座ったから!従うから!わかったら男手は去れ!行った行った!」
渋谷の臨時政府総理大臣と警察署相談窓口係との言い争いは、後者が折れることで決着がついた。
程なくして、何台ものバスが沢山の人々に見送られながら渋谷の街を発った。