Case③b 大人達と子供
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
顔本は背後から飛んでくる言いつけを守らず、いつもの持ち場へ向かう。心と共に体も大分軽やかだ。明日からは松葉杖を持参する必要は無さそうかも。
警官達は相談窓口係のスキップを見てやや驚き足を止め、続いて巡査長を見て状況をなんとなく理解する。
いつものことかと皆に見逃された顔本は、重い足取りで階段を降りてきた男性陣の前も勢いよく横切った。
「む?ちょっとちょっと!そこの貴女、止まりなさい」
「はーい、こんちはっ」
くるっと振り向いてみせると、見慣れない青ジャージを着た集団がけげんそうな顔で視線を送ってきていた。先頭の一番小柄な男性が腰の後ろで手を組んだまま話し始める。
「貴女ですね?渋谷警察署で自らの体に鞭打ち相談窓口の受付係をかって出ている、顔本さんっていう方は」
「まあ、はい。何か悩み事?おじいちゃん」
「おっ…!?」
気持ち駆け足に抑えて部下を追いかけていた泉海は慌てて全速力へと切り替えた。
「私今超絶気分良いから、ここでお話聞いたげちゃうよ?」
「顔本さんっ!たたっ大変失礼を!牟田区長!」
「ぐわっ」
追い付くや否や、泉海は記入ボードを押し付けた頭と共に一段と深くお辞儀をした。
「そ・う・り!ですぞ。人様の役職名を疎かにしなさんな、巡査長さん」
「へ?」
顔本は頭を上げ、相手の顔を改めて確認する。
「総理は安倍ちゃんじゃなかったっけ?」
自称総理の後ろで、同じく青ジャージを着た眼鏡の男性が口を開く。
「こちら、渋谷区災害対策本部を設立され、現渋谷臨時政府総理であられる、牟田誠一郎総理大臣です」
当人はウンウンと満足そうに腕を組んで何度も頷いた。
「おお、実質トップ2!」
「ツーとは何だねっ、私こそがこの渋谷のナンバーワンだ!」
「ごめんなさいごめんなさい、今後ともよろしくです総理大臣。んで、何か私にご用でしたか?」
この女性は廊下を結構な速度で走っていたことをもう忘れてしまったのか、それともマナーを守る気をはなから持ち合わせていないのか。
「えー、淑女にこういったことを申し上げるのは説教をするようで気が引けますがね、貴女は今や渋谷警察署の窓口係以上に、渋谷臨時政府の顔でもあるのですから、今のような態度や言動、それに廊下をあのように走る行為は如何なものかと」
痛いところを突かれ、顔本はウッと小さく呻き口を結ぶ。斜め後ろに立つ泉海も、全く別の意味でだが同じく表情を我慢した。
「貴女が勝手やヘマをしたら、そこの泉海巡査長や黒岩警察署長の責任になるんですよ。総理の私にまで飛び火する可能性だって無きにしもあらず、ですからね。そんなこと私は勘弁ですよ」
「……」
「子供じゃないんですから、あまりはしゃがず、貞淑に、品行方正に、お願いします」
「……へい」
「返事はハイでしょう!?」
「はぁい!」
子供は気を付けの姿勢で天井へ向けてがなり上げた。これだけ苦言してもまだどこか反発的な返事に、牟田は大袈裟に耳を押さえた。
「やれやれ。全く今時の若いのは…って言われてしまうそもそもの原因を、よおく考えておくように」
牟田はあえて穏やかな口調で締めくくった。
彼は泉海が常日頃から溜め込んでいたことの代弁どころかそれ以上の釘を刺してくれた。部下を引き連れ、決して走らずに署を出て行く。
「……顔本さんっ」
巡査長は口角がつり上がらぬよう必死で耐えながら、へちゃむくれた猫そっくりの顔へ優しく声をかける。
「わかってます……正しいからなんも言い返せねえです」
天敵が見えなくなった廊下の奥をまだ睨み続けている。反省しているんだかしていないんだか。
「こればっかりは、牟田総理大臣に賛同する」
一部始終を実は聞いていた黒岩による追撃のせいで、とうとう泉海の限界は突破された。
警官達は相談窓口係のスキップを見てやや驚き足を止め、続いて巡査長を見て状況をなんとなく理解する。
いつものことかと皆に見逃された顔本は、重い足取りで階段を降りてきた男性陣の前も勢いよく横切った。
「む?ちょっとちょっと!そこの貴女、止まりなさい」
「はーい、こんちはっ」
くるっと振り向いてみせると、見慣れない青ジャージを着た集団がけげんそうな顔で視線を送ってきていた。先頭の一番小柄な男性が腰の後ろで手を組んだまま話し始める。
「貴女ですね?渋谷警察署で自らの体に鞭打ち相談窓口の受付係をかって出ている、顔本さんっていう方は」
「まあ、はい。何か悩み事?おじいちゃん」
「おっ…!?」
気持ち駆け足に抑えて部下を追いかけていた泉海は慌てて全速力へと切り替えた。
「私今超絶気分良いから、ここでお話聞いたげちゃうよ?」
「顔本さんっ!たたっ大変失礼を!牟田区長!」
「ぐわっ」
追い付くや否や、泉海は記入ボードを押し付けた頭と共に一段と深くお辞儀をした。
「そ・う・り!ですぞ。人様の役職名を疎かにしなさんな、巡査長さん」
「へ?」
顔本は頭を上げ、相手の顔を改めて確認する。
「総理は安倍ちゃんじゃなかったっけ?」
自称総理の後ろで、同じく青ジャージを着た眼鏡の男性が口を開く。
「こちら、渋谷区災害対策本部を設立され、現渋谷臨時政府総理であられる、牟田誠一郎総理大臣です」
当人はウンウンと満足そうに腕を組んで何度も頷いた。
「おお、実質トップ2!」
「ツーとは何だねっ、私こそがこの渋谷のナンバーワンだ!」
「ごめんなさいごめんなさい、今後ともよろしくです総理大臣。んで、何か私にご用でしたか?」
この女性は廊下を結構な速度で走っていたことをもう忘れてしまったのか、それともマナーを守る気をはなから持ち合わせていないのか。
「えー、淑女にこういったことを申し上げるのは説教をするようで気が引けますがね、貴女は今や渋谷警察署の窓口係以上に、渋谷臨時政府の顔でもあるのですから、今のような態度や言動、それに廊下をあのように走る行為は如何なものかと」
痛いところを突かれ、顔本はウッと小さく呻き口を結ぶ。斜め後ろに立つ泉海も、全く別の意味でだが同じく表情を我慢した。
「貴女が勝手やヘマをしたら、そこの泉海巡査長や黒岩警察署長の責任になるんですよ。総理の私にまで飛び火する可能性だって無きにしもあらず、ですからね。そんなこと私は勘弁ですよ」
「……」
「子供じゃないんですから、あまりはしゃがず、貞淑に、品行方正に、お願いします」
「……へい」
「返事はハイでしょう!?」
「はぁい!」
子供は気を付けの姿勢で天井へ向けてがなり上げた。これだけ苦言してもまだどこか反発的な返事に、牟田は大袈裟に耳を押さえた。
「やれやれ。全く今時の若いのは…って言われてしまうそもそもの原因を、よおく考えておくように」
牟田はあえて穏やかな口調で締めくくった。
彼は泉海が常日頃から溜め込んでいたことの代弁どころかそれ以上の釘を刺してくれた。部下を引き連れ、決して走らずに署を出て行く。
「……顔本さんっ」
巡査長は口角がつり上がらぬよう必死で耐えながら、へちゃむくれた猫そっくりの顔へ優しく声をかける。
「わかってます……正しいからなんも言い返せねえです」
天敵が見えなくなった廊下の奥をまだ睨み続けている。反省しているんだかしていないんだか。
「こればっかりは、牟田総理大臣に賛同する」
一部始終を実は聞いていた黒岩による追撃のせいで、とうとう泉海の限界は突破された。