Case③b 大人達と子供
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次の日。顔本はまたもやカウンターを離れていた。同フロア内ならまだしも、今回は近所の広間まで足を伸ばしている。
小さな子供達に囲まれ、最終局面に差し掛かったオセロ盤に夢中だ。
「私が注意してる段階で戻った方が良いですよ」
「へいへい」
口先はいくら従順でも、利き手は泉海巡査長に構わず石数個を白い面へパタパタと返していく。
「返事はハイでしょ?」
「はーい」
「もうっ」
この部下、聞く耳を全く持たない。しかもゲームをさっさと切り上げる素振りすら見せない。
「さっきっからズルイよー。さっさと角取れよー」
「次ここ!ゼッテーここ置いて!」
対戦相手とそのバックについている遊び仲間も半分嫌気が差しているようだ。
「今置いても私に全然旨味無いじゃん。溜めて焦らして泳がせて、最後にガバーッとかっさらうのがオセロの鉄則よ」
「全然手加減してくんない…」
「それでも大人かよ!?」
「手加減無しでって言われたから初志貫徹してるだけでーす」
「お巡りさーん、この人ズルいー!」
実は私が見込んだ優秀な後輩なの、とはとてもじゃないが紹介できなかった。泉海は顔本関連で何度目になるかわからないため息を吐く。
「こっち置けば勝てるんじゃね?」
「そしたら次ここ置かれて取られるって!だから…」
「あ、こっちのが……作戦覗いてんじゃねーよ!タイム!」
婦警さんの苦労を余所に、子供達は全員が一致団結し楽しそうに肩を寄せ合っている。
「わかります泉海さん?私を邪魔するってことは、せっかく出来上がってきているこのチームワークを崩すってことですよ」
「あのねえ、そんな屁理屈言ったって……あっ」
「強大な敵にみんなで立ち向かおうって時に、お巡りさんがそんな野暮なこと…」
「遅かったか」
「えっ」
泉海は固く目を閉じ、手の平で顔本の視界の外を指し示す。
「そんなっ!泉海さん助けて!」
「顔本!何度言わせれば気が済む!?」
「ひぃっ」
今や息ぴったりの子供達。オセロ盤を畳む役に残りの石を持つ役、他の遊び道具を運ぶ役等、即座に分担しあっという間に散っていった。
「俺も泉海も、お前に付きっきりではいられない身なんだ!」
逃げ遅れた顔本は叱られ始めてしまえば後は意外と冷静で、とある共通点に気付いていた。
毎度目前で大声を出されはするが、引っ張られたり叩かれたりという強引な手は今まで一切使われていない。
「聞いているのか!?」
「……」
顔本は自由が利く方の腕を突き出し、黒岩のヘソ辺りに手の平をそっと押し当てる。
「……聞いているのか?」
「署長って、ご自分から私に触れてこないですよね」
叱られ中というのにケロッとした表情で言ってのけた。反面、泉海は顔本の奇行をハラハラしながら見守っている。再び落雷の気配が強まる。
「かといって触られたくない訳でもないようですが。セクハラ冤罪を危惧してらっしゃる?」
「怪我人の首根っこを掴む訳にはいかないだろう」
「ああなるほどそういう気遣い~」
「だが」
そこまで言うのならこちらも手段を選ばない、と黒岩は女性の両膝を片方の腕でガバッとすくい上げた。
「!?」
下向きにした顔本を、彼は丸太を持つようにして両腕で抱える。
「実力行使だ」
行く先は渋谷警察署1階カウンター。本来居るべき仕事場まで丸太女は軽々と運ばれていく。ひと安心した泉海がその後をついて行く。
「程遠い…お姫様抱っこ……」
患部への接触を極力避けた最善の持ち運ばれ方は、逆に乙女心を傷つけた。
「何言ってるの。処罰が無いだけ有り難いと思いなさい」
「程遠い…」
「背中が治ればいくらでもしてやる」
「意地悪」
顔本は取って付けたような笑顔で返す。自己診断しかしていないが、医療機関がままならない環境下での完治はまずあり得ないだろう。
小さな子供達に囲まれ、最終局面に差し掛かったオセロ盤に夢中だ。
「私が注意してる段階で戻った方が良いですよ」
「へいへい」
口先はいくら従順でも、利き手は泉海巡査長に構わず石数個を白い面へパタパタと返していく。
「返事はハイでしょ?」
「はーい」
「もうっ」
この部下、聞く耳を全く持たない。しかもゲームをさっさと切り上げる素振りすら見せない。
「さっきっからズルイよー。さっさと角取れよー」
「次ここ!ゼッテーここ置いて!」
対戦相手とそのバックについている遊び仲間も半分嫌気が差しているようだ。
「今置いても私に全然旨味無いじゃん。溜めて焦らして泳がせて、最後にガバーッとかっさらうのがオセロの鉄則よ」
「全然手加減してくんない…」
「それでも大人かよ!?」
「手加減無しでって言われたから初志貫徹してるだけでーす」
「お巡りさーん、この人ズルいー!」
実は私が見込んだ優秀な後輩なの、とはとてもじゃないが紹介できなかった。泉海は顔本関連で何度目になるかわからないため息を吐く。
「こっち置けば勝てるんじゃね?」
「そしたら次ここ置かれて取られるって!だから…」
「あ、こっちのが……作戦覗いてんじゃねーよ!タイム!」
婦警さんの苦労を余所に、子供達は全員が一致団結し楽しそうに肩を寄せ合っている。
「わかります泉海さん?私を邪魔するってことは、せっかく出来上がってきているこのチームワークを崩すってことですよ」
「あのねえ、そんな屁理屈言ったって……あっ」
「強大な敵にみんなで立ち向かおうって時に、お巡りさんがそんな野暮なこと…」
「遅かったか」
「えっ」
泉海は固く目を閉じ、手の平で顔本の視界の外を指し示す。
「そんなっ!泉海さん助けて!」
「顔本!何度言わせれば気が済む!?」
「ひぃっ」
今や息ぴったりの子供達。オセロ盤を畳む役に残りの石を持つ役、他の遊び道具を運ぶ役等、即座に分担しあっという間に散っていった。
「俺も泉海も、お前に付きっきりではいられない身なんだ!」
逃げ遅れた顔本は叱られ始めてしまえば後は意外と冷静で、とある共通点に気付いていた。
毎度目前で大声を出されはするが、引っ張られたり叩かれたりという強引な手は今まで一切使われていない。
「聞いているのか!?」
「……」
顔本は自由が利く方の腕を突き出し、黒岩のヘソ辺りに手の平をそっと押し当てる。
「……聞いているのか?」
「署長って、ご自分から私に触れてこないですよね」
叱られ中というのにケロッとした表情で言ってのけた。反面、泉海は顔本の奇行をハラハラしながら見守っている。再び落雷の気配が強まる。
「かといって触られたくない訳でもないようですが。セクハラ冤罪を危惧してらっしゃる?」
「怪我人の首根っこを掴む訳にはいかないだろう」
「ああなるほどそういう気遣い~」
「だが」
そこまで言うのならこちらも手段を選ばない、と黒岩は女性の両膝を片方の腕でガバッとすくい上げた。
「!?」
下向きにした顔本を、彼は丸太を持つようにして両腕で抱える。
「実力行使だ」
行く先は渋谷警察署1階カウンター。本来居るべき仕事場まで丸太女は軽々と運ばれていく。ひと安心した泉海がその後をついて行く。
「程遠い…お姫様抱っこ……」
患部への接触を極力避けた最善の持ち運ばれ方は、逆に乙女心を傷つけた。
「何言ってるの。処罰が無いだけ有り難いと思いなさい」
「程遠い…」
「背中が治ればいくらでもしてやる」
「意地悪」
顔本は取って付けたような笑顔で返す。自己診断しかしていないが、医療機関がままならない環境下での完治はまずあり得ないだろう。