Case② はじめまして
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黒岩署長は相手が大きな饅頭になっても一切構わず話題を切り変える。
「そうか。ならば見舞いは日を改めさせるか?」
「お見舞い?」
布団からちらりと顔を出すと、学生数人が体の大きな黒岩の影からこちらを覗いていた。
「やっぱりだ!ほら俺が助けた人だよ!俺のこと覚えてます!?」
面識の無い男子の声が寝起きの頭にガンガン響く。耳を守るためにくるまったままでいたい気持ちを抑え、掛け布団を脇へ寄せた。
「こんなに怪我させておいて助けた内に入るのか?」
「チッまたかよ。ガイ、俺のやり方にケチつけないと気が」
「まあまあまあまあ2人共~」
「私達お見舞いに来たんでしょー?」
「し、静かにしようよ~…」
仲の良い子達だなぁと顔本は微笑ましい光景を呑気に眺める。場を締めるべく黒岩が咳払いし、5人は同時に黙った。姿勢を正したのは4人程。
「彼らは渋谷・ディフェンス・サービス、通称S.D.S.のメンバーだ。リヴィジョンズから渋谷を護る防衛部隊であり、渋谷警察署の指揮下にある」
「へーっ、まだお若いのにまぁ…!」
「泉海巡査長が彼らとの連絡係を務めている……で、こちら、署内で相談窓口係をしている…」
“署内で”が大いに強調されたが、当人は気にせず子供達へ笑顔を向け敬礼した。
「寝台から失礼!どうも、顔本です。このルックスで受付嬢やってますっ」
冗談をかますと、髪が短い方の女子がちょこっと吹き出した。
「あ、ごめんなさい。やっぱ面白い人だなって」
「やっぱ?」
「顔本さんがさっきオジサン達叱ってたの、実は私達も見てて。なんか生徒を叱る先生みたいでおかしいよねって、みんなで話してたんです」
「ルウ」
同じ髪色をした青年が制するように口を挟んだが、先程喧嘩の仲裁に入ったツリ目男子はあえて話題を続ける。
「そうそう。松葉杖じゃなくて竹刀振り回してるみたいだよなって。今時の女性なのに古き善き時代の頑固先生って感じで、なんかジワジワきちゃって。すみませ~ん」
一応の謝罪で締め括られた後、全員から簡単な自己紹介をされた。5人共それぞれタイプが異なり、すぐに覚えられそうだ。
「お互い泉海さんの部下って感じだから、んー、部署の違う同期ってとこかな?これからよろしくね」
「あ、あのっ、大丈夫なんですか?その、まだちゃんと病院とか…」
最後に名乗った子が勇気を振り絞ったように切り出した。他の子供からも包帯や三角巾に視線が集まる。
「働いてて、大丈夫なのかなって…」
彼らの心配を拭い去るべく、年上女性は満面の笑みを自身に改めて貼り付けた。
「うんっ、平気平気!心配してくれてありがと。優しいんだね、まりんちゃん」
「へぇっ!?あ、ぁ、うぅ…」
赤縁眼鏡の女の子は返事ともとれない声を出したきり、メンバーの影に引っ込んでしまった。
「それでも、無理は禁物なんですよね?」
平気平気と言いつつも、包帯・三角巾・松葉杖の3セット備わった人間が倒れたばかりなのだ。ガイと名乗った男の子の言うことは正しい。
さほど空気を変えることができず、顔本は若干の焦りを感じた。
「確かに怪我はヤバイけど、何か頑張りたい気分っていうか、むしろ逆に清々しくて」
自分の手の平に巻かれた包帯を見つめる。
朝は綺麗でも夕方までその白色は続かない。汗やら埃やらで端から汚れていき、決まってめくれ上がる。だがこれが、精力的に活動している証拠だ。
「この怪我も、あの時あの場所に居て化け物…シビリアンだっけ?に襲われたことも、全部ぜーんぶ引っくるめて、自分の運命なのかなって……あれ?」
なるべくポジティブな言い回しを選んだつもりだったが、ただ1人を除いて微妙な顔にさせてしまった。今の発言の中に気に障る単語でもあっただろうか。
「わかる!わかります!その考え方!」
空気の読めなさそうな、というか実際読めていない故にはしゃいでいる男の子だけが目をキラキラさせ、また鼓膜に優しくない大声を放つ。
「ああ、こいつのことはマリマリって呼んでやってください。それより!俺のこと覚えてます?殺される寸前のところを俺が華麗に斬り倒したんだけど、見」
「ちょっと大介、言い方あるでしょ!」
「へ?」
「……」
顔本本人は大介の言葉選びが不謹慎かは大して気に留めず、質問された通り、当時の記憶を思い起こす方に集中していた。
最後に見たのは化け物の仮面のような顔。思わず体を震わすが、安全が確保された今となっては恐怖よりも反省の方が大きい。
あの絶望的な状況から自分がどうやって救助されたのか、誰に救助されたのか、その肝心な部分をあろうことか全く気にしていなかった。
「助けてくれてありがとう。お礼言うの遅くなってごめん。君が居なかったらあの時確実に死んでいた。命の恩人だね」
「ほら見ろ!」
大介は自身の正しさを証明した気でいるが、ガイは微塵も動揺せずむしろ呆れ返った。
「あまり甘やかすようなことは言わないでください。こいつすぐ調子乗るので」
「良いじゃんちょっとくらい。実際凄いんだから」
「ですよね!俺の活躍を認める人だって居るんだよ!」
「大介くん達がどうやって戦ってるのかも興味あるし」
「それじゃあっ、今俺」
「それはまた今度お願いね」
目を一層輝かせ乗り出そうとした子供の襟首をS.D.S.連絡係の泉海が掴んだ。
「時間がある時に存分にどうぞ。黒岩さん、みんな。そろそろ本部へ…」
黒岩署長も部屋の掛け時計に目をやる。
「そうだな。邪魔をしたな、顔本相談窓口係」
「顔本で良いっすよ、長いんで。みんないってらっしゃい、頑張って~」
狭い部屋に収まっていた客人達はぞろぞろと出ていき、顔本が携わることのない仕事へ向かう。一気に元の静かな個室に戻っていき多少の寂しさを覚えるが、笑顔を崩さず皆をベッドから見送る。
「ねえ、大介くん」
顔本は自分にとってのキーマンへ改めて呼び掛ける。部屋を最後に出るところだった無邪気なヒーローはすぐに振り向いた。
「私の次は、渋谷の人達を守ってね」
「勿論!」
「そうか。ならば見舞いは日を改めさせるか?」
「お見舞い?」
布団からちらりと顔を出すと、学生数人が体の大きな黒岩の影からこちらを覗いていた。
「やっぱりだ!ほら俺が助けた人だよ!俺のこと覚えてます!?」
面識の無い男子の声が寝起きの頭にガンガン響く。耳を守るためにくるまったままでいたい気持ちを抑え、掛け布団を脇へ寄せた。
「こんなに怪我させておいて助けた内に入るのか?」
「チッまたかよ。ガイ、俺のやり方にケチつけないと気が」
「まあまあまあまあ2人共~」
「私達お見舞いに来たんでしょー?」
「し、静かにしようよ~…」
仲の良い子達だなぁと顔本は微笑ましい光景を呑気に眺める。場を締めるべく黒岩が咳払いし、5人は同時に黙った。姿勢を正したのは4人程。
「彼らは渋谷・ディフェンス・サービス、通称S.D.S.のメンバーだ。リヴィジョンズから渋谷を護る防衛部隊であり、渋谷警察署の指揮下にある」
「へーっ、まだお若いのにまぁ…!」
「泉海巡査長が彼らとの連絡係を務めている……で、こちら、署内で相談窓口係をしている…」
“署内で”が大いに強調されたが、当人は気にせず子供達へ笑顔を向け敬礼した。
「寝台から失礼!どうも、顔本です。このルックスで受付嬢やってますっ」
冗談をかますと、髪が短い方の女子がちょこっと吹き出した。
「あ、ごめんなさい。やっぱ面白い人だなって」
「やっぱ?」
「顔本さんがさっきオジサン達叱ってたの、実は私達も見てて。なんか生徒を叱る先生みたいでおかしいよねって、みんなで話してたんです」
「ルウ」
同じ髪色をした青年が制するように口を挟んだが、先程喧嘩の仲裁に入ったツリ目男子はあえて話題を続ける。
「そうそう。松葉杖じゃなくて竹刀振り回してるみたいだよなって。今時の女性なのに古き善き時代の頑固先生って感じで、なんかジワジワきちゃって。すみませ~ん」
一応の謝罪で締め括られた後、全員から簡単な自己紹介をされた。5人共それぞれタイプが異なり、すぐに覚えられそうだ。
「お互い泉海さんの部下って感じだから、んー、部署の違う同期ってとこかな?これからよろしくね」
「あ、あのっ、大丈夫なんですか?その、まだちゃんと病院とか…」
最後に名乗った子が勇気を振り絞ったように切り出した。他の子供からも包帯や三角巾に視線が集まる。
「働いてて、大丈夫なのかなって…」
彼らの心配を拭い去るべく、年上女性は満面の笑みを自身に改めて貼り付けた。
「うんっ、平気平気!心配してくれてありがと。優しいんだね、まりんちゃん」
「へぇっ!?あ、ぁ、うぅ…」
赤縁眼鏡の女の子は返事ともとれない声を出したきり、メンバーの影に引っ込んでしまった。
「それでも、無理は禁物なんですよね?」
平気平気と言いつつも、包帯・三角巾・松葉杖の3セット備わった人間が倒れたばかりなのだ。ガイと名乗った男の子の言うことは正しい。
さほど空気を変えることができず、顔本は若干の焦りを感じた。
「確かに怪我はヤバイけど、何か頑張りたい気分っていうか、むしろ逆に清々しくて」
自分の手の平に巻かれた包帯を見つめる。
朝は綺麗でも夕方までその白色は続かない。汗やら埃やらで端から汚れていき、決まってめくれ上がる。だがこれが、精力的に活動している証拠だ。
「この怪我も、あの時あの場所に居て化け物…シビリアンだっけ?に襲われたことも、全部ぜーんぶ引っくるめて、自分の運命なのかなって……あれ?」
なるべくポジティブな言い回しを選んだつもりだったが、ただ1人を除いて微妙な顔にさせてしまった。今の発言の中に気に障る単語でもあっただろうか。
「わかる!わかります!その考え方!」
空気の読めなさそうな、というか実際読めていない故にはしゃいでいる男の子だけが目をキラキラさせ、また鼓膜に優しくない大声を放つ。
「ああ、こいつのことはマリマリって呼んでやってください。それより!俺のこと覚えてます?殺される寸前のところを俺が華麗に斬り倒したんだけど、見」
「ちょっと大介、言い方あるでしょ!」
「へ?」
「……」
顔本本人は大介の言葉選びが不謹慎かは大して気に留めず、質問された通り、当時の記憶を思い起こす方に集中していた。
最後に見たのは化け物の仮面のような顔。思わず体を震わすが、安全が確保された今となっては恐怖よりも反省の方が大きい。
あの絶望的な状況から自分がどうやって救助されたのか、誰に救助されたのか、その肝心な部分をあろうことか全く気にしていなかった。
「助けてくれてありがとう。お礼言うの遅くなってごめん。君が居なかったらあの時確実に死んでいた。命の恩人だね」
「ほら見ろ!」
大介は自身の正しさを証明した気でいるが、ガイは微塵も動揺せずむしろ呆れ返った。
「あまり甘やかすようなことは言わないでください。こいつすぐ調子乗るので」
「良いじゃんちょっとくらい。実際凄いんだから」
「ですよね!俺の活躍を認める人だって居るんだよ!」
「大介くん達がどうやって戦ってるのかも興味あるし」
「それじゃあっ、今俺」
「それはまた今度お願いね」
目を一層輝かせ乗り出そうとした子供の襟首をS.D.S.連絡係の泉海が掴んだ。
「時間がある時に存分にどうぞ。黒岩さん、みんな。そろそろ本部へ…」
黒岩署長も部屋の掛け時計に目をやる。
「そうだな。邪魔をしたな、顔本相談窓口係」
「顔本で良いっすよ、長いんで。みんないってらっしゃい、頑張って~」
狭い部屋に収まっていた客人達はぞろぞろと出ていき、顔本が携わることのない仕事へ向かう。一気に元の静かな個室に戻っていき多少の寂しさを覚えるが、笑顔を崩さず皆をベッドから見送る。
「ねえ、大介くん」
顔本は自分にとってのキーマンへ改めて呼び掛ける。部屋を最後に出るところだった無邪気なヒーローはすぐに振り向いた。
「私の次は、渋谷の人達を守ってね」
「勿論!」