Case③b 大人達と子供
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日。誰の、とは黒岩は明言しないが、監視を兼ねて渋谷警察署1階のカウンター前に彼は立っていた。
「どうだ調子は」
「見ての通り、ぼちぼちですよ。固定ファンで成り立ってる感は否めないけど」
「お前の体調のことだ」
「はーい次。こんちは~」
警察署長そっちのけで顔本相談窓口係は昼休憩前最後に訪れた民間人へ笑顔を向ける。
「今日も来てくれたんだ、なんか握手会みたいじゃない?なーんて」
「あ、あの!」
顔馴染みの一般男性は顔本がカウンターに突いていた手を握り、自身の顔の前まで引き寄せた。
「好きです!」
「!?」
突如放たれた告白。黒岩含め、このフロア中の人間は絶句せざるを得ない。
「いつもみんなのために一生懸命で!うちの親は態度悪くて気に入らないとか言ってたけど、そこも含めて貴女の魅力だと僕は思ってます!」
冗談ではぐらかすか事務的に突き返すか。部下が次に取る行動はその辺りだろうと黒岩は高を括っていた。だが、
「えっ、えぇ~…こまっ、困ったなぁ~。急に……ねぇ?」
顔本はカウンター外の黒岩へ第三者の意見を促した。助けを求める割には顔が緩みきっているが。
「急とか関係無いです!こんな状況だからこそ、悔いが残らないよう生きたいんだ!」
「あ~、それは賛成かな」
「わかってくれますか!?」
彼の両手に力がうんと込められ、顔本は顔をしかめた。包まれている手首はほぼ治っているが、単純に成人男性の握力は強過ぎる。振り払うことも叶わない。
「わ…わかるけど、その…」
「嬉しいなぁ、気持ちが通じ合ったっていうか…!」
「そ、そりゃ何より…」
「幸せです!」
「ご相談内容は簡潔にお願い致します」
横から背の高い渋谷警察署長が割り込み、男の手をいとも簡単に解いた。
だが顔本は再度手を握られる。
「付き合ってください!!」
更に畳み掛け追い出すつもりで取った最初の行動が、結果的には着火に繋がってしまった。
「つ…!?」
「僕は本気です!」
通りすがりの警官までもが固唾を飲んでこの恋の結末を見守る。
「う、うう~……ど、どうしよ署長~」
「……当人同士の問題だ」
外野、しかも男によるこれ以上の介入は十中八九場をこじらせる。腕を組んだ黒岩は目を瞑り沈黙を選んだ。
「僕の目を見てください、今は僕と話してるんでしょ?」
「え、ええ~?」
「これは僕と貴女の重要な話なんだ」
「そんなこと言われても~!」
「……顔本さん…?」
無用なトラブルを避け冷静沈着な態度を貫いていた黒岩だったが、顔本の情けない声でとうとう痺れを切らす。
「全く、いつもの覇気はどうした!?減らず口、塩対応、悪い意味での強かさ、利かん坊、図々しい態度は何処に捨て置いた!?」
「そ、そんな怒鳴ることないじゃないすかぁ…」
悪口に言い返しもしない顔本相談窓口係は、人々の目にこの上なく愚図な女として映る。熱に浮かされていた青年はそれを誰よりも近くで目の当たりにした。
「えーっと、まあ、ね?へへ…まずはあのお友達から…」
「なんか、顔本さんらしくない」
「え」
流れが真逆へと変わり、治りかけの手は呆気なく解放された。
「そういう、うろたえる姿……見たくなかったな」
静まり返った1階フロアは、彼の次の発言をじっと待ち続けた。
「済みません。今の、全部忘れてください。じゃ」
「……」
「……」
みんなして彼の背中を無言で見送った。話を聞いていた全員、しばらく次の言葉が出てこなかった。
顔本の手元や背後の壁、そして黒岩の腕時計で、短針と長針が綺麗に、そして静かに重なる。
「告られて……振られた……」
「……休憩時間だ」
黒岩は署長室へ戻るためカウンターに背を向ける。
「……ぷっ」
振り向いた時には、顔本は大口を開けて今の出来事を笑い飛ばしていた。
「なんだぁ!?なんだ今の!?ヤバいウケる~!速攻でひとつの恋終わらせちゃったよだっははははは!」
一応傷付いたであろう本人がこんな態度なのだから、気を使う必要の無くなった周囲も安心して笑い出す。
「儚過ぎるーっ、ひーっお腹痛いーっ」
「安静第一だ顔本。あと、気を落とすな」
「んえ?何がっすか?ああ~、大丈夫ですよ。今お腹痛いけど心は全然余裕なんで!」
「どうだ調子は」
「見ての通り、ぼちぼちですよ。固定ファンで成り立ってる感は否めないけど」
「お前の体調のことだ」
「はーい次。こんちは~」
警察署長そっちのけで顔本相談窓口係は昼休憩前最後に訪れた民間人へ笑顔を向ける。
「今日も来てくれたんだ、なんか握手会みたいじゃない?なーんて」
「あ、あの!」
顔馴染みの一般男性は顔本がカウンターに突いていた手を握り、自身の顔の前まで引き寄せた。
「好きです!」
「!?」
突如放たれた告白。黒岩含め、このフロア中の人間は絶句せざるを得ない。
「いつもみんなのために一生懸命で!うちの親は態度悪くて気に入らないとか言ってたけど、そこも含めて貴女の魅力だと僕は思ってます!」
冗談ではぐらかすか事務的に突き返すか。部下が次に取る行動はその辺りだろうと黒岩は高を括っていた。だが、
「えっ、えぇ~…こまっ、困ったなぁ~。急に……ねぇ?」
顔本はカウンター外の黒岩へ第三者の意見を促した。助けを求める割には顔が緩みきっているが。
「急とか関係無いです!こんな状況だからこそ、悔いが残らないよう生きたいんだ!」
「あ~、それは賛成かな」
「わかってくれますか!?」
彼の両手に力がうんと込められ、顔本は顔をしかめた。包まれている手首はほぼ治っているが、単純に成人男性の握力は強過ぎる。振り払うことも叶わない。
「わ…わかるけど、その…」
「嬉しいなぁ、気持ちが通じ合ったっていうか…!」
「そ、そりゃ何より…」
「幸せです!」
「ご相談内容は簡潔にお願い致します」
横から背の高い渋谷警察署長が割り込み、男の手をいとも簡単に解いた。
だが顔本は再度手を握られる。
「付き合ってください!!」
更に畳み掛け追い出すつもりで取った最初の行動が、結果的には着火に繋がってしまった。
「つ…!?」
「僕は本気です!」
通りすがりの警官までもが固唾を飲んでこの恋の結末を見守る。
「う、うう~……ど、どうしよ署長~」
「……当人同士の問題だ」
外野、しかも男によるこれ以上の介入は十中八九場をこじらせる。腕を組んだ黒岩は目を瞑り沈黙を選んだ。
「僕の目を見てください、今は僕と話してるんでしょ?」
「え、ええ~?」
「これは僕と貴女の重要な話なんだ」
「そんなこと言われても~!」
「……顔本さん…?」
無用なトラブルを避け冷静沈着な態度を貫いていた黒岩だったが、顔本の情けない声でとうとう痺れを切らす。
「全く、いつもの覇気はどうした!?減らず口、塩対応、悪い意味での強かさ、利かん坊、図々しい態度は何処に捨て置いた!?」
「そ、そんな怒鳴ることないじゃないすかぁ…」
悪口に言い返しもしない顔本相談窓口係は、人々の目にこの上なく愚図な女として映る。熱に浮かされていた青年はそれを誰よりも近くで目の当たりにした。
「えーっと、まあ、ね?へへ…まずはあのお友達から…」
「なんか、顔本さんらしくない」
「え」
流れが真逆へと変わり、治りかけの手は呆気なく解放された。
「そういう、うろたえる姿……見たくなかったな」
静まり返った1階フロアは、彼の次の発言をじっと待ち続けた。
「済みません。今の、全部忘れてください。じゃ」
「……」
「……」
みんなして彼の背中を無言で見送った。話を聞いていた全員、しばらく次の言葉が出てこなかった。
顔本の手元や背後の壁、そして黒岩の腕時計で、短針と長針が綺麗に、そして静かに重なる。
「告られて……振られた……」
「……休憩時間だ」
黒岩は署長室へ戻るためカウンターに背を向ける。
「……ぷっ」
振り向いた時には、顔本は大口を開けて今の出来事を笑い飛ばしていた。
「なんだぁ!?なんだ今の!?ヤバいウケる~!速攻でひとつの恋終わらせちゃったよだっははははは!」
一応傷付いたであろう本人がこんな態度なのだから、気を使う必要の無くなった周囲も安心して笑い出す。
「儚過ぎるーっ、ひーっお腹痛いーっ」
「安静第一だ顔本。あと、気を落とすな」
「んえ?何がっすか?ああ~、大丈夫ですよ。今お腹痛いけど心は全然余裕なんで!」