Case⑦ 強いあなたに
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次の日。
個室を片付け中の顔本は引き出しに押し込んでいた大量のらくがき用紙を地道に分類していた。
「終わんね。そもそも要る?むしろゴミ?帰す前に聞いときゃ良かった~」
「顔本さん、良いかしら?」
控え目なノックに返事をすると泉海巡査長が散らかった部屋に入って来る。
「あら、もう片付け始めちゃった?」
彼女の顔にはいくらか明るい表情が戻っていて、顔本は密かに胸を撫で下ろした。この光景も今日で見納めか。
「はい。私って今後そこらの学校暮らし!ですかね?」
「そのことなんだけど……顔本さんに引き続きここを使わせなさいって、黒岩さんが」
「は?」
「衣類も、ジャケットと帽子以外はそのままで良いそうよ。無線はさすがにダメだけど」
泉海は自分の肩に取り付けている無線機を指差しながら苦笑い。些細なことに対して申し訳なさそうにしているが、顔本はまだ報告内容自体について行けていない。
「え?え?どゆこと?」
「警察としての活動は停止。S.D.S.との接触も控えるように。但し署内で安静第一に。ですって」
これでは実質、役割とトランシーバーを没収されただけだ。あと階級章の付いた上着と旭日章入りの帽子も。
「はあ~?私もう部外者っすよ?署は居まずいんだけどなぁ、正直」
「……」
「辞めろっつったり出て行くなっつったり、なんなんだろうね全く」
「……」
「あ、これ泉海さんへのイヤミじゃないザンスよ。署長へのクレーム……署長に言わないでね!ただの愚痴だから!」
「……」
「あとS.D.S.のことだけど。いつも向こうが会いに来てくれてるんだから、受け身の私に言われてもって感じ」
「ええ。……言っておくわ……」
泉海はまた元気を無くしてしまった。気を落として目を伏せずとも、部屋中に散乱したコピー紙が目に入る。
「これ全部、大介くんとの作戦会議資料?」
「はい」
「よくもまあこんなに……」
ある意味感心しながら近くの数枚を手に取った。ニューロスーツに関するメモ書き、ストリング・パペット可動域の説明、渋谷周辺の見取り図。重要度が低いようで高そうな、ヒーローポーズのイラストまで。
「大体放置して帰っちゃうんだよね、大介くん。これって一応S.D.S.関連資料だから、ちゃんと揃えて返却しようと思って」
「……手伝うわ」
時刻は、頂点を通り過ぎた太陽が後は下る一方という頃合い。
「ハイハイ凄いですね~」
「ルウまでなんだよその態度!」
慶作が気を使って扉を閉めても、ボルテージの上がった問題児の声は隣の部屋や廊下まで響いていた。
「あーあ、やっぱ顔本さんとじゃなきゃ話合わないや!」
「馬鹿か」
「あ?」
「話が合っているんじゃなくて、合わせてもらっているんだろ」
「なっ…!」
ガイは腕を組んだまま視線すら向けずに大介を黙らせた。
「そうそう。年上女性がお子ちゃまに気を使ってくれてんの!毎日毎日大介の相手。ホント疲れるだろうなー」
一方その年上女性。
「そうだ!泉海さんS.D.S.の哨戒任務に付き添ってるんですよね?大介くんに聞いてもわかんなかったんだけど、あくまで可能性としてね、パイロットの精神状態がパペット操縦時に若干のタイムラグ」
「ま、待って待って!私そういうの専門外だから!」
泉海は持っている何枚かの紙で顔本の熱視線を遮った。彼女の煌めく瞳に圧倒されたが、ハッと気付いて盾を降ろす。
「って言うか、今後もS.D.S.と関わる気満々じゃない!」
「聞くだけっ!泉海さんが聞くだけで良いんでお願いしますよ~、こんな話できるの大介くんだけだったんすよ~理解してるかどうかはさておき」
「知らないわよっ、ほら手を動かす!」
顔本は愚痴を止めずに紙の山の向きを1枚残らず揃えていく。
「他の子達ポカンとしちゃって話が合わなくて。マリマリちゃんも興味があるんだか無いんだか。ミロとは全然会えないし」
顔本の口からミロの名を聞いて手が止まってしまう。彼女とは昨日の朝会って話をしたばかり。話題は、顔本の身の安全について。
「他のお巡りさんパペットのことほとんど知らないでしょ。てか昨日からみんな余所余所しいし」
「……」
「私なんかした?いや、なんかしかやってきてないか…」
「……だって、貴女はもう……」
泉海は胸に手を当て、自分でも聞き取れない程の声量で呟いた。
「泉海さん?」
何も知らない、否、アーヴの人間から直々に忠告されている筈の顔本がケロッとした顔で覗き込んでくる。
「どしたの?お腹痛い?いや肺か?まさか心臓だったり?」
いつまでもこんな調子ではいけない。元部下にまで心配をかけるようでは巡査長兼S.D.S.連絡係の名が廃る。
泉海はしっかり者のお姉さんの表情に戻した。
「敬語!今後も、目上の人を敬うことを忘れないように!」
「目上…目上ねえ。尊敬に値する人達のことなら何時如何なる時だって敬ってますよ、泉海巡査長」
「尊敬できない人が居ても、トラブルは絶対避けること!」
「へーい」
「返事はハイでしょう?」
このいまいち信用に欠ける返事も聞き納めか。
「あと、安静第一にね」
手の掛かりまくった元部下へ、最後にと優しく微笑んだ。
個室を片付け中の顔本は引き出しに押し込んでいた大量のらくがき用紙を地道に分類していた。
「終わんね。そもそも要る?むしろゴミ?帰す前に聞いときゃ良かった~」
「顔本さん、良いかしら?」
控え目なノックに返事をすると泉海巡査長が散らかった部屋に入って来る。
「あら、もう片付け始めちゃった?」
彼女の顔にはいくらか明るい表情が戻っていて、顔本は密かに胸を撫で下ろした。この光景も今日で見納めか。
「はい。私って今後そこらの学校暮らし!ですかね?」
「そのことなんだけど……顔本さんに引き続きここを使わせなさいって、黒岩さんが」
「は?」
「衣類も、ジャケットと帽子以外はそのままで良いそうよ。無線はさすがにダメだけど」
泉海は自分の肩に取り付けている無線機を指差しながら苦笑い。些細なことに対して申し訳なさそうにしているが、顔本はまだ報告内容自体について行けていない。
「え?え?どゆこと?」
「警察としての活動は停止。S.D.S.との接触も控えるように。但し署内で安静第一に。ですって」
これでは実質、役割とトランシーバーを没収されただけだ。あと階級章の付いた上着と旭日章入りの帽子も。
「はあ~?私もう部外者っすよ?署は居まずいんだけどなぁ、正直」
「……」
「辞めろっつったり出て行くなっつったり、なんなんだろうね全く」
「……」
「あ、これ泉海さんへのイヤミじゃないザンスよ。署長へのクレーム……署長に言わないでね!ただの愚痴だから!」
「……」
「あとS.D.S.のことだけど。いつも向こうが会いに来てくれてるんだから、受け身の私に言われてもって感じ」
「ええ。……言っておくわ……」
泉海はまた元気を無くしてしまった。気を落として目を伏せずとも、部屋中に散乱したコピー紙が目に入る。
「これ全部、大介くんとの作戦会議資料?」
「はい」
「よくもまあこんなに……」
ある意味感心しながら近くの数枚を手に取った。ニューロスーツに関するメモ書き、ストリング・パペット可動域の説明、渋谷周辺の見取り図。重要度が低いようで高そうな、ヒーローポーズのイラストまで。
「大体放置して帰っちゃうんだよね、大介くん。これって一応S.D.S.関連資料だから、ちゃんと揃えて返却しようと思って」
「……手伝うわ」
時刻は、頂点を通り過ぎた太陽が後は下る一方という頃合い。
「ハイハイ凄いですね~」
「ルウまでなんだよその態度!」
慶作が気を使って扉を閉めても、ボルテージの上がった問題児の声は隣の部屋や廊下まで響いていた。
「あーあ、やっぱ顔本さんとじゃなきゃ話合わないや!」
「馬鹿か」
「あ?」
「話が合っているんじゃなくて、合わせてもらっているんだろ」
「なっ…!」
ガイは腕を組んだまま視線すら向けずに大介を黙らせた。
「そうそう。年上女性がお子ちゃまに気を使ってくれてんの!毎日毎日大介の相手。ホント疲れるだろうなー」
一方その年上女性。
「そうだ!泉海さんS.D.S.の哨戒任務に付き添ってるんですよね?大介くんに聞いてもわかんなかったんだけど、あくまで可能性としてね、パイロットの精神状態がパペット操縦時に若干のタイムラグ」
「ま、待って待って!私そういうの専門外だから!」
泉海は持っている何枚かの紙で顔本の熱視線を遮った。彼女の煌めく瞳に圧倒されたが、ハッと気付いて盾を降ろす。
「って言うか、今後もS.D.S.と関わる気満々じゃない!」
「聞くだけっ!泉海さんが聞くだけで良いんでお願いしますよ~、こんな話できるの大介くんだけだったんすよ~理解してるかどうかはさておき」
「知らないわよっ、ほら手を動かす!」
顔本は愚痴を止めずに紙の山の向きを1枚残らず揃えていく。
「他の子達ポカンとしちゃって話が合わなくて。マリマリちゃんも興味があるんだか無いんだか。ミロとは全然会えないし」
顔本の口からミロの名を聞いて手が止まってしまう。彼女とは昨日の朝会って話をしたばかり。話題は、顔本の身の安全について。
「他のお巡りさんパペットのことほとんど知らないでしょ。てか昨日からみんな余所余所しいし」
「……」
「私なんかした?いや、なんかしかやってきてないか…」
「……だって、貴女はもう……」
泉海は胸に手を当て、自分でも聞き取れない程の声量で呟いた。
「泉海さん?」
何も知らない、否、アーヴの人間から直々に忠告されている筈の顔本がケロッとした顔で覗き込んでくる。
「どしたの?お腹痛い?いや肺か?まさか心臓だったり?」
いつまでもこんな調子ではいけない。元部下にまで心配をかけるようでは巡査長兼S.D.S.連絡係の名が廃る。
泉海はしっかり者のお姉さんの表情に戻した。
「敬語!今後も、目上の人を敬うことを忘れないように!」
「目上…目上ねえ。尊敬に値する人達のことなら何時如何なる時だって敬ってますよ、泉海巡査長」
「尊敬できない人が居ても、トラブルは絶対避けること!」
「へーい」
「返事はハイでしょう?」
このいまいち信用に欠ける返事も聞き納めか。
「あと、安静第一にね」
手の掛かりまくった元部下へ、最後にと優しく微笑んだ。