Case⑦ 強いあなたに
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堂嶋大介は突如舞い降りた名案に目を輝かせ、空き部屋の椅子を勢いよく蹴飛ばし立ち上がった。
「そうだ!」
「今度は何?」
「顔本さんを次の任務に連れて行ったらどうかな!?」
「色々と無理があるだろ」
双子のガイとルウは何だかんだで彼の発言を丁寧に拾ってやっている。
「実際車に乗せるだけだろ?」
「でも、顔本さん体調はどうなのかな?それに、忙しいんじゃなかったっけ…」
「そーそー、弁当箱の返却母ちゃんに任せちゃうくらいに」
慶作と愛鈴は昼食の後片付けをしながらリーダー気取りの主張に構う。
「いいや、もう受付やらなくなって暇なんだってさ。丁度良いじゃん」
「……やらなくなった?」
目の前の事実だけを受け止めさっさと次の案を推し進めようとする大介とは対称的に、ガイは顔本解雇の理由や今後の処遇についてざっと思案した。
「なあなあ、どう思う俺の案?賛成の人!?」
「反対に決まっている。さっきも言ったが無理だ。諦めろ」
反対票が食い気味に入れられた。
「ガイっていっつも頭ごなしだよな」
提案者は、最初から意見が固まっているお前には改めて聞いていないと目で訴える。
「顔本さんが相談窓口係から降ろされたってことは、警察の人間じゃなくなった可能性もある」
「だったら何だよ」
「一般人を私情でS.D.S.の任務に連れ出すつもりか?噂が広まって、今後希望者でも現れたらいちいち対応するのか?」
「それは…」
考えもしなかった課題を示され、堂嶋大介は何も言い返せなくなった。質問責めはまだまだ続く。
「それ以前に、もし顔本さんに何かあったらどうするんだ。お前が責任取れるのか?」
「あ、あの、私も反対…かな。車の揺れとか顔本さん辛いかも」
2388年の道路は舗装の対応が行き届いていない凸凹道。愛鈴もS.D.S.が始動した頃は、任務へ向かう道中車の揺れが想像以上に辛く大分堪えた。
「1対2かよ…」
「2人とも、別にそこまで心配しなくても平気じゃない?顔本さん最近元気そうだもん。キツそうなら最初の1回で止めさせれば良いし」
ルウは兄とは異なり、賛同しつつこの場を明るく取り持った。
「どっちにしろ、まずは顔本さん自身の意見を聞いてからでしょ。私はとりあえず賛成」
「俺もどっちかって言うと賛成かなー。斬新な作戦考えてくれそう」
「よしっ!」
自分の意見が一応通り、大介は目を再び輝かせた。これは画期的な提案かもしれない。いや、そうに決まっている。
リーダー、そしてヒーローとしても喜ばしいことだ。
善は急げと仲間を引き連れ、いつもの遊び場の戸を叩く。あとは気の合う友達が頷いてくれるだけだ。
「で!3対2で賛成が多いんだけど、どう?顔本さん!」
「3対3」
即答であった。
「足手まといっしょ。単純に。あと私引き続き安静第一だから」
顔本は腕を組んだ体勢を崩さず手を顔の前に出し、まずは指を3名分折り曲げた。
「それに泉海さんも反対するでしょー?署長も当然、牟田ちゃんも住民大事にするだろうし、堂嶋先生もドクターストップかなー。あれれ?3対7だよ?反対派の半分も集まってないじゃん。残念でした~」
指を1本ずつ折り返し、最後は舌を出してご提案を明るく却下。
「何だよ、もういい!」
茶化された友達は踵を返して仲間を押し退け、扉を乱暴に開け放つ。
「ちょい待たれよ、これ置いてったらくがき達」
「要らねえよそんなの!」
「大介くん!ありがとう」
彼は顔本の位置から姿が完全に見えなくなる寸前のところで立ち止まった。
「私に役目をくれようとしたんだよね。気持ちだけ受け取っておくよ」
「役目…?」
大介は手を掛けた扉の縦枠から顔を覗かせる。彼の足を止めたのは感謝の言葉で、その後に続く顔本の発言を理解できていない様子。
「みんなにはまだ言ってなかったけど、クビになっちゃってさぁ、相談窓口係。要らなくなっちゃったんだよねっ、私。こんな状況でこんな体だし、これからは何もすることなくて。あはは…」
報告の内容は前もって耳にしていたとは言え、本人が隠しきれていない哀愁に皆沈んでしまう。大介は例外として。
「?…別に、俺は役目とか」
「あ~あ!顔本さんちょっと聞いてくださいよ~」
どこまでも空気を読まないリーダー気取りを遮り、ルウは顔本の真正面でパイプ椅子に座った。
「大介がいっつもゴミ散らかしてもうやんなっちゃう。どーすれば良い?」
「はあ?俺がいつ」
「あ~っ、そうだ!」
慶作は絶妙なタイミングを見計らい、大介と顔本との間に入った。
「大介にしてたパペットとかの話、俺も勉強したいから教えてほしいっす!マリマリは?」
「私っ?そ、そうだね。聞いてみたい、かな」
3人が積極的に作り出した壁により大介は輪から弾き出されてしまう。
「ちょっと待てよ、なんだよ急に!顔本さんとこは俺だけの」
「俺は明日正午に伺います。愚痴のストックが貯まっているので」
「おい、こっち見ながら言うことかぁ!?」
一歩引いて壁際に立っているガイまで、顔本に役目を与えつつ大介をからかい始めた。
「大介、そもそもお前にだけ配分が片寄り過ぎているんだ」
「独り占めなんてズルいぞー?」
「そーだよ大介、たまには女子にも明け渡しなさーい」
「せっかくだから、今度ミロも連れてきます!みんなで息抜きしたいな」
「それイイ!女子会しちゃう!?」
「フン、そんなの顔本さんに務まるかよ」
女子高生が自分達の感覚で期待を膨らませているところへの、拗ねた大介にしては的確な指摘だった。
「だ、だったら、趣味とかの話でも全然良いですしっ…!」
「そ、そーそー!私サッカーとかスポーツも得意だから!」
「顔本さんが女子の話題についていけない前提なのか…?」
「みんな…」
皆からの提案は、顔本元相談窓口係を暖かな気持ちにさせた。焦り半分な女子組からのフォローも微笑ましい。
渋谷を守っているS.D.S.は、こんなにも優しい子達で構成されている。そんな彼らを今後は影からしか応援できなくなると思うと、やはり胸が苦しい。
でも涙は見せたくない。笑ってお礼とお別れを言うべきだ。お別れといったって同じ建物内。どうせ明日にでも顔を合わせるだろうし、この場はとにかく明るくいこう。
「みんな、ありがとうね。んで~、もうひとつ言わ」
「はあ?顔本さん、俺に感謝してるんじゃないのかよ?」
伝える覚悟をせっかく決めたのだが、堂嶋大介に出鼻を挫かれた。
「さっき、気持ちだけ受け取っとくって言ったじゃんか」
「してるよ?感謝。全員にね」
「みんなはただ相談してるだけだろ。しかも急に、今になって!」
「……あのさぁ」
この子は周りの空気を読めないのではなく、吸い込んだ分しか読まないのだろう。もっと言ってしまえば、他人を理解するつもりが毛頭無い。
「一応聞くけど、私がさっき君になんで感謝したか分かってる?」
「知るかよ。でも俺のお陰なんだろ?」
「無自覚なんだ。やっぱタラシじゃん。ねー?」
側に立っている愛鈴と目を合わせる。以前のオドオドした態度は今度こそ無くなり、一歩も引かずにっこりと笑い合った。
「そうだ!」
「今度は何?」
「顔本さんを次の任務に連れて行ったらどうかな!?」
「色々と無理があるだろ」
双子のガイとルウは何だかんだで彼の発言を丁寧に拾ってやっている。
「実際車に乗せるだけだろ?」
「でも、顔本さん体調はどうなのかな?それに、忙しいんじゃなかったっけ…」
「そーそー、弁当箱の返却母ちゃんに任せちゃうくらいに」
慶作と愛鈴は昼食の後片付けをしながらリーダー気取りの主張に構う。
「いいや、もう受付やらなくなって暇なんだってさ。丁度良いじゃん」
「……やらなくなった?」
目の前の事実だけを受け止めさっさと次の案を推し進めようとする大介とは対称的に、ガイは顔本解雇の理由や今後の処遇についてざっと思案した。
「なあなあ、どう思う俺の案?賛成の人!?」
「反対に決まっている。さっきも言ったが無理だ。諦めろ」
反対票が食い気味に入れられた。
「ガイっていっつも頭ごなしだよな」
提案者は、最初から意見が固まっているお前には改めて聞いていないと目で訴える。
「顔本さんが相談窓口係から降ろされたってことは、警察の人間じゃなくなった可能性もある」
「だったら何だよ」
「一般人を私情でS.D.S.の任務に連れ出すつもりか?噂が広まって、今後希望者でも現れたらいちいち対応するのか?」
「それは…」
考えもしなかった課題を示され、堂嶋大介は何も言い返せなくなった。質問責めはまだまだ続く。
「それ以前に、もし顔本さんに何かあったらどうするんだ。お前が責任取れるのか?」
「あ、あの、私も反対…かな。車の揺れとか顔本さん辛いかも」
2388年の道路は舗装の対応が行き届いていない凸凹道。愛鈴もS.D.S.が始動した頃は、任務へ向かう道中車の揺れが想像以上に辛く大分堪えた。
「1対2かよ…」
「2人とも、別にそこまで心配しなくても平気じゃない?顔本さん最近元気そうだもん。キツそうなら最初の1回で止めさせれば良いし」
ルウは兄とは異なり、賛同しつつこの場を明るく取り持った。
「どっちにしろ、まずは顔本さん自身の意見を聞いてからでしょ。私はとりあえず賛成」
「俺もどっちかって言うと賛成かなー。斬新な作戦考えてくれそう」
「よしっ!」
自分の意見が一応通り、大介は目を再び輝かせた。これは画期的な提案かもしれない。いや、そうに決まっている。
リーダー、そしてヒーローとしても喜ばしいことだ。
善は急げと仲間を引き連れ、いつもの遊び場の戸を叩く。あとは気の合う友達が頷いてくれるだけだ。
「で!3対2で賛成が多いんだけど、どう?顔本さん!」
「3対3」
即答であった。
「足手まといっしょ。単純に。あと私引き続き安静第一だから」
顔本は腕を組んだ体勢を崩さず手を顔の前に出し、まずは指を3名分折り曲げた。
「それに泉海さんも反対するでしょー?署長も当然、牟田ちゃんも住民大事にするだろうし、堂嶋先生もドクターストップかなー。あれれ?3対7だよ?反対派の半分も集まってないじゃん。残念でした~」
指を1本ずつ折り返し、最後は舌を出してご提案を明るく却下。
「何だよ、もういい!」
茶化された友達は踵を返して仲間を押し退け、扉を乱暴に開け放つ。
「ちょい待たれよ、これ置いてったらくがき達」
「要らねえよそんなの!」
「大介くん!ありがとう」
彼は顔本の位置から姿が完全に見えなくなる寸前のところで立ち止まった。
「私に役目をくれようとしたんだよね。気持ちだけ受け取っておくよ」
「役目…?」
大介は手を掛けた扉の縦枠から顔を覗かせる。彼の足を止めたのは感謝の言葉で、その後に続く顔本の発言を理解できていない様子。
「みんなにはまだ言ってなかったけど、クビになっちゃってさぁ、相談窓口係。要らなくなっちゃったんだよねっ、私。こんな状況でこんな体だし、これからは何もすることなくて。あはは…」
報告の内容は前もって耳にしていたとは言え、本人が隠しきれていない哀愁に皆沈んでしまう。大介は例外として。
「?…別に、俺は役目とか」
「あ~あ!顔本さんちょっと聞いてくださいよ~」
どこまでも空気を読まないリーダー気取りを遮り、ルウは顔本の真正面でパイプ椅子に座った。
「大介がいっつもゴミ散らかしてもうやんなっちゃう。どーすれば良い?」
「はあ?俺がいつ」
「あ~っ、そうだ!」
慶作は絶妙なタイミングを見計らい、大介と顔本との間に入った。
「大介にしてたパペットとかの話、俺も勉強したいから教えてほしいっす!マリマリは?」
「私っ?そ、そうだね。聞いてみたい、かな」
3人が積極的に作り出した壁により大介は輪から弾き出されてしまう。
「ちょっと待てよ、なんだよ急に!顔本さんとこは俺だけの」
「俺は明日正午に伺います。愚痴のストックが貯まっているので」
「おい、こっち見ながら言うことかぁ!?」
一歩引いて壁際に立っているガイまで、顔本に役目を与えつつ大介をからかい始めた。
「大介、そもそもお前にだけ配分が片寄り過ぎているんだ」
「独り占めなんてズルいぞー?」
「そーだよ大介、たまには女子にも明け渡しなさーい」
「せっかくだから、今度ミロも連れてきます!みんなで息抜きしたいな」
「それイイ!女子会しちゃう!?」
「フン、そんなの顔本さんに務まるかよ」
女子高生が自分達の感覚で期待を膨らませているところへの、拗ねた大介にしては的確な指摘だった。
「だ、だったら、趣味とかの話でも全然良いですしっ…!」
「そ、そーそー!私サッカーとかスポーツも得意だから!」
「顔本さんが女子の話題についていけない前提なのか…?」
「みんな…」
皆からの提案は、顔本元相談窓口係を暖かな気持ちにさせた。焦り半分な女子組からのフォローも微笑ましい。
渋谷を守っているS.D.S.は、こんなにも優しい子達で構成されている。そんな彼らを今後は影からしか応援できなくなると思うと、やはり胸が苦しい。
でも涙は見せたくない。笑ってお礼とお別れを言うべきだ。お別れといったって同じ建物内。どうせ明日にでも顔を合わせるだろうし、この場はとにかく明るくいこう。
「みんな、ありがとうね。んで~、もうひとつ言わ」
「はあ?顔本さん、俺に感謝してるんじゃないのかよ?」
伝える覚悟をせっかく決めたのだが、堂嶋大介に出鼻を挫かれた。
「さっき、気持ちだけ受け取っとくって言ったじゃんか」
「してるよ?感謝。全員にね」
「みんなはただ相談してるだけだろ。しかも急に、今になって!」
「……あのさぁ」
この子は周りの空気を読めないのではなく、吸い込んだ分しか読まないのだろう。もっと言ってしまえば、他人を理解するつもりが毛頭無い。
「一応聞くけど、私がさっき君になんで感謝したか分かってる?」
「知るかよ。でも俺のお陰なんだろ?」
「無自覚なんだ。やっぱタラシじゃん。ねー?」
側に立っている愛鈴と目を合わせる。以前のオドオドした態度は今度こそ無くなり、一歩も引かずにっこりと笑い合った。