Case③b 大人達と子供
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次の日。
3体のストリングパペットと泉海巡査長の運転する警察署専用車は本日の任務を無事終え、この世界で唯一2388年ではない街へ帰還中。
「3人ともお疲れ様。明日は慶作くんと、愛鈴ちゃんも訓練してみる?」
「はーい」
「えっ?わ、私はその、戦闘とか…まだ…」
『……』
通信越しに聞いている大介・ガイ・ルウにも、愛鈴の動揺した様子が手に取るように伝わった。
「私達は5人居て、パペットは3つしかないから、その…私は別に、後回しというか、その…」
「マリマリ……」
「な、なんて言っちゃ、無責任だよねっ、私。ごめんなさい…」
心配そうに見つめる慶作の視線を跳ね除けるように彼女は声を張るが、案の定またしぼんでいってしまった。
微妙になってしまったこの空気を、大介の無神経な発言が吹き飛ばす。
『まっ、俺は明日も必ず乗るから、残りは実質2つだけどな!』
『バカか』
『数の問題じゃないっつーの』
『はあ?んだよその言い方。ガイもルウも今日成績良かったからって調子乗ってんじゃねーぞ!?パペットの操縦は俺が先輩なんだからな!』
「大介くん静かに!」
運転手は萎縮しまくっている女の子をバックミラー越しに見やる。
「うーん、そうね……だったら愛鈴ちゃんはまず、普段から迅速な対応を心掛けていくってのも良いかもね。S.D.S.メンバーとして!」
「じ、迅速な…?」
「何もシビリアンと戦うだけがS.D.S.の役割じゃないと思うわ。たとえば緊急時に避難ゆ」
『えー?戦ってこそヒーローでしょ泉海さん?』
『大介っ』
彼が放つ気ままな意見は愛鈴にとって救いの手にもなるし、精神的に追い詰める一手ともなる。今互いに生身だったなら小突いてやるのに、とルウは思い切り大介を睨み付けた。
住民達の視線を浴びながらS.D.S.メンバーと連絡係の泉海は渋谷警察署に到着し、平らに舗装されたアスファルトに各々が降り立った。
「愛鈴ちゃん」
「はっはい!」
「迅速に、とは言ったけど、そんなに気負わなくても大丈夫。まずは頭の片隅に入れておくだけでも良いからね」
『こちら顔本。泉海さん、良いっすか?』
「こちら泉海。ええ、今署に着いたところよ。どうしたの?」
泉海巡査長は無線機を手に取り、署内で活動させている部下の呼び掛けに応える。
『警察署裏の自販機に居るんだけど、助けてください…ガチで体ヤバイ…』
「え!?」
『実はその…』
「すぐ行くわ!」
泉海は無線を切り、心配そうに立ち止まっている子供達にウインクしてみせた。
「ね、慣れてくればこんな風に即決断!即行動!みんなは先に戻って休んでて」
「俺も行く!」
「ダメです。しかるべき時に備えて鋭気を養うのもS.D.S.の立派な仕事よ」
頼れる婦警さんは大介達を置いて颯爽と駆け出していった。
「ちぇっ」
「聞かなくて良かったのかな?顔本さんの状況とか」
「さあ?」
数秒後の泉海巡査長の目には、自販機の下に腕を突っ込んだ四つん這いの顔本が小さな子供に見守られている光景が映っていた。
「……これは、どういうこと…?」
「あっ泉海さん!?こっち!こっち側来て見てここ!」
部下は頭をうんと背け、わずかな隙間に肩まで入り込ませている。こちらに顔を向けることが出来ない程に。
「体がヤバイって、怪我のことじゃなかったの!?」
「それよかコレ抜けなくなっちゃったんで引っ張ってくださ~い!」
「もう~次から次へと貴女って人は……ふんー!」
抜け出す手応えはあったが、彼女の体はほんの少し動いただけでまたつっかえてしまった。
「あらっ、あら?どうして…今抜けたのに…」
「そこー!奥ー!服が引っ掛かってるよ!」
側に居た女の子が自販機の横から覗いて応戦してくれている。泉海も同じ隙間から確認した。
「これなら、ジャケット脱がせれば顔本さん本体は抜けられるわね!」
「残念なお知らせが。包帯も引っ掛かってる」
「ええっ?」
手に巻いた包帯が障害になっている箇所は横からでは死角になっていて、顔本本人の感覚でしか気付けなかった。
奥まで届くような細長く曲がったハサミなんかがあれば解決するが、そう都合の良い道具はすぐ用意できるものではない。
「これは私だけじゃ無理だわ。というより、やり方を変えなきゃ…」
屈んでいた泉海は一旦立ち上がり空を仰ぐ。
「そもそも、どうして手なんか突っ込んじゃったんですか?」
「あのねお巡りさん、私が呼んだの」
頭を大して動かせない顔本の代わりに、ずっと側に居る女児が口を開く。
「あのね、ここにね、私のキーホルダーが入っちゃってね、私じゃ届かなくて、多分お父さんの腕太いから無理で、だからこの人に取ってもらったの」
その小さな手は、チェーンが切れたアクリルキーホルダーをしっかりと握り締めていた。原因はこれか。誰も責めることが出来ない案件だと知り泉海は目尻を下げ小さくため息を吐いた。
「そ!ギリギリ届いた中指でお宝を弾き出したって寸法よ。私の手首のスナップ見た?我ながらナイスコントロールだったなぁ、うん」
「あんまり見えなかったよ。影が暗いもん」
「そりゃそっか。あっはっはっは」
「あはは!」
女の子はともかく、貴女は笑っている場合ではないのでは。地味に窮地に立たされているというのに何とも呑気な会話だ。
泉海は無線を手に取り、男性警官数人に応援を要請しようとした。
「それでね、うちのお父さん呼ぼうとしたんだけどね、この人がダメだって」
「ダメ?どうしてですか?」
警官でなくとも成人男性に協力を仰げばすぐ抜け出せていただろう。自販機を退かしてもらうことだって選択肢に追加できる。
「とにかく、応援呼びますからね。本件は男手が無いとどうにもできませんから」
「その前に泉海さんのジャケット貸してください」
「?」
泉海巡査長は言われるままに上着を脱ぎ、上半身は白いシャツに紺色ネクタイのスタイルへ変わった。
「良いですけど、これをどうするんですか?」
「お尻カバーして?」
顔本は強制的に高く突き出してしまっている腰をフリフリさせた。
素肌よりやや濃い色のストッキングを纏った両脚が膝上スカートから無遠慮に覗き、見る者の角度に依ればその付け根箇所までもが丸見えだ。素肌とはまた違う質感の薄い膜が下着をカバーしてはいるが、このような一見ガードの堅い状態を敢えて好む性癖も存在する。
「……確かに、呼べませんね」
きょとんとする女の子に見守られながら、泉海により女豹の下半身は無事隠された。
「ダメなのー?タイツしてるのに?」
「そーダメなの。ちなみにこれストッキングっていうんだよ。あぁ~人通り無くて助かったぁ~、セーッフ!」
まだ問題解決とは程遠い絵面だが、顔本は目下の懸念が解消し一安心。彼女の体が大事に至っておらず、泉海はちょっとした意地悪を言うまでに余裕を取り戻した。
「顔本さんにも一応あるんですね。羞恥心とか、慎みとか」
「牟田ちゃんに叱られっぱなしは癪なんでね」
「むたちゃん?」
可愛らしい響き且つ聞き慣れない単語は女の子の首をかしげさせた。
「牟田区長でしょ。あ、今は牟田総理だったわね。良い子はこの人の言うこと真似しちゃダメですよ」
「はーい」
「ちぇっ」
3体のストリングパペットと泉海巡査長の運転する警察署専用車は本日の任務を無事終え、この世界で唯一2388年ではない街へ帰還中。
「3人ともお疲れ様。明日は慶作くんと、愛鈴ちゃんも訓練してみる?」
「はーい」
「えっ?わ、私はその、戦闘とか…まだ…」
『……』
通信越しに聞いている大介・ガイ・ルウにも、愛鈴の動揺した様子が手に取るように伝わった。
「私達は5人居て、パペットは3つしかないから、その…私は別に、後回しというか、その…」
「マリマリ……」
「な、なんて言っちゃ、無責任だよねっ、私。ごめんなさい…」
心配そうに見つめる慶作の視線を跳ね除けるように彼女は声を張るが、案の定またしぼんでいってしまった。
微妙になってしまったこの空気を、大介の無神経な発言が吹き飛ばす。
『まっ、俺は明日も必ず乗るから、残りは実質2つだけどな!』
『バカか』
『数の問題じゃないっつーの』
『はあ?んだよその言い方。ガイもルウも今日成績良かったからって調子乗ってんじゃねーぞ!?パペットの操縦は俺が先輩なんだからな!』
「大介くん静かに!」
運転手は萎縮しまくっている女の子をバックミラー越しに見やる。
「うーん、そうね……だったら愛鈴ちゃんはまず、普段から迅速な対応を心掛けていくってのも良いかもね。S.D.S.メンバーとして!」
「じ、迅速な…?」
「何もシビリアンと戦うだけがS.D.S.の役割じゃないと思うわ。たとえば緊急時に避難ゆ」
『えー?戦ってこそヒーローでしょ泉海さん?』
『大介っ』
彼が放つ気ままな意見は愛鈴にとって救いの手にもなるし、精神的に追い詰める一手ともなる。今互いに生身だったなら小突いてやるのに、とルウは思い切り大介を睨み付けた。
住民達の視線を浴びながらS.D.S.メンバーと連絡係の泉海は渋谷警察署に到着し、平らに舗装されたアスファルトに各々が降り立った。
「愛鈴ちゃん」
「はっはい!」
「迅速に、とは言ったけど、そんなに気負わなくても大丈夫。まずは頭の片隅に入れておくだけでも良いからね」
『こちら顔本。泉海さん、良いっすか?』
「こちら泉海。ええ、今署に着いたところよ。どうしたの?」
泉海巡査長は無線機を手に取り、署内で活動させている部下の呼び掛けに応える。
『警察署裏の自販機に居るんだけど、助けてください…ガチで体ヤバイ…』
「え!?」
『実はその…』
「すぐ行くわ!」
泉海は無線を切り、心配そうに立ち止まっている子供達にウインクしてみせた。
「ね、慣れてくればこんな風に即決断!即行動!みんなは先に戻って休んでて」
「俺も行く!」
「ダメです。しかるべき時に備えて鋭気を養うのもS.D.S.の立派な仕事よ」
頼れる婦警さんは大介達を置いて颯爽と駆け出していった。
「ちぇっ」
「聞かなくて良かったのかな?顔本さんの状況とか」
「さあ?」
数秒後の泉海巡査長の目には、自販機の下に腕を突っ込んだ四つん這いの顔本が小さな子供に見守られている光景が映っていた。
「……これは、どういうこと…?」
「あっ泉海さん!?こっち!こっち側来て見てここ!」
部下は頭をうんと背け、わずかな隙間に肩まで入り込ませている。こちらに顔を向けることが出来ない程に。
「体がヤバイって、怪我のことじゃなかったの!?」
「それよかコレ抜けなくなっちゃったんで引っ張ってくださ~い!」
「もう~次から次へと貴女って人は……ふんー!」
抜け出す手応えはあったが、彼女の体はほんの少し動いただけでまたつっかえてしまった。
「あらっ、あら?どうして…今抜けたのに…」
「そこー!奥ー!服が引っ掛かってるよ!」
側に居た女の子が自販機の横から覗いて応戦してくれている。泉海も同じ隙間から確認した。
「これなら、ジャケット脱がせれば顔本さん本体は抜けられるわね!」
「残念なお知らせが。包帯も引っ掛かってる」
「ええっ?」
手に巻いた包帯が障害になっている箇所は横からでは死角になっていて、顔本本人の感覚でしか気付けなかった。
奥まで届くような細長く曲がったハサミなんかがあれば解決するが、そう都合の良い道具はすぐ用意できるものではない。
「これは私だけじゃ無理だわ。というより、やり方を変えなきゃ…」
屈んでいた泉海は一旦立ち上がり空を仰ぐ。
「そもそも、どうして手なんか突っ込んじゃったんですか?」
「あのねお巡りさん、私が呼んだの」
頭を大して動かせない顔本の代わりに、ずっと側に居る女児が口を開く。
「あのね、ここにね、私のキーホルダーが入っちゃってね、私じゃ届かなくて、多分お父さんの腕太いから無理で、だからこの人に取ってもらったの」
その小さな手は、チェーンが切れたアクリルキーホルダーをしっかりと握り締めていた。原因はこれか。誰も責めることが出来ない案件だと知り泉海は目尻を下げ小さくため息を吐いた。
「そ!ギリギリ届いた中指でお宝を弾き出したって寸法よ。私の手首のスナップ見た?我ながらナイスコントロールだったなぁ、うん」
「あんまり見えなかったよ。影が暗いもん」
「そりゃそっか。あっはっはっは」
「あはは!」
女の子はともかく、貴女は笑っている場合ではないのでは。地味に窮地に立たされているというのに何とも呑気な会話だ。
泉海は無線を手に取り、男性警官数人に応援を要請しようとした。
「それでね、うちのお父さん呼ぼうとしたんだけどね、この人がダメだって」
「ダメ?どうしてですか?」
警官でなくとも成人男性に協力を仰げばすぐ抜け出せていただろう。自販機を退かしてもらうことだって選択肢に追加できる。
「とにかく、応援呼びますからね。本件は男手が無いとどうにもできませんから」
「その前に泉海さんのジャケット貸してください」
「?」
泉海巡査長は言われるままに上着を脱ぎ、上半身は白いシャツに紺色ネクタイのスタイルへ変わった。
「良いですけど、これをどうするんですか?」
「お尻カバーして?」
顔本は強制的に高く突き出してしまっている腰をフリフリさせた。
素肌よりやや濃い色のストッキングを纏った両脚が膝上スカートから無遠慮に覗き、見る者の角度に依ればその付け根箇所までもが丸見えだ。素肌とはまた違う質感の薄い膜が下着をカバーしてはいるが、このような一見ガードの堅い状態を敢えて好む性癖も存在する。
「……確かに、呼べませんね」
きょとんとする女の子に見守られながら、泉海により女豹の下半身は無事隠された。
「ダメなのー?タイツしてるのに?」
「そーダメなの。ちなみにこれストッキングっていうんだよ。あぁ~人通り無くて助かったぁ~、セーッフ!」
まだ問題解決とは程遠い絵面だが、顔本は目下の懸念が解消し一安心。彼女の体が大事に至っておらず、泉海はちょっとした意地悪を言うまでに余裕を取り戻した。
「顔本さんにも一応あるんですね。羞恥心とか、慎みとか」
「牟田ちゃんに叱られっぱなしは癪なんでね」
「むたちゃん?」
可愛らしい響き且つ聞き慣れない単語は女の子の首をかしげさせた。
「牟田区長でしょ。あ、今は牟田総理だったわね。良い子はこの人の言うこと真似しちゃダメですよ」
「はーい」
「ちぇっ」