Case⑩ 大人と子供
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「お待たせしましたー、済みませんねぇ私の友達が……って、君達か」
子供の次はまた子供。たまに顔本がボードゲーム等の相手をしてやっていた小学校低学年の男児達だ。彼らは横一列に並んで振り返り、揃って目を三角にする。
「みんな受付の人を囲むなー!」
声変わり前の喉による叫びは、クレーマーの目をひとつ残らず丸くさせた。カウンターの向こう側に居る顔本や警官達も漏れなく。
「このお姉さん、おっさん達に囲まれていじめられてたんだぞー!」
「これ以上いじめたら可哀想だろー!」
「はあ?この私がいつ……ちょ!?」
まさか先日の強姦未遂を見られていたのか。よりにもよって未成年に。
「タイツ破られてたんだぞ!」
「ま、待て待て待て!」
あの時黒岩署長が助けに来てくれなかったら、この子達だけ歪んだ保健体育の予習を一足早く終えてしまっていたことだろう。
「デタラメを言うんじゃないよ!あとタイツじゃなくてストッキングな!後でオセロでもスゴロクでもしてやるから!」
「デタラメじゃねえし!」
「俺ら秘密基地から見てたんだ!」
「やめてってば!君達もう帰れ!んで忘れろ!」
「襲われたってことか!?いつだよ!?俺聞いてないぞそんなこと!どうして話してくれなかったんだ!?」
「君も帰れっちゅーに!」
有り難迷惑な子供達が追い払われ、次に並んでいた男性がようやく発言を許される。
「……あんたがどんな目に遭ってようが、それとこれとは関係無いだろう」
「ごもっともです。で、"これ"っていうのは?」
「俺が帰還リストに入っていないのはどういうことか、ちゃんと説明してくれ!」
第一次帰還計画。突如2388年へ飛ばされた人間の内、一部の者が2017年に帰る権利を得た。
「あのリスト、どういう決め方かはわかんないんだよね」
元の時代への切符を手に入れた100余名の一覧が一方的に掲示されたのが今朝。
選ばれなかった多数派は当然、身の危険を感じながらの避難民生活を引き続き強いられることとなる。不満が芽生えない訳がない。
「出どころは牟田区長らしいけど、現状としては基準不明。私共からはそれしか言えませんので、これっぽっちで満足してもらうしか無いんすよ」
第一次帰還者リストの選定基準不明、現在調査中。そう墨で殴り書きされた背後の横断幕を顔本は肩越しに親指で差す。
「それか庁舎で直に牟田ちゃんに聞いてみるとか。あっちも混んでそうだけど」
「……そうか。あんた牟田区長に媚売ったんだな?」
「はあ?牟田ちゃんに?私が?媚を?売る?」
いつもカウンターの側で事務業務に当たり顔本の行動原理を知り尽くしている婦警達は、もし外来の対応に追われていなければ笑いを必死に堪えていただろう。
「もしくは……」
主張者の双眼に体を嘗め回される。顔本は嫌悪感を露にしないよう、たじろぐ素振りをも我慢した。
「だからリストに載ってんだ!」
「またそれか。私はまだ帰らないよ。これもドでかく書いとくべきかな」
「嘘吐け!抜け駆けしやがって!どうせ女の武器使ったんだろ、顔本サンよぉ!」
カウンターを乱暴に叩き付けられるが、顔本はその振動に萎縮することなく同じ強さでカウンターを叩き付けた。
対抗するように顔面を近付ける。
「私の名前覚えててくれてるんだ!なら、私がずっとここらでイキイキ活動していたことも知ってるよね?」
「だったら何だってんだ」
「帰っちゃったら、こうしてお話し出来なくなるじゃん?そんなの耐えられない。絶対続けるよ。好きだからね」
何のことを、とは具体的に口にはしていないが、男の握り拳へねっとりと手を重ねていれば別の意味を公言しているようなものだ。
気圧されてなるものかと相手は意地を張りかけたが、彼女と直接触れ合うことで何かを察する。
「……」
「……ふん!強がりやがって、みっとも無ぇ!」
喚いていた男性は彼なりに気を使い、大人しく帰っていった。
腕組みを崩さない大介は口を尖らせ、顔本に聞こえる声量で毒づく。
「……タラシが」
「だから堂嶋ファミリーには言われたくないってば。てか帰ってなさいって。邪魔邪魔。そうそう帰った帰った……ちょっと待った」
「何だよ」
「ちょい、こっち来て」
自ら呼び寄せておいて、その目は戸惑いで揺れているような、忌避願望が込められているような。
顔色の悪い女は男友達の肩に手を置いた。
「?」
「……」
「寒いの?」
今は5月中旬。空調の類は節電対象となり、ここ1階フロアは人々の熱気がこもっている。
「……ん、わかった。行ってよし!」
「はぁ?何なんだよ…」
「次の方ー」
「今の何なのよ?もたもたしてんじゃないわよっ」
「いやぁ~、ははは~。で、どういったご用件で?」
あの接触は何の確認だったのか。大介も住民達も、頑なにはぐらかす顔本の本心を知る由もない。
子供の次はまた子供。たまに顔本がボードゲーム等の相手をしてやっていた小学校低学年の男児達だ。彼らは横一列に並んで振り返り、揃って目を三角にする。
「みんな受付の人を囲むなー!」
声変わり前の喉による叫びは、クレーマーの目をひとつ残らず丸くさせた。カウンターの向こう側に居る顔本や警官達も漏れなく。
「このお姉さん、おっさん達に囲まれていじめられてたんだぞー!」
「これ以上いじめたら可哀想だろー!」
「はあ?この私がいつ……ちょ!?」
まさか先日の強姦未遂を見られていたのか。よりにもよって未成年に。
「タイツ破られてたんだぞ!」
「ま、待て待て待て!」
あの時黒岩署長が助けに来てくれなかったら、この子達だけ歪んだ保健体育の予習を一足早く終えてしまっていたことだろう。
「デタラメを言うんじゃないよ!あとタイツじゃなくてストッキングな!後でオセロでもスゴロクでもしてやるから!」
「デタラメじゃねえし!」
「俺ら秘密基地から見てたんだ!」
「やめてってば!君達もう帰れ!んで忘れろ!」
「襲われたってことか!?いつだよ!?俺聞いてないぞそんなこと!どうして話してくれなかったんだ!?」
「君も帰れっちゅーに!」
有り難迷惑な子供達が追い払われ、次に並んでいた男性がようやく発言を許される。
「……あんたがどんな目に遭ってようが、それとこれとは関係無いだろう」
「ごもっともです。で、"これ"っていうのは?」
「俺が帰還リストに入っていないのはどういうことか、ちゃんと説明してくれ!」
第一次帰還計画。突如2388年へ飛ばされた人間の内、一部の者が2017年に帰る権利を得た。
「あのリスト、どういう決め方かはわかんないんだよね」
元の時代への切符を手に入れた100余名の一覧が一方的に掲示されたのが今朝。
選ばれなかった多数派は当然、身の危険を感じながらの避難民生活を引き続き強いられることとなる。不満が芽生えない訳がない。
「出どころは牟田区長らしいけど、現状としては基準不明。私共からはそれしか言えませんので、これっぽっちで満足してもらうしか無いんすよ」
第一次帰還者リストの選定基準不明、現在調査中。そう墨で殴り書きされた背後の横断幕を顔本は肩越しに親指で差す。
「それか庁舎で直に牟田ちゃんに聞いてみるとか。あっちも混んでそうだけど」
「……そうか。あんた牟田区長に媚売ったんだな?」
「はあ?牟田ちゃんに?私が?媚を?売る?」
いつもカウンターの側で事務業務に当たり顔本の行動原理を知り尽くしている婦警達は、もし外来の対応に追われていなければ笑いを必死に堪えていただろう。
「もしくは……」
主張者の双眼に体を嘗め回される。顔本は嫌悪感を露にしないよう、たじろぐ素振りをも我慢した。
「だからリストに載ってんだ!」
「またそれか。私はまだ帰らないよ。これもドでかく書いとくべきかな」
「嘘吐け!抜け駆けしやがって!どうせ女の武器使ったんだろ、顔本サンよぉ!」
カウンターを乱暴に叩き付けられるが、顔本はその振動に萎縮することなく同じ強さでカウンターを叩き付けた。
対抗するように顔面を近付ける。
「私の名前覚えててくれてるんだ!なら、私がずっとここらでイキイキ活動していたことも知ってるよね?」
「だったら何だってんだ」
「帰っちゃったら、こうしてお話し出来なくなるじゃん?そんなの耐えられない。絶対続けるよ。好きだからね」
何のことを、とは具体的に口にはしていないが、男の握り拳へねっとりと手を重ねていれば別の意味を公言しているようなものだ。
気圧されてなるものかと相手は意地を張りかけたが、彼女と直接触れ合うことで何かを察する。
「……」
「……ふん!強がりやがって、みっとも無ぇ!」
喚いていた男性は彼なりに気を使い、大人しく帰っていった。
腕組みを崩さない大介は口を尖らせ、顔本に聞こえる声量で毒づく。
「……タラシが」
「だから堂嶋ファミリーには言われたくないってば。てか帰ってなさいって。邪魔邪魔。そうそう帰った帰った……ちょっと待った」
「何だよ」
「ちょい、こっち来て」
自ら呼び寄せておいて、その目は戸惑いで揺れているような、忌避願望が込められているような。
顔色の悪い女は男友達の肩に手を置いた。
「?」
「……」
「寒いの?」
今は5月中旬。空調の類は節電対象となり、ここ1階フロアは人々の熱気がこもっている。
「……ん、わかった。行ってよし!」
「はぁ?何なんだよ…」
「次の方ー」
「今の何なのよ?もたもたしてんじゃないわよっ」
「いやぁ~、ははは~。で、どういったご用件で?」
あの接触は何の確認だったのか。大介も住民達も、頑なにはぐらかす顔本の本心を知る由もない。