Case② はじめまして
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「私自身で推薦しておいてなんですが、あの人……顔本さんを相談窓口係に任命したのは失敗ではないでしょうか?昨日と打ってかわって相談者はほぼ来なくなっちゃったそうです。この分じゃ、午後もガラガラかもしれません」
「ゼロになった訳ではないのだろう。相談者数の減少は、住民に冷静さを取り戻させた結果でもある」
泉海の前を大股で歩く男性の身長は日本人の平均を優に越えており、薄暗い廊下ですれ違う部下を只でさえ威圧する。正面口ではなく裏手から署に戻ってきた彼により、休憩中の警官達に緊張が走った。
「渋谷の人々一人ひとりが真摯に考え始めた証拠だ。今自分が抱えている問題は、我々警察に届け出るべき内容なのか否かを」
「確かにインパクトはありましたけど、実際どうなんでしょう……重傷者に受付させるなんて…って思われてるんじゃ…」
「牟田区長と同意見か」
テーブル越しに喚いていた初老男性の声がまだ脳裏に焼き付いている。
『瀕死の女性をコキ使っていると聞きましたよ!そんなことして、警察が区民に不審がられるだけじゃないですか!?こういうのは信頼が大事なんですよ信頼が!』
泉海は自身の眉間を揉みほぐし皺を伸ばすが、手を離した後も彼女は思い詰める。
「牟田さんの仰ることも最もですけれど……やっぱり私は、顔本さんに安静にしていてほしいです」
やや冷めた弁当箱を持つ手に力が入る。区役所での会議が長引き、彼女へ届ける昼食がかなり遅れてしまった。
「署の印象や区民を冷静にさせることも大事ですが、あの人の一番の仕事は、病院がきちんと機能する日が来るまで生き長らえることです」
「牟田区長と同意見ではなく、彼女のやる気に反対か」
「やる気、と言いますか……」
現状をなんとか改善したい、自分が持てる力を最大限発揮したい。そういった熱を否定するつもりは無いし、むしろ応援したい。
だが、昨日間近で見たあれは正しく暴走だった。異常にアドレナリンが放出されまくっていて、いつプッツリ逝ってしまってもおかしくない。そんな、危うい暴走。
「自棄になっているように思います。自分を労ることだって必要なんです…!」
「それは本人に直接言ってやれ」
泉海は歩を止めずにガクッとうなだれた。
「はあぁ~っ、勢いに圧されちゃった私も私だけどっ!」
彼女を案じる自分と、彼女の意見を尊重したい自分。もどかしさを額に乗せ記入ボードの裏にぶつける。
「泉海巡査長、ひとりで抱え込むな。本件は俺の案でもある」
「ですが……」
「昨日中に、交換条件として安静第一を約束させたのだろう」
「はい、勿論です」
「ならば、我々警察は既に彼女へ最大限配慮していることになる」
「何かあったら自己責任、ですか…」
「子供じゃないんだ、そのくらい本人だって理解し」
もうすぐ例のカウンターがある場所に着く。泉海は気持ちを切り換えるため姿勢を正そうと顔を上げた。
もし俯いたままであれば、目の前で急に立ち止まった背中へぶつかっていたところだ。
「黒岩さん?」
大きな壁の横から前を覗いた泉海も目を見開いた。
「ええっ!?居ない!」
「どういうことだ、泉海」
「無線に連絡は来ていないです…」
「……まさか!」
最悪の事態を想像し、2人は顔を見合わせる。が、それは妹を引き連れた男の子によって打ち消された。
「受付の人なら、行進のオジサン達探しに行ったよ」
「ゼロになった訳ではないのだろう。相談者数の減少は、住民に冷静さを取り戻させた結果でもある」
泉海の前を大股で歩く男性の身長は日本人の平均を優に越えており、薄暗い廊下ですれ違う部下を只でさえ威圧する。正面口ではなく裏手から署に戻ってきた彼により、休憩中の警官達に緊張が走った。
「渋谷の人々一人ひとりが真摯に考え始めた証拠だ。今自分が抱えている問題は、我々警察に届け出るべき内容なのか否かを」
「確かにインパクトはありましたけど、実際どうなんでしょう……重傷者に受付させるなんて…って思われてるんじゃ…」
「牟田区長と同意見か」
テーブル越しに喚いていた初老男性の声がまだ脳裏に焼き付いている。
『瀕死の女性をコキ使っていると聞きましたよ!そんなことして、警察が区民に不審がられるだけじゃないですか!?こういうのは信頼が大事なんですよ信頼が!』
泉海は自身の眉間を揉みほぐし皺を伸ばすが、手を離した後も彼女は思い詰める。
「牟田さんの仰ることも最もですけれど……やっぱり私は、顔本さんに安静にしていてほしいです」
やや冷めた弁当箱を持つ手に力が入る。区役所での会議が長引き、彼女へ届ける昼食がかなり遅れてしまった。
「署の印象や区民を冷静にさせることも大事ですが、あの人の一番の仕事は、病院がきちんと機能する日が来るまで生き長らえることです」
「牟田区長と同意見ではなく、彼女のやる気に反対か」
「やる気、と言いますか……」
現状をなんとか改善したい、自分が持てる力を最大限発揮したい。そういった熱を否定するつもりは無いし、むしろ応援したい。
だが、昨日間近で見たあれは正しく暴走だった。異常にアドレナリンが放出されまくっていて、いつプッツリ逝ってしまってもおかしくない。そんな、危うい暴走。
「自棄になっているように思います。自分を労ることだって必要なんです…!」
「それは本人に直接言ってやれ」
泉海は歩を止めずにガクッとうなだれた。
「はあぁ~っ、勢いに圧されちゃった私も私だけどっ!」
彼女を案じる自分と、彼女の意見を尊重したい自分。もどかしさを額に乗せ記入ボードの裏にぶつける。
「泉海巡査長、ひとりで抱え込むな。本件は俺の案でもある」
「ですが……」
「昨日中に、交換条件として安静第一を約束させたのだろう」
「はい、勿論です」
「ならば、我々警察は既に彼女へ最大限配慮していることになる」
「何かあったら自己責任、ですか…」
「子供じゃないんだ、そのくらい本人だって理解し」
もうすぐ例のカウンターがある場所に着く。泉海は気持ちを切り換えるため姿勢を正そうと顔を上げた。
もし俯いたままであれば、目の前で急に立ち止まった背中へぶつかっていたところだ。
「黒岩さん?」
大きな壁の横から前を覗いた泉海も目を見開いた。
「ええっ!?居ない!」
「どういうことだ、泉海」
「無線に連絡は来ていないです…」
「……まさか!」
最悪の事態を想像し、2人は顔を見合わせる。が、それは妹を引き連れた男の子によって打ち消された。
「受付の人なら、行進のオジサン達探しに行ったよ」