Case⑤ 隠れた鬱憤
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外は快晴とまでは行かないが、空模様は穏やかで過ごしやすい体感気温。絶望的な状況でも、大地は平等に太陽の日差で照らされている。
顔本は目を閉じて両腕をうんと広げた。今はこの暖かさも満喫しなければ勿体無い。
「じゃなかった、自治会って……どこでやってんだ?」
元々、渋谷には土地勘も馴染みも無かった顔本。複雑な立体歩道橋は警察署を頻繁に脱走し散策することでマスターできたが、建物一つ一つの使われ方まではまだ把握できていない。
「誰かに聞いたら泉海さんにすぐバレちゃうし、どうしたものか」
広いロビーのあるビルやテントを張れそうな公園等、人々が集結しそうな場所を当たってみるも、逆に活気の無い通りに出てしまった。
「無駄足かよ…」
良案も特に浮かばず、花壇の角に腰を下ろした。
萎れた花の上で透明のペットボトルをひっくり返し、今日の目的のひとつを取りあえず果たす。
「お~やおや、それは貴重な飲み水ではないのか?」
「そうだけど。私が貰った水なんだからどう使おうが勝手でしょ」
背後から投げ掛けられた質問に、顔本は振り返らずぶっきらぼうに答えた。
「いやいや、ケチをつけているつもりはこれっぽっちも無いのだよ?君の思い遣りの心に感心しているのさ。だがぁ~、そのやり方では葉の上で乾燥してしまう分が勿体無いと思うがね。植物の構造をよく思い出してみたまえ、彼らは何処から水を吸い上げる?」
「あ、そうか。どーも」
顔本は素直に感謝を述べたが、相手の喋り方は非常に回りくどく、先程から勘に障りまくっている。皮肉の1つでも打ち返してやろうと、笑顔を装備し振り向いた。
「おじさん、さては学者、いや教授かな?絶対学生に嫌わ……」
が、後ろには聞こえていた声の似合いそうな人物どころか、人影すら見当たらない。
変わったことを強いて挙げるならば、数メートル先で地べたに置かれている黄土色のお人形くらいだろう。
「教授じゃなくて忍者か?変わり身的な…」
「変わり身……ある意味正解と言えるだろう」
人形は口を開き、顔本の勝手な分析を肯定した。先程と同じ声だ。
「……は?」
2017年にしては現実的ではないものが、手の届く位置までちょこちょこ歩いてきて丁寧にお辞儀した。
「ご機嫌麗しゅう、悲劇のアグレッシブレディ」
「……はじめまして」
やっとのことで単純な挨拶を絞り出したら、紳士は降ろしていた白いシルクハットを被り直す。
「……」
顔本は久々に緊張していた。
新しい物や人、環境。それらに対し顔本はどちらかと言えば好意的だ。積極的に接するし観察もする。
だが、今の渋谷において得体の知れないモノへの接触は危険を伴う。しかも単独。人気も無い。
「……」
「どうした?顔色が悪いようだが。やはり水分補給すべきだったのではないかね?」
冷えた手で握る汗は渋谷転送日以来だろうか。少しでも逃げやすいよう花壇の縁から立ち上がる。
「アーヴって、ご存知…?」
しかし、仮にも自分は警察官だ。制服を着用しているというだけで、本当に仮だが。警察として、大人として、何が出来るか。
顔本が今出せる答えは、探りを入れる真似事だった。
「わざわざ外堀を埋めるような尋ね方をしなくとも自己紹介くらいしてやろう。姓はニコ、所属はラオス、名はシュガー。サトウも可だっ」
「ニコさんね。私は顔本」
「顔本」
作戦通り、とでも言いたげにその者は怪しく笑う。じっくり味わうかのように名前を言い直され、顔本は一層神経を尖らせた。
「そのような顔をするな顔本。君は2017年からやって来た古代人、私は2388年を生きる悲劇の現代人。同じ悲劇の者同士、仲良くしようじゃあ~ないか!」
「悲劇の……じゃあ、アーヴの人?」
「悲劇の度合いで言えば我々の方が遥かに上だ。あんな過激派連中とは一緒にしてもらいたくはないな」
非常に残念ながら、渋谷にとって友好的ではない方の組織のメンバーらしい。
ただ、シビリアンと違い話は通じる個体なので、いきなり巨大な手で握り潰されるなんて惨劇は起きないだろう。それだけでも十分救いに感じた。
「リヴィジョンズの紳士に対して大変失礼を致しました」
「ブラボーッ!なかなか鋭い観察眼を持っているな。それに礼儀もわきまえている。やるではないか顔本」
ニコラスは小さな足を片方上げてくるんとターンした。明らかに馬鹿にされているが、引き続き我慢せざるを得ない。圧倒的な情報不足と力不足。緊張の糸はまだまだ解いてはならない。
顔本は目を閉じて両腕をうんと広げた。今はこの暖かさも満喫しなければ勿体無い。
「じゃなかった、自治会って……どこでやってんだ?」
元々、渋谷には土地勘も馴染みも無かった顔本。複雑な立体歩道橋は警察署を頻繁に脱走し散策することでマスターできたが、建物一つ一つの使われ方まではまだ把握できていない。
「誰かに聞いたら泉海さんにすぐバレちゃうし、どうしたものか」
広いロビーのあるビルやテントを張れそうな公園等、人々が集結しそうな場所を当たってみるも、逆に活気の無い通りに出てしまった。
「無駄足かよ…」
良案も特に浮かばず、花壇の角に腰を下ろした。
萎れた花の上で透明のペットボトルをひっくり返し、今日の目的のひとつを取りあえず果たす。
「お~やおや、それは貴重な飲み水ではないのか?」
「そうだけど。私が貰った水なんだからどう使おうが勝手でしょ」
背後から投げ掛けられた質問に、顔本は振り返らずぶっきらぼうに答えた。
「いやいや、ケチをつけているつもりはこれっぽっちも無いのだよ?君の思い遣りの心に感心しているのさ。だがぁ~、そのやり方では葉の上で乾燥してしまう分が勿体無いと思うがね。植物の構造をよく思い出してみたまえ、彼らは何処から水を吸い上げる?」
「あ、そうか。どーも」
顔本は素直に感謝を述べたが、相手の喋り方は非常に回りくどく、先程から勘に障りまくっている。皮肉の1つでも打ち返してやろうと、笑顔を装備し振り向いた。
「おじさん、さては学者、いや教授かな?絶対学生に嫌わ……」
が、後ろには聞こえていた声の似合いそうな人物どころか、人影すら見当たらない。
変わったことを強いて挙げるならば、数メートル先で地べたに置かれている黄土色のお人形くらいだろう。
「教授じゃなくて忍者か?変わり身的な…」
「変わり身……ある意味正解と言えるだろう」
人形は口を開き、顔本の勝手な分析を肯定した。先程と同じ声だ。
「……は?」
2017年にしては現実的ではないものが、手の届く位置までちょこちょこ歩いてきて丁寧にお辞儀した。
「ご機嫌麗しゅう、悲劇のアグレッシブレディ」
「……はじめまして」
やっとのことで単純な挨拶を絞り出したら、紳士は降ろしていた白いシルクハットを被り直す。
「……」
顔本は久々に緊張していた。
新しい物や人、環境。それらに対し顔本はどちらかと言えば好意的だ。積極的に接するし観察もする。
だが、今の渋谷において得体の知れないモノへの接触は危険を伴う。しかも単独。人気も無い。
「……」
「どうした?顔色が悪いようだが。やはり水分補給すべきだったのではないかね?」
冷えた手で握る汗は渋谷転送日以来だろうか。少しでも逃げやすいよう花壇の縁から立ち上がる。
「アーヴって、ご存知…?」
しかし、仮にも自分は警察官だ。制服を着用しているというだけで、本当に仮だが。警察として、大人として、何が出来るか。
顔本が今出せる答えは、探りを入れる真似事だった。
「わざわざ外堀を埋めるような尋ね方をしなくとも自己紹介くらいしてやろう。姓はニコ、所属はラオス、名はシュガー。サトウも可だっ」
「ニコさんね。私は顔本」
「顔本」
作戦通り、とでも言いたげにその者は怪しく笑う。じっくり味わうかのように名前を言い直され、顔本は一層神経を尖らせた。
「そのような顔をするな顔本。君は2017年からやって来た古代人、私は2388年を生きる悲劇の現代人。同じ悲劇の者同士、仲良くしようじゃあ~ないか!」
「悲劇の……じゃあ、アーヴの人?」
「悲劇の度合いで言えば我々の方が遥かに上だ。あんな過激派連中とは一緒にしてもらいたくはないな」
非常に残念ながら、渋谷にとって友好的ではない方の組織のメンバーらしい。
ただ、シビリアンと違い話は通じる個体なので、いきなり巨大な手で握り潰されるなんて惨劇は起きないだろう。それだけでも十分救いに感じた。
「リヴィジョンズの紳士に対して大変失礼を致しました」
「ブラボーッ!なかなか鋭い観察眼を持っているな。それに礼儀もわきまえている。やるではないか顔本」
ニコラスは小さな足を片方上げてくるんとターンした。明らかに馬鹿にされているが、引き続き我慢せざるを得ない。圧倒的な情報不足と力不足。緊張の糸はまだまだ解いてはならない。