Case③a 相談係兼任
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愛鈴は薄暗い廊下から明るいフロアへと踏み出す手前で歩みを止めた。
「大介は、あの人と仲良いよね」
控え目に開いた口からポツリと切り出した話題は、彼が先程まで入り浸っていた部屋の持ち主について。
「すごいね…」
「すごいとかすごくないとかあるか?」
少し遅れて立ち止まっていた大介は数秒前も今も、余計なことは全く意識せずに発言している。
「すごいよ、大介は。私は……ちょっと話しかけ辛いかな…」
こういった考え方は非常に心苦しくはあるが、悪く言い表せばあの女性は攻撃的な人だ。
初めて会った時から感じてしまっている、どうしようもない程の距離。その原因は生まれ持ったペースの差なのか、育った環境が形成させた考え方の違いなのか。
「そうかな?S.D.S.の任務とかパペットの話したらすっげー喜ぶよ顔本さん。この戦闘用スーツにも興味津々だったし。マリマリのそれもじっくり見せてやれば?」
「い、いいよ私は。スーツの形みんなお揃いだし」
2人は警察署の正面口から外に出て、渋谷の街と未来の世界との境界へ向かおうとしていた。
「あれ?ねえ大介、あそこの人…どうしたんだろ…」
学業や勤労といった主な用事が一切中断されたこの街では、目的無しにうろつきエネルギーを浪費する住民はほぼ居ない。だが愛鈴の目に留まった女性は、そわそわと近場を行ったり来たり。警察署を見上げ、かと思えばがくっと肩を落とす。
「どうしたんですか!?」
「あっ…!」
「何かお困りなら、この俺が解決しますよ!」
この幼馴染み、悩み事の詳細を聞く前から断言する自信だけは尊敬に値する。それと行動力。うじうじ悩む自分にも少し分けてほしいくらいだと愛鈴は内心羨んだ。
「……実は私、助けられたんです。あそこで…警察署で相談係やってる人に」
「顔本さんに?」
「渋谷の周りが急にあんなことになって、恐ろしい化け物が……でも、あの人が」
そこらに転がっていた石を使ってシビリアンの気を引き、他の者が逃げる時間を稼いでいたそう。
「へー、俺が助ける前にそんなことが」
「……」
愛鈴は目の前の人の話をじっと聞き続けた。
たしか自分も渋谷転送当日、屋上で同じようなことをしていた。あの時は後先考えずに、体が勝手に動いていた。今思えば、普段の自分ではあり得ない行動だった。
「だからお礼言いたいんだけど、なんか今更言いに行くの、どうしようかと思ってて」
「ええ?行けば良いじゃないですか」
「で、でも……あの人のお陰で助かったけど、あの時私腰抜けちゃってたから言われた通りに逃げられなかったの。全然軽いけど怪我もしちゃって」
悩める彼女の足首にはテーピングが施されている。自在に歩けている様子から、患部については心配無さそうだ。
「それ知らせて、微妙な気持ちにさせちゃったらって思うと……それにいつの間にか一躍有名になっちゃったし、私なんかが今更会いに行っても…」
「ふーん。じゃあ俺が代わりに伝えときますよ」
「え…?」
2人の女性は大介の提案に固まる。
「だ、大介…」
「い、いいわよ、悪いし…」
「俺普段からよく会ってるんで、ついでってことで!」
ヒーロー気取りはちょっとした伝言を強引かつ明るく引き受けた。
彼にとっては軽い内容だとしても、本人にとっては人生を左右する程の重要事項だった。女性は何度も頭を下げてから居住地へそそくさと帰っていった。
「あんな悩まなくったって良いのになー。言いに行きたきゃ行けば済むのに」
「……大介」
歩き出した友を愛鈴は再び呼び止めた。
「今の話、あの人に……顔本さんに伝えるの、私にさせてもらえるかな?」
声こそ震えてしまったが、更には胸の前で握り締めた手に汗が滲んだが、しっかり前を見据えて言い切ることができた。
「ああ。別に良いけど」
「大介は先にみんなの所に行ってて!」
恐らく今までの自分だったら、こうも即決し、きびすを返すことは無かっただろう。気が付いたら体があの部屋へ向かっていた。
「え?今から!?」
「まだ時間に結構余裕あるし、すぐ追い付くからっ」
駆け足で署に戻って行く幼馴染みの背中を、大介は別段何も感じずに見送る。
「はぁ……なんだ急に。まあ良いや」
しばらくして、彼は任務真っ最中の現場へ1人で合流した。
「あら、交代の時間ぴったりね」
「大介にしちゃあ随分早かったじゃんっ」
ストリングパペットに搭乗し渋谷の外に目を向けている男子2人よりも、泉海とルウが先に振り向いた。
「こいつは時間通りに行動しただけだ、当然のルールだろ」
「やっぱマリマリに早めに行ってもらって正解……あれ?マリマリは?」
「お待たせ~!」
もう1人の仲間は息を切らしながら追い付いた。
彼女は疲れも何のそので、るんるんと左右に小さく揺れている。
「……なんかご機嫌じゃない?」
「どした?」
浮き足立った女の子は、いつにも増して緩んだアヒル口で皆に微笑みかける。
「ふふふ、あのねっ大介、大丈夫だったよ私」
「?」
「でね、それでねっ、こーんなにして腕でグシグシしてね、もう大号……あ」
絶対誰にも言うなと念を押してきていた泣き顔を思い出す。
「何?何の話だよ?」
顔を雑に拭うお姉さんには鋭さの欠片も無かったせいか、愛鈴は刺された釘のことをすっかり忘れていた。
「なんでもないよっ、なんでも!」
「はぁ…?」
「大介は、あの人と仲良いよね」
控え目に開いた口からポツリと切り出した話題は、彼が先程まで入り浸っていた部屋の持ち主について。
「すごいね…」
「すごいとかすごくないとかあるか?」
少し遅れて立ち止まっていた大介は数秒前も今も、余計なことは全く意識せずに発言している。
「すごいよ、大介は。私は……ちょっと話しかけ辛いかな…」
こういった考え方は非常に心苦しくはあるが、悪く言い表せばあの女性は攻撃的な人だ。
初めて会った時から感じてしまっている、どうしようもない程の距離。その原因は生まれ持ったペースの差なのか、育った環境が形成させた考え方の違いなのか。
「そうかな?S.D.S.の任務とかパペットの話したらすっげー喜ぶよ顔本さん。この戦闘用スーツにも興味津々だったし。マリマリのそれもじっくり見せてやれば?」
「い、いいよ私は。スーツの形みんなお揃いだし」
2人は警察署の正面口から外に出て、渋谷の街と未来の世界との境界へ向かおうとしていた。
「あれ?ねえ大介、あそこの人…どうしたんだろ…」
学業や勤労といった主な用事が一切中断されたこの街では、目的無しにうろつきエネルギーを浪費する住民はほぼ居ない。だが愛鈴の目に留まった女性は、そわそわと近場を行ったり来たり。警察署を見上げ、かと思えばがくっと肩を落とす。
「どうしたんですか!?」
「あっ…!」
「何かお困りなら、この俺が解決しますよ!」
この幼馴染み、悩み事の詳細を聞く前から断言する自信だけは尊敬に値する。それと行動力。うじうじ悩む自分にも少し分けてほしいくらいだと愛鈴は内心羨んだ。
「……実は私、助けられたんです。あそこで…警察署で相談係やってる人に」
「顔本さんに?」
「渋谷の周りが急にあんなことになって、恐ろしい化け物が……でも、あの人が」
そこらに転がっていた石を使ってシビリアンの気を引き、他の者が逃げる時間を稼いでいたそう。
「へー、俺が助ける前にそんなことが」
「……」
愛鈴は目の前の人の話をじっと聞き続けた。
たしか自分も渋谷転送当日、屋上で同じようなことをしていた。あの時は後先考えずに、体が勝手に動いていた。今思えば、普段の自分ではあり得ない行動だった。
「だからお礼言いたいんだけど、なんか今更言いに行くの、どうしようかと思ってて」
「ええ?行けば良いじゃないですか」
「で、でも……あの人のお陰で助かったけど、あの時私腰抜けちゃってたから言われた通りに逃げられなかったの。全然軽いけど怪我もしちゃって」
悩める彼女の足首にはテーピングが施されている。自在に歩けている様子から、患部については心配無さそうだ。
「それ知らせて、微妙な気持ちにさせちゃったらって思うと……それにいつの間にか一躍有名になっちゃったし、私なんかが今更会いに行っても…」
「ふーん。じゃあ俺が代わりに伝えときますよ」
「え…?」
2人の女性は大介の提案に固まる。
「だ、大介…」
「い、いいわよ、悪いし…」
「俺普段からよく会ってるんで、ついでってことで!」
ヒーロー気取りはちょっとした伝言を強引かつ明るく引き受けた。
彼にとっては軽い内容だとしても、本人にとっては人生を左右する程の重要事項だった。女性は何度も頭を下げてから居住地へそそくさと帰っていった。
「あんな悩まなくったって良いのになー。言いに行きたきゃ行けば済むのに」
「……大介」
歩き出した友を愛鈴は再び呼び止めた。
「今の話、あの人に……顔本さんに伝えるの、私にさせてもらえるかな?」
声こそ震えてしまったが、更には胸の前で握り締めた手に汗が滲んだが、しっかり前を見据えて言い切ることができた。
「ああ。別に良いけど」
「大介は先にみんなの所に行ってて!」
恐らく今までの自分だったら、こうも即決し、きびすを返すことは無かっただろう。気が付いたら体があの部屋へ向かっていた。
「え?今から!?」
「まだ時間に結構余裕あるし、すぐ追い付くからっ」
駆け足で署に戻って行く幼馴染みの背中を、大介は別段何も感じずに見送る。
「はぁ……なんだ急に。まあ良いや」
しばらくして、彼は任務真っ最中の現場へ1人で合流した。
「あら、交代の時間ぴったりね」
「大介にしちゃあ随分早かったじゃんっ」
ストリングパペットに搭乗し渋谷の外に目を向けている男子2人よりも、泉海とルウが先に振り向いた。
「こいつは時間通りに行動しただけだ、当然のルールだろ」
「やっぱマリマリに早めに行ってもらって正解……あれ?マリマリは?」
「お待たせ~!」
もう1人の仲間は息を切らしながら追い付いた。
彼女は疲れも何のそので、るんるんと左右に小さく揺れている。
「……なんかご機嫌じゃない?」
「どした?」
浮き足立った女の子は、いつにも増して緩んだアヒル口で皆に微笑みかける。
「ふふふ、あのねっ大介、大丈夫だったよ私」
「?」
「でね、それでねっ、こーんなにして腕でグシグシしてね、もう大号……あ」
絶対誰にも言うなと念を押してきていた泣き顔を思い出す。
「何?何の話だよ?」
顔を雑に拭うお姉さんには鋭さの欠片も無かったせいか、愛鈴は刺された釘のことをすっかり忘れていた。
「なんでもないよっ、なんでも!」
「はぁ…?」