Case③a 相談係兼任
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「こんちは。ああ、ドア開けっぱなしにしといてくれる?閉じとくと大介くんが乱暴に開けやがるから」
「はーい」
浅野慶作は内開きの扉を最大限まで開き、数歩だけ部屋の中へ入って来た。
「大介くん捜し?」
「それも兼ねて、遊びに来ちゃいました。マリマリのレビューなら信頼できそうかなーっと思いまして」
「へ?はぁ、そう……あっ!」
何かが図星だったのか、急に強く握られた割り箸が折れてベッドの足元にパラパラと落ちる。
「まさかあの嬢ちゃん余計なこと…!」
「さぁ~?それはどうだか。腕の包帯もう乾きました?」
男子学生は半笑いで目を泳がせた。
「まあ構わん。次は慶作くんが言いふらさなきゃ良いだけだし」
「おっとここでまさかのプレッシャー」
「フンだ」
顔本は座ったまま足元へ手を伸ばし、使い物にならなくなった木片をゴミ箱へ、空の弁当箱は蓋をして枕元のテーブルに置いた。
「良かったら返却してきましょうか?それ」
「あーこれね、別に良いよ。浅野さんが…慶作くんのお母さんが、今日の内に取りに来てくれるんだ」
災害に見舞われた渋谷にて、慶作の母浅野良枝は積極的に炊き出し等のボランティアに参加している。更には、体の不自由な(筈の)顔本の部屋へ毎回食事を運びに訪れ、食後は空のケースをわざわざ引き取りに来てくれる。
「本当助かってるよ浅野さんには。文字通りご馳走様です」
「むしろ迷惑かけてません?ご飯持ってきてもらえる代わりに長話に付き合わされるとか。うちの母ちゃん超お喋りでしょー?」
「……」
たわいのない会話開始のつもりが、相手からの返しが無く成り立たなかった。女性は握った手を口元に当て、スッキリした表情で見つめてくる。
「え?えーっと…?」
「いやぁー、今時の男の子は己の反抗期をうま~くコントロールできるもんだなぁと思いまして」
「えぇ?」
「かと言ってマザコンでもなさそうだし」
「ちょ、何っすか急に?俺オンリーの品評会始まっちゃってる?」
品定めされている男子は腰を落としうろたえたが、その苦笑いや返す言葉にはまだまだ余裕が伺える。
「からかってないよ?感心してるの。お母さん大事にしてるんだなーって」
「まあ、ウチ母ちゃんと2人だけだし。なるべく苦労させたくないってのはあります」
「凄いなぁそのお歳で。慶作くんはなんか、究極に手が懸からなそう。それでも浅野さんがお見通しなとこも多分どこかあって、2人で支え合って……うん、偉いなぁ」
「顔本さーん、戻って来ーい。本人目の前にして堂々と妄想大会ですかー?」
「凄いよ、うんうん。偉いなぁ」
誉めて見返りを期待どうこうというつもりは毛頭無い。勝手に浮かべた温かな団らんの光景をしみじみと噛み締め、勝手に自己完結していた。
「精神年齢からして違うっていうか……本当偉いなぁ」
顔本がしつこく感動しているのは、普段からよく接している高校生男子との比較が要因だろう。あくまで無意識下でだが。ちなみに堂嶋大介は弁当箱の片付けを気にかけてくれたことは一度も無い。
「浅野慶作くんは偉い、ね。だったらご褒美欲しいなー?」
放っておかれていた当の本人は顔本の前でパイプ椅子を反対向きにして跨ぐように座り、身を乗り出してくる。
「はい?」
「普段頑張ってる健気なお利口さん男子に」
「……ふーん?」
首をかしげてみせる慶作の要求に、まずは含みのある笑みで顔本は返事をした。ミニスカートの婦警はそっぽを向いたままサイドテーブルに肘を突き、脚を組み直すついでに足の甲で相手のすねを数回さする。
「おおっ」
「んん~む、ご褒美ねえ…」
何かの勝負という訳でもないが、エスカレートしていきそうな雰囲気にただただ呑まれてたまるかの精神の下、慶作は負けじとふざける。
「母親以外の女性からってのがポイント!」
「ほお」
互いに目を細め、2人きりの悪巧みでもするように顔を寄せ合った。
「真面目な泉海お姉さんじゃないのもポイント?」
「そこはご想像にお任せします」
発言する度に互いの距離が縮まっていく。
「具体的には?言ってくれなきゃお姉さんわかんない」
「お利口男子に言わせちゃうの?」
「ねぇ早くイッてイッて~?」
「ちょ、その言い方完全にアウトでしょ、も~……んー、そ~だな~あ、例えばぁー…」
慶作は余裕の表情をなんとか崩さずに、安全かつ美味しい条件や妙案はないかと考えあぐねていた。
一方、開放された出入口で仁王立ちする人物と目が合った顔本は、素早くのけ反って背筋をピンと伸ばした。
「浅野さんの肩叩きだねっ!!」
「えっ?ここで母ちゃん!?」
お色気ゼロの提案に、慶作は肘を突いていた背もたれから思わずガクッとずれ落ちた。
「間接的な親孝行。どうだ、私は潔白です」
顔本は腕を組み、何故か偉そうにふんぞり返る。最近年下男子からされた言いつけを思い出し、膝は閉じた。
「ちょいちょいちょーい、さっきまでのムード台無しなんですけどー?何?お預け?寸止め?放置プレイ?」
「その羅列止めて。エッチぃやつはちょっと勘弁…いいいいや100%勘弁ですとも!」
「今さっきアウトな猫撫で声出してた癖にー」
「とにかくもう絶対しません!!はいっバリアー!」
目の前の女性は頭の前でガードまでし始めた。態度が急変し取り付く島もない。
身を引いた慶作は目を逸らしてゆっくり後ろ首を掻く。
「ハハハ、参ったなぁ。そこまで露骨に拒否られるとは…」
「あっ……」
この子は変わらずヘラヘラしているが、いたずらに傷付けてしまった感触大だ。顔本は防御を解いた。
「嫌なら嫌ってハッキリ言ってくれれば良いのに。顔本さん演技派ですね~?」
「いやいや、別に悪い気は全然しないんだよ?」
顔本は自分のしてしまったことをなんとか取り返さねばと焦りまくる。
「気を落とす必要は無いからね、全然。本当、全然」
「無理しないでくださいよー、逆に傷付きますからー」
わざとらしく拗ねてみれば、年上女性は面白い程にうろたえてくれる。気が強いようで実のところ小心者だったりするのだろうか。
「慶作くん良い子だしユーモアあるし、えっとあとなかなかイケメンだしスタイル良いし、彼氏にも旦那さんにもし他意は無いです!」
「へぇ~、マジっすか?」
語尾が若干おかしいが、誉め言葉は素直に受け取るに限る。慶作は照れ臭そうに、先程とは違う理由で自分のうなじを掻いた。
「顔本さんぶっちゃけてくれたし俺も正直に言うけど、割とその気になってたんすよー?ほっぺにチュ」
「それ以上はいけない!!私が言いたいのはぁ~、えーっとねぇ~…」
「……なんかさっきから情緒不安定、な……」
引きつり倒している彼女の視線を辿って振り向き、慶作もまた硬直させられる。
顔本はずっと、慶作の肩越しに渋谷警察署長から睨まれていた。
「あなたまだ学生。オーケー?」
「あぁ~、諸々オーケー」
「……」
黒岩が何も言わずとも、2人はもう顔を寄せ合うなんてお遊びは一切しなくなった。
「はーい」
浅野慶作は内開きの扉を最大限まで開き、数歩だけ部屋の中へ入って来た。
「大介くん捜し?」
「それも兼ねて、遊びに来ちゃいました。マリマリのレビューなら信頼できそうかなーっと思いまして」
「へ?はぁ、そう……あっ!」
何かが図星だったのか、急に強く握られた割り箸が折れてベッドの足元にパラパラと落ちる。
「まさかあの嬢ちゃん余計なこと…!」
「さぁ~?それはどうだか。腕の包帯もう乾きました?」
男子学生は半笑いで目を泳がせた。
「まあ構わん。次は慶作くんが言いふらさなきゃ良いだけだし」
「おっとここでまさかのプレッシャー」
「フンだ」
顔本は座ったまま足元へ手を伸ばし、使い物にならなくなった木片をゴミ箱へ、空の弁当箱は蓋をして枕元のテーブルに置いた。
「良かったら返却してきましょうか?それ」
「あーこれね、別に良いよ。浅野さんが…慶作くんのお母さんが、今日の内に取りに来てくれるんだ」
災害に見舞われた渋谷にて、慶作の母浅野良枝は積極的に炊き出し等のボランティアに参加している。更には、体の不自由な(筈の)顔本の部屋へ毎回食事を運びに訪れ、食後は空のケースをわざわざ引き取りに来てくれる。
「本当助かってるよ浅野さんには。文字通りご馳走様です」
「むしろ迷惑かけてません?ご飯持ってきてもらえる代わりに長話に付き合わされるとか。うちの母ちゃん超お喋りでしょー?」
「……」
たわいのない会話開始のつもりが、相手からの返しが無く成り立たなかった。女性は握った手を口元に当て、スッキリした表情で見つめてくる。
「え?えーっと…?」
「いやぁー、今時の男の子は己の反抗期をうま~くコントロールできるもんだなぁと思いまして」
「えぇ?」
「かと言ってマザコンでもなさそうだし」
「ちょ、何っすか急に?俺オンリーの品評会始まっちゃってる?」
品定めされている男子は腰を落としうろたえたが、その苦笑いや返す言葉にはまだまだ余裕が伺える。
「からかってないよ?感心してるの。お母さん大事にしてるんだなーって」
「まあ、ウチ母ちゃんと2人だけだし。なるべく苦労させたくないってのはあります」
「凄いなぁそのお歳で。慶作くんはなんか、究極に手が懸からなそう。それでも浅野さんがお見通しなとこも多分どこかあって、2人で支え合って……うん、偉いなぁ」
「顔本さーん、戻って来ーい。本人目の前にして堂々と妄想大会ですかー?」
「凄いよ、うんうん。偉いなぁ」
誉めて見返りを期待どうこうというつもりは毛頭無い。勝手に浮かべた温かな団らんの光景をしみじみと噛み締め、勝手に自己完結していた。
「精神年齢からして違うっていうか……本当偉いなぁ」
顔本がしつこく感動しているのは、普段からよく接している高校生男子との比較が要因だろう。あくまで無意識下でだが。ちなみに堂嶋大介は弁当箱の片付けを気にかけてくれたことは一度も無い。
「浅野慶作くんは偉い、ね。だったらご褒美欲しいなー?」
放っておかれていた当の本人は顔本の前でパイプ椅子を反対向きにして跨ぐように座り、身を乗り出してくる。
「はい?」
「普段頑張ってる健気なお利口さん男子に」
「……ふーん?」
首をかしげてみせる慶作の要求に、まずは含みのある笑みで顔本は返事をした。ミニスカートの婦警はそっぽを向いたままサイドテーブルに肘を突き、脚を組み直すついでに足の甲で相手のすねを数回さする。
「おおっ」
「んん~む、ご褒美ねえ…」
何かの勝負という訳でもないが、エスカレートしていきそうな雰囲気にただただ呑まれてたまるかの精神の下、慶作は負けじとふざける。
「母親以外の女性からってのがポイント!」
「ほお」
互いに目を細め、2人きりの悪巧みでもするように顔を寄せ合った。
「真面目な泉海お姉さんじゃないのもポイント?」
「そこはご想像にお任せします」
発言する度に互いの距離が縮まっていく。
「具体的には?言ってくれなきゃお姉さんわかんない」
「お利口男子に言わせちゃうの?」
「ねぇ早くイッてイッて~?」
「ちょ、その言い方完全にアウトでしょ、も~……んー、そ~だな~あ、例えばぁー…」
慶作は余裕の表情をなんとか崩さずに、安全かつ美味しい条件や妙案はないかと考えあぐねていた。
一方、開放された出入口で仁王立ちする人物と目が合った顔本は、素早くのけ反って背筋をピンと伸ばした。
「浅野さんの肩叩きだねっ!!」
「えっ?ここで母ちゃん!?」
お色気ゼロの提案に、慶作は肘を突いていた背もたれから思わずガクッとずれ落ちた。
「間接的な親孝行。どうだ、私は潔白です」
顔本は腕を組み、何故か偉そうにふんぞり返る。最近年下男子からされた言いつけを思い出し、膝は閉じた。
「ちょいちょいちょーい、さっきまでのムード台無しなんですけどー?何?お預け?寸止め?放置プレイ?」
「その羅列止めて。エッチぃやつはちょっと勘弁…いいいいや100%勘弁ですとも!」
「今さっきアウトな猫撫で声出してた癖にー」
「とにかくもう絶対しません!!はいっバリアー!」
目の前の女性は頭の前でガードまでし始めた。態度が急変し取り付く島もない。
身を引いた慶作は目を逸らしてゆっくり後ろ首を掻く。
「ハハハ、参ったなぁ。そこまで露骨に拒否られるとは…」
「あっ……」
この子は変わらずヘラヘラしているが、いたずらに傷付けてしまった感触大だ。顔本は防御を解いた。
「嫌なら嫌ってハッキリ言ってくれれば良いのに。顔本さん演技派ですね~?」
「いやいや、別に悪い気は全然しないんだよ?」
顔本は自分のしてしまったことをなんとか取り返さねばと焦りまくる。
「気を落とす必要は無いからね、全然。本当、全然」
「無理しないでくださいよー、逆に傷付きますからー」
わざとらしく拗ねてみれば、年上女性は面白い程にうろたえてくれる。気が強いようで実のところ小心者だったりするのだろうか。
「慶作くん良い子だしユーモアあるし、えっとあとなかなかイケメンだしスタイル良いし、彼氏にも旦那さんにもし他意は無いです!」
「へぇ~、マジっすか?」
語尾が若干おかしいが、誉め言葉は素直に受け取るに限る。慶作は照れ臭そうに、先程とは違う理由で自分のうなじを掻いた。
「顔本さんぶっちゃけてくれたし俺も正直に言うけど、割とその気になってたんすよー?ほっぺにチュ」
「それ以上はいけない!!私が言いたいのはぁ~、えーっとねぇ~…」
「……なんかさっきから情緒不安定、な……」
引きつり倒している彼女の視線を辿って振り向き、慶作もまた硬直させられる。
顔本はずっと、慶作の肩越しに渋谷警察署長から睨まれていた。
「あなたまだ学生。オーケー?」
「あぁ~、諸々オーケー」
「……」
黒岩が何も言わずとも、2人はもう顔を寄せ合うなんてお遊びは一切しなくなった。