Case⑩ 大人と子供
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その場を離れるなと言われたものの、数分後には屋外へ抜け出しフェンスに腰掛けていた。
「ああ、帰還計画について?あれ見てあれ」
急遽用意した横断幕の字は、渋谷警察に詰め寄った人々が求めている回答としては不十分。だが、屋内のカウンター上部から署の正面口へ掲示場所を変更したことにより混雑は解消され、顔本は外の空気を吸いながら簡潔な説明だけで済ませられている。
負の感情と熱気で溢れ返っていた元持ち場はまだまだ空気が悪い。何より、一ヶ所に留まり続けるなんて己の性に合わない。
「調査中、ねぇ……大事なことは御上のそのまた御上が隠し持ってるって訳かい?」
「ぶっちゃけその通り」
「サツもサツで大変なんだな」
「お互い様っしょ。だから、そう感じてもらえて元相談窓口係冥利に尽きる」
活動場所を署内にこだわらなくとも、こうして人々の相談に乗ったり逆に愚痴を聞いてもらったりできる。そもそも、自分はもう警察側の人間ではなく、正真正銘ただのボランティア。顔本の中では上司だった者からの言いつけを守ることの大切さがより一層薄れていた。
「じゃあな、くたばんじゃねえぞ!」
去り際の男性に背中を叩かれた。誰がどう見ても、それは軽い挨拶代わり。
「!」
ほんの一瞬、彼女は萎縮し目を見張った。
「……痛いっつーの!」
戸惑いを誰にも気付かれたくないので、すぐさま笑顔に戻す。
瀕死だ死に損ないだと囁かれていた顔本の体は現在、全くと言って良い程健康そのもの。
「……」
実際痛くなどなかったし悪意も込められていないのに、時が止まったかのような態度を取ってしまった。何故なのか。
そんな顔本の様子をずっと影から観察していた人物が、満を持して日差しの元に姿を現わす。
「無理してません?」
「してない。平気」
いち早く否定してから声がした方へ振り向く。付かず離れず丁度良い距離を保った、白衣の女性がこちらに微笑みかけてきている。
「キリがついたら、一緒に休憩しませんか?」
「良いけど、どちら様?」
「聖昭学園養護教諭の矢沢です」
その学校は堂嶋大介らが通っていた学び舎であり、場所は顔本がシビリアンに襲われた現場のすぐ側だ。2017年の渋谷と2388年の世界の境界に位置しており、校舎の半分は元の時代に残してきてしまい、今尚真っ二つの状態。
「どーも、はじめまして。顔本です。養護教諭ってことは、保健室の先生か。保健の女教師か!保健体育のっ!癒しとエロスの権化じゃんっ!」
「はい?……お、お互い歳も近いようですし、気分転換にこの後どうです?」
勝手に盛り上がる顔本へ女性は大人な対応の1つである無視をしてみせた。
「いやぁ~ありがとうございます。初対面でこんなに優しい渋谷民さん、未来に飛ばされてから初めてかも。あ、泉海さんと堂嶋先生を抜いてね」
矢沢と名乗った女性は顔本の感想に微笑だけを返し、全14階の渋谷警察署を見上げる。
「ここじゃあなんですし、学園の裏手で待ってますね」
「え?……はぁ」
物腰はたしかに柔らかいのだが、どこか有無を言わさない雰囲気。顔本の返事を待たずに彼女はさっさと行ってしまった。
「……結構遠いんですけど。学校」
「ああ、帰還計画について?あれ見てあれ」
急遽用意した横断幕の字は、渋谷警察に詰め寄った人々が求めている回答としては不十分。だが、屋内のカウンター上部から署の正面口へ掲示場所を変更したことにより混雑は解消され、顔本は外の空気を吸いながら簡潔な説明だけで済ませられている。
負の感情と熱気で溢れ返っていた元持ち場はまだまだ空気が悪い。何より、一ヶ所に留まり続けるなんて己の性に合わない。
「調査中、ねぇ……大事なことは御上のそのまた御上が隠し持ってるって訳かい?」
「ぶっちゃけその通り」
「サツもサツで大変なんだな」
「お互い様っしょ。だから、そう感じてもらえて元相談窓口係冥利に尽きる」
活動場所を署内にこだわらなくとも、こうして人々の相談に乗ったり逆に愚痴を聞いてもらったりできる。そもそも、自分はもう警察側の人間ではなく、正真正銘ただのボランティア。顔本の中では上司だった者からの言いつけを守ることの大切さがより一層薄れていた。
「じゃあな、くたばんじゃねえぞ!」
去り際の男性に背中を叩かれた。誰がどう見ても、それは軽い挨拶代わり。
「!」
ほんの一瞬、彼女は萎縮し目を見張った。
「……痛いっつーの!」
戸惑いを誰にも気付かれたくないので、すぐさま笑顔に戻す。
瀕死だ死に損ないだと囁かれていた顔本の体は現在、全くと言って良い程健康そのもの。
「……」
実際痛くなどなかったし悪意も込められていないのに、時が止まったかのような態度を取ってしまった。何故なのか。
そんな顔本の様子をずっと影から観察していた人物が、満を持して日差しの元に姿を現わす。
「無理してません?」
「してない。平気」
いち早く否定してから声がした方へ振り向く。付かず離れず丁度良い距離を保った、白衣の女性がこちらに微笑みかけてきている。
「キリがついたら、一緒に休憩しませんか?」
「良いけど、どちら様?」
「聖昭学園養護教諭の矢沢です」
その学校は堂嶋大介らが通っていた学び舎であり、場所は顔本がシビリアンに襲われた現場のすぐ側だ。2017年の渋谷と2388年の世界の境界に位置しており、校舎の半分は元の時代に残してきてしまい、今尚真っ二つの状態。
「どーも、はじめまして。顔本です。養護教諭ってことは、保健室の先生か。保健の女教師か!保健体育のっ!癒しとエロスの権化じゃんっ!」
「はい?……お、お互い歳も近いようですし、気分転換にこの後どうです?」
勝手に盛り上がる顔本へ女性は大人な対応の1つである無視をしてみせた。
「いやぁ~ありがとうございます。初対面でこんなに優しい渋谷民さん、未来に飛ばされてから初めてかも。あ、泉海さんと堂嶋先生を抜いてね」
矢沢と名乗った女性は顔本の感想に微笑だけを返し、全14階の渋谷警察署を見上げる。
「ここじゃあなんですし、学園の裏手で待ってますね」
「え?……はぁ」
物腰はたしかに柔らかいのだが、どこか有無を言わさない雰囲気。顔本の返事を待たずに彼女はさっさと行ってしまった。
「……結構遠いんですけど。学校」