ポクタル

ミッションをこなしたラチェットとクランクが戦闘機のガレージがある広間に戻って来た。

「お疲れ様、エヘェ。約束のO2マスクだヨ、ハイどーぞ!」
「…やっとだよ」

ラチェットはオーナーを軽く睨みながらも下投げされたマスクをしっかりキャッチする。手間はかかったが、この道具さえあれば水中や汚染された空気の中でも自由に行動することが出来るのだ。

彼の背から降りたクランクはビーチチェアが空っぽなことに気付き、辺りをキョロキョロ見回した。

「ねえさんが居ないッス。待ちくたびれて探索でも始めたッスね」
「ったく、ホント勝手なんだから」

ラチェットの耳がより一層垂れ下がった。

「あのお嬢さんかい?彼女なら、さっきブラーク隊と一緒にどっか行っちゃったねー」

それを聞いたラチェットは耳をピンと立て、クランクは最大まで口を開いた。

「ハァ!?」
「それは本当ッスか!?」
「気付いた時にはあの子、奴らにすっかり囲まれててねー、エヘェ。遠くから見てることしかできなかったけど……ヘヘ、ボルトがどうとか任務がどうとか、ちょっと楽しそうに話してたねー」

お気楽な男は他人事のようにすらすらと語った。それを聞いたリーダーは眉間に皺を寄せ両方の拳を強く握る。

「やっぱり騙してたんだ!オイラ達のこと!」
「そんな筈無いッス、ラチェット!」
「どうしてそう言い切れるのさ!?根拠は?こっちには目撃情報があるんだ!」

ラチェットはまくし立てながらジェット機の持ち主を指す。

「きっと何かの間違いッスよ!」
「な~んか君達ワケありっぽいし、ボクはこの辺でおさらばねー」

それだけ言い残し、唯一の証人は近くの建物にさっさと引きこもってしまった。

クランクは邪魔者がすっかり居なくなった青空を見上げて力無く呟く。

「ねえさん…心配ッス…」
「どうせ無事だろ」
「ラチェット…?」
「百歩譲って、おねーさんがオイラ達の味方だったとしても、今さっき寝返ったってことだろ。良い条件でも出されたに決まってるさ。もう行こうぜ」

心強い仲間を見限ったラチェットは、この星でのもう一つのミッションに取りかかるためクランクを置いて先に歩き出す。

「何を言うッスか!ねえさんは無理矢理連れて行かれたに違いないッスよ!どんな酷い目に遭わされているか…!」
「フン。だったら、ちょっとは痛い目見りゃ良いんだ」
「……ムムムーッ」

相棒の頑固な態度に、クランクは口をきつく結び目つきを変えた。

「ラチェットはねえさんのこと、信じてたんじゃなかったッスか!?」

その言葉にリーダーは一瞬目を見開いた。

「信じてたさ!だからこそこうして裏切られたんだろ!?」

残された二人の仲裁に入る人物など居る筈もなく、喧嘩はますますヒートアップしていく。

そんな彼らの言い争いを窓越しに覗き見る影が一つ。

「他人同士の喧嘩より、この観光地の方が大事なんだヨ」

自分自身に言い聞かせるようにオーナーは呟いた。床に飛び散ったジュースとグラスの破片を見つめながら、彼はつい数分前の出来事を思い出していた。
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