Case⑤ 隠れた鬱憤
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「じゃ、次の質問良い?」
「構わないが…その代わり、渋谷警察署への道案内を頼めるかね?」
顔本は淡白な態度を貫いていたが、目元がぴくりと動いてしまう。
「私としたことが座標設定を誤ってしまってね、正にバッド・ホリデーだ。しかぁーし!君の回答次第では今日はグッド・ホリデー!」
「渋谷警察署に行く目的は?」
「パペットマスターの子供達にお会いしたい。渋谷が所有している戦闘用ロボットのパイロット、と言えばわかるかね?」
「……」
「道中、私は硬直しておくので、プレゼントのお人形を届ける体で頼むよ」
「……」
顔本は危険因子を睨み付けつつ、肩のトランシーバーにゆっくり手を近付ける。
「おおーっと、それは嫌か。待ちたまえ待ちたまえ、再考しよう」
ニコラスは一旦背を向け、葉巻をくわえ直した。
「フム……あの姉妹は毛程にも恐ろしくないが、余計な事態を招くとすぐに怒り出す乱暴者。極めて面倒だ」
「へえ、ニコさん中間管理職的な?」
ニコラスは小声で呟いたつもりだったが、顔本はそれを拾い上げ掘り下げを試みる。深堀りを阻止するように、お人形は強気な婦警と向き合って声を張った。
「宜しいっ、取引は無しだ。どうか機嫌を直してくれはしないか?」
「じゃあ交換条件無しでバンバン質問して良いよね?」
「気が済むまで尋ねたまえ」
こんな端くれに真実を回答する義理も責任も無いが、同様に、構ってやらないことも無い。ニコラスは短い腕をキュッと組んだ。
「ありがと紳士。じゃ早速……その体って、武器を生成するとか、爆発するとか…」
「この愛くるしい姿のことかね?ご期待に沿えず残念だか、何の変哲もない只のコミュニケーションボディだ。不要になれば私の意思ひとつで周囲にダメージを与えることなく破裂させられる。そんな運命を辿るコピー体、とでも表現しておこうか」
「つまり、無害ってこと?」
「結論から言えばそういうことになる」
「そ。良かった」
いつの間にか顔本はお人形の間近に迫っていて、彼の両脇に手を入れ軽々と持ち上げる。
「んん?」
「へへー」
にっこり笑った次の瞬間、ニコラスを力の限り抱き締めた。
「ふっかふか~ぁ!」
「むがぁ!?」
「想像以上だわコレ。よしよしよ~し!」
その2つの手は本人の許可無く自由に這いずり回る。
「ふんふん、思ったより軽い。あと獣臭くはない。温かいな、ぬるま湯ってとこか」
片方の腕で胴体を抱えたまま、空いた手で尻尾の根本から先端までを何回もしごく。
「丁度良い毛の硬さ!」
「ひゃわっ!止めないか顔本!」
「触覚あるの?よくできたコピーだね」
今度は背中の地肌を確認するように毛並みに逆らってゆっくり撫で上げる。
「ノミ居ないね、優秀」
「好奇心は猫をも殺すぞむぐぅっ」
うるさいので頭を包み込んでやった。素晴らしい肌触りにうっとりしながら顔本はその辺を歩き回る。
「はぁーっ、やっぱ必要だわ、癒し。うちペット飼う余裕無いもんなー」
「ぷはっ!このニコラス・シュガーはペッ」
「じゃなきゃ、歌でしょ、曲でしょ、アニメ、映画、アイドル、ゲーム……どれもご無沙汰」
「私の話を聞かんかこのモブ女!」
「今の荒みきった区民の心には潤いが必要なんだよね」
柔らかい頭に顎を乗せ思案する。哺乳類系統の生き物との戯れによるリラックス効果は想像以上に高く、すぐにアイディアが浮かんできた。
「そうだ、今度祭りでも企画……いや物資が難しいか……屋台も電気も厳しいけど、盆踊りくらいは……」
「フンッ、祭りか。現実逃避とも言うがね」
「娯楽ね、娯楽。自分みたいなお子ちゃま野郎はこういうぬいぐるみでもいけるだろうけど」
今度は高く持ち上げて、魅力的なぷにぷにお腹へ顔全体を埋め込む。
「うりうりうりうり~」
「うひゃあっ、どうもペースが乱れる。それに貴様では話にならんようだ!シィーユー!アゲインは無いことを祈ろう!」
彼のコピー体はそれだけ一方的に言い渡し、風船のように破裂して姿を眩ませてしまった。
残された顔本は宙を抱える手を降ろし、渋谷の人々に一切構ってくれないような曇天を見上げる。
「大のおとなはどうしてるんだろう…」
「構わないが…その代わり、渋谷警察署への道案内を頼めるかね?」
顔本は淡白な態度を貫いていたが、目元がぴくりと動いてしまう。
「私としたことが座標設定を誤ってしまってね、正にバッド・ホリデーだ。しかぁーし!君の回答次第では今日はグッド・ホリデー!」
「渋谷警察署に行く目的は?」
「パペットマスターの子供達にお会いしたい。渋谷が所有している戦闘用ロボットのパイロット、と言えばわかるかね?」
「……」
「道中、私は硬直しておくので、プレゼントのお人形を届ける体で頼むよ」
「……」
顔本は危険因子を睨み付けつつ、肩のトランシーバーにゆっくり手を近付ける。
「おおーっと、それは嫌か。待ちたまえ待ちたまえ、再考しよう」
ニコラスは一旦背を向け、葉巻をくわえ直した。
「フム……あの姉妹は毛程にも恐ろしくないが、余計な事態を招くとすぐに怒り出す乱暴者。極めて面倒だ」
「へえ、ニコさん中間管理職的な?」
ニコラスは小声で呟いたつもりだったが、顔本はそれを拾い上げ掘り下げを試みる。深堀りを阻止するように、お人形は強気な婦警と向き合って声を張った。
「宜しいっ、取引は無しだ。どうか機嫌を直してくれはしないか?」
「じゃあ交換条件無しでバンバン質問して良いよね?」
「気が済むまで尋ねたまえ」
こんな端くれに真実を回答する義理も責任も無いが、同様に、構ってやらないことも無い。ニコラスは短い腕をキュッと組んだ。
「ありがと紳士。じゃ早速……その体って、武器を生成するとか、爆発するとか…」
「この愛くるしい姿のことかね?ご期待に沿えず残念だか、何の変哲もない只のコミュニケーションボディだ。不要になれば私の意思ひとつで周囲にダメージを与えることなく破裂させられる。そんな運命を辿るコピー体、とでも表現しておこうか」
「つまり、無害ってこと?」
「結論から言えばそういうことになる」
「そ。良かった」
いつの間にか顔本はお人形の間近に迫っていて、彼の両脇に手を入れ軽々と持ち上げる。
「んん?」
「へへー」
にっこり笑った次の瞬間、ニコラスを力の限り抱き締めた。
「ふっかふか~ぁ!」
「むがぁ!?」
「想像以上だわコレ。よしよしよ~し!」
その2つの手は本人の許可無く自由に這いずり回る。
「ふんふん、思ったより軽い。あと獣臭くはない。温かいな、ぬるま湯ってとこか」
片方の腕で胴体を抱えたまま、空いた手で尻尾の根本から先端までを何回もしごく。
「丁度良い毛の硬さ!」
「ひゃわっ!止めないか顔本!」
「触覚あるの?よくできたコピーだね」
今度は背中の地肌を確認するように毛並みに逆らってゆっくり撫で上げる。
「ノミ居ないね、優秀」
「好奇心は猫をも殺すぞむぐぅっ」
うるさいので頭を包み込んでやった。素晴らしい肌触りにうっとりしながら顔本はその辺を歩き回る。
「はぁーっ、やっぱ必要だわ、癒し。うちペット飼う余裕無いもんなー」
「ぷはっ!このニコラス・シュガーはペッ」
「じゃなきゃ、歌でしょ、曲でしょ、アニメ、映画、アイドル、ゲーム……どれもご無沙汰」
「私の話を聞かんかこのモブ女!」
「今の荒みきった区民の心には潤いが必要なんだよね」
柔らかい頭に顎を乗せ思案する。哺乳類系統の生き物との戯れによるリラックス効果は想像以上に高く、すぐにアイディアが浮かんできた。
「そうだ、今度祭りでも企画……いや物資が難しいか……屋台も電気も厳しいけど、盆踊りくらいは……」
「フンッ、祭りか。現実逃避とも言うがね」
「娯楽ね、娯楽。自分みたいなお子ちゃま野郎はこういうぬいぐるみでもいけるだろうけど」
今度は高く持ち上げて、魅力的なぷにぷにお腹へ顔全体を埋め込む。
「うりうりうりうり~」
「うひゃあっ、どうもペースが乱れる。それに貴様では話にならんようだ!シィーユー!アゲインは無いことを祈ろう!」
彼のコピー体はそれだけ一方的に言い渡し、風船のように破裂して姿を眩ませてしまった。
残された顔本は宙を抱える手を降ろし、渋谷の人々に一切構ってくれないような曇天を見上げる。
「大のおとなはどうしてるんだろう…」