Case③a 相談係兼任
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
顔本はようやく不動の黒岩に向けて弁解を始める。
「私が潔白なの、全部聞こえてましたよね?開けっぱなしでしたから」
「この場合はむしろ閉鎖的空間の方が問題だった」
「じゃあ開けてて正解?」
反省の色がまるでうかがえない。黒岩の沸点到達の時はもうすぐそこまで迫っているというのに。
「戸締まりも契約に追加する。顔本、お前の個室は公共の建物内にあることを常に自覚しろ」
「まあまあ黒岩さん、俺達仲良くお喋りしてただけですよ?」
「甘い。火の無い所に煙は立たん」
あのような猥談、いつ誰の耳に入ってしまうかわかったものではない。自然と語尾が強まっていく。
「慶作は未成年、顔本は怪我人だ。2人とも気を引き締めるように」
「承知しましたっ」
「ん?」
素直に敬礼を決める慶作とは対照的に、顔本は不思議そうに自分を指差した。
「怪我人だから何だってんですか?」
「……」
「……」
「どう見たって今のは、未成年に手を出しかけた年増女の犯行未遂現場でしょうが」
「やー…その…ね?」
未成年は言い辛そうではあるがフォローを懸命に搾り出し始めた。
「あれっすよ。女性って、ただでさえ男と比べて腕っぷしに差があるから、もし心無い輩に迫られたら抵抗が……っていう話題であってますよね?」
慶作が視線で助け船を求めると、黒岩は目を閉じながら軽く頷いた。
「慶作の意図するところがわかるか?顔本」
「はーい、自覚してまーす。でもご心配には及びません、殿方」
顔本はただでは不貞腐れない。小型の折り畳み式ナイフを、前を閉じていないジャケットの内ポケットから取り出した。
「知ってます?女って、アタシ男性より非力だから武器使って何してもイイデショって考えちゃう、コワーイ生き物なんですよ」
没収と言い渡されるよりも先にナイフの柄を差し出した。黒岩署長は山程ある言いたいことを飲み込み、それを黙って受け取る。
「もしかして勝手に持ち出したんですか?その時点で十分コワーイんですけど」
「あーあ、懐刀無くなっちゃったー」
慶作からの指摘も無視した顔本だが、次の一言によって、のらりくらりしていた態度は豹変する。
「所持していたところでお前には刺せん」
「……はあ?」
およそ上司に向ける目付きや声色、笑い飛ばし方ではない。
「ハッ、それどういう…」
「ちょっ、顔本さんトゲトゲツンツンしすぎだって!大介化してるって!」
「いざって時に悪人刺す度胸が無いって言いたいんすか?この私に?いいや出来るね!」
「まんま大介だよ顔本さ~んっ」
慶作必死のディフェンスも虚しく、顔本は黒岩へ楯突き続ける。黒岩は黒岩で全く動じない。
「刺せんし、刺させない。その為に我々警察が居るんだ」
「えっ……」
その言葉を皮切りに、顔本の顔から一瞬で毒気が抜けた。
「あ……ああ…そう…」
今の今までの鋭い眼光が嘘のようだ。その表情は言うなれば、無の境地。
「安静第一だ、良いな」
最後にそう告げると、一貫して事務的だった黒岩警察署長は部屋を後にした。
「……」
顔本の脳内では黒岩の発した言葉が繰り返されていた。
お前には人を刺すことは出来ないし、そんなことはさせない。その為に我々警察が存在している。
一般人には手を汚させたりはしない。それに、手を汚す度胸がそもそも不要な社会を維持し平和を守り続けるという使命を、彼を始めとした警察官達は背負っている。
自身の器の小ささと大きな背中が見せた頼もしさとの高低差は多大なものだった。それを正面から食らい、顔本の頭はしばし混乱していた。
「……あれ…?」
徐々にうるさくなってきた心臓付近に手を当てる。押さえつけて治めるどころか熱い鼓動を自覚してしまい、更に加速していく。
「……はは」
顔本は小さく自嘲した。胸元をぎゅっと掴み座ったまま屈み込む。
「えっ、怪我ヤバイですか!?」
身体的な患いを慶作に心配されるが、あいにく今日は調子が良い方だ。
「や、そういうんじゃないよ…」
「……ああ~」
勘の鋭い青年は、顔本の一連の言動を全て理解してやり口角を上げた。
「じゃあハートがヤバイ?」
「そんっそんなんじゃ、ないもん……そういうのガラじゃないし、私なんかが……違うし」
「素直になったらどうですか~?」
汗だくの顔を覗き込まれまいとより一層屈み、前髪が膝に垂れる。
周りをうろうろする気配。完全に面白がられている。
「帰れよもう……嫌いだ慶作くんなんか…」
子供っぽく強がる顔本をこれ以上からかうのは止め、慶作は優しく助言してやる。
「誰かに言ったりしないんで、どうぞ好きでいてください」
「……もうからかわないなら許す」
「俺のことじゃないですよ」
「はぁ?じゃあ誰の……はあっ!?」
何かの勝負という訳でもないが、ここまで楽勝だと手応え無しを通り越して最早哀れに思えてきた。
「お、お前なあっ……お前なあー!!」
「失礼しまーす」
慶作は静かに扉を閉め、顔本にひとりでゆっくり整理する時間を与えてやった。
「私が潔白なの、全部聞こえてましたよね?開けっぱなしでしたから」
「この場合はむしろ閉鎖的空間の方が問題だった」
「じゃあ開けてて正解?」
反省の色がまるでうかがえない。黒岩の沸点到達の時はもうすぐそこまで迫っているというのに。
「戸締まりも契約に追加する。顔本、お前の個室は公共の建物内にあることを常に自覚しろ」
「まあまあ黒岩さん、俺達仲良くお喋りしてただけですよ?」
「甘い。火の無い所に煙は立たん」
あのような猥談、いつ誰の耳に入ってしまうかわかったものではない。自然と語尾が強まっていく。
「慶作は未成年、顔本は怪我人だ。2人とも気を引き締めるように」
「承知しましたっ」
「ん?」
素直に敬礼を決める慶作とは対照的に、顔本は不思議そうに自分を指差した。
「怪我人だから何だってんですか?」
「……」
「……」
「どう見たって今のは、未成年に手を出しかけた年増女の犯行未遂現場でしょうが」
「やー…その…ね?」
未成年は言い辛そうではあるがフォローを懸命に搾り出し始めた。
「あれっすよ。女性って、ただでさえ男と比べて腕っぷしに差があるから、もし心無い輩に迫られたら抵抗が……っていう話題であってますよね?」
慶作が視線で助け船を求めると、黒岩は目を閉じながら軽く頷いた。
「慶作の意図するところがわかるか?顔本」
「はーい、自覚してまーす。でもご心配には及びません、殿方」
顔本はただでは不貞腐れない。小型の折り畳み式ナイフを、前を閉じていないジャケットの内ポケットから取り出した。
「知ってます?女って、アタシ男性より非力だから武器使って何してもイイデショって考えちゃう、コワーイ生き物なんですよ」
没収と言い渡されるよりも先にナイフの柄を差し出した。黒岩署長は山程ある言いたいことを飲み込み、それを黙って受け取る。
「もしかして勝手に持ち出したんですか?その時点で十分コワーイんですけど」
「あーあ、懐刀無くなっちゃったー」
慶作からの指摘も無視した顔本だが、次の一言によって、のらりくらりしていた態度は豹変する。
「所持していたところでお前には刺せん」
「……はあ?」
およそ上司に向ける目付きや声色、笑い飛ばし方ではない。
「ハッ、それどういう…」
「ちょっ、顔本さんトゲトゲツンツンしすぎだって!大介化してるって!」
「いざって時に悪人刺す度胸が無いって言いたいんすか?この私に?いいや出来るね!」
「まんま大介だよ顔本さ~んっ」
慶作必死のディフェンスも虚しく、顔本は黒岩へ楯突き続ける。黒岩は黒岩で全く動じない。
「刺せんし、刺させない。その為に我々警察が居るんだ」
「えっ……」
その言葉を皮切りに、顔本の顔から一瞬で毒気が抜けた。
「あ……ああ…そう…」
今の今までの鋭い眼光が嘘のようだ。その表情は言うなれば、無の境地。
「安静第一だ、良いな」
最後にそう告げると、一貫して事務的だった黒岩警察署長は部屋を後にした。
「……」
顔本の脳内では黒岩の発した言葉が繰り返されていた。
お前には人を刺すことは出来ないし、そんなことはさせない。その為に我々警察が存在している。
一般人には手を汚させたりはしない。それに、手を汚す度胸がそもそも不要な社会を維持し平和を守り続けるという使命を、彼を始めとした警察官達は背負っている。
自身の器の小ささと大きな背中が見せた頼もしさとの高低差は多大なものだった。それを正面から食らい、顔本の頭はしばし混乱していた。
「……あれ…?」
徐々にうるさくなってきた心臓付近に手を当てる。押さえつけて治めるどころか熱い鼓動を自覚してしまい、更に加速していく。
「……はは」
顔本は小さく自嘲した。胸元をぎゅっと掴み座ったまま屈み込む。
「えっ、怪我ヤバイですか!?」
身体的な患いを慶作に心配されるが、あいにく今日は調子が良い方だ。
「や、そういうんじゃないよ…」
「……ああ~」
勘の鋭い青年は、顔本の一連の言動を全て理解してやり口角を上げた。
「じゃあハートがヤバイ?」
「そんっそんなんじゃ、ないもん……そういうのガラじゃないし、私なんかが……違うし」
「素直になったらどうですか~?」
汗だくの顔を覗き込まれまいとより一層屈み、前髪が膝に垂れる。
周りをうろうろする気配。完全に面白がられている。
「帰れよもう……嫌いだ慶作くんなんか…」
子供っぽく強がる顔本をこれ以上からかうのは止め、慶作は優しく助言してやる。
「誰かに言ったりしないんで、どうぞ好きでいてください」
「……もうからかわないなら許す」
「俺のことじゃないですよ」
「はぁ?じゃあ誰の……はあっ!?」
何かの勝負という訳でもないが、ここまで楽勝だと手応え無しを通り越して最早哀れに思えてきた。
「お、お前なあっ……お前なあー!!」
「失礼しまーす」
慶作は静かに扉を閉め、顔本にひとりでゆっくり整理する時間を与えてやった。