オークソン

全て話してしまった。いつぞやか、戸惑いながらクランクにした説明と同じ様に。

ラチェットとクランクの出会い。ガラメカ全種類。敵の企み。それらが、あるテレビゲームの内容と完全に一致。地球を除いてだが。

「そ、そんな事だろうと思った!」

絶対思っていないくせに。

「何で勿体ぶって隠してたのさ?オイラは教えてほしかったよ!」

やはり当然の疑問が来た。

「知ってること全部教えてくれてりゃあ、要らない苦労しなくて済んだかもしれないだろ!」
「……あんたもそうやって考える訳?」
「はぁ?」
「そうやって、私を…」

ガスパーでブラーグ達に囲まれた時の、ラッキーアイテム扱いされた不名誉な言葉を思い出した。


“まさにキーパーソンってやつだ”
“そいつは慎重に、且つ上手く利用してやらねば”


「…何でもない」
「ハ?何?聞こえないんですけど。もっとハッキリ喋ってくんない?」

気分が沈んでいく反面、ラチェットの苛々は募っていく。

「今度はだんまり?言い返す元気も無い訳?ほら、なんか言ってみろよ。いつもの減らず口はどこ行ったの?」

少し引っかかる。何故こうも彼は怒り続けているのか。上機嫌で「なんだよ~そうだったのか!これからの探索楽勝じゃん、ラッキー!」くらい言われると思っていた。

会ったばかりのラチェットならば、そうやってすぐに気持ちを切り替えられていただろう。

「教えてくれてれば、おねーさんを危険な目に遭わせずに済んだかもしれないだろ…」

いつの間にか、彼は自分以外の誰かを思いやる心を持っていた。

「おねーさんだってオイラの相棒なんだから、ひどい怪我されたり、死なれちゃやだよ。いや……死なせないって、決めてるんだ」

いつの間にかリーダーらしくなっちゃって。

「ラチェット…」
「あ、そうだ。あとさ、あの特別な携帯はどう説明つけるつもり?」
「これは…私にもわかんないよ…」

言われたものをポケットから取り出す。

「ナノテックが出るのは便利だけど、ブラーグの発明にしちゃあまだまだだよな。攻撃受けてからのラグがいまいち」
「は?まだ……疑ってんの?私があの火山ポニーテールの仲間な訳無いでしょ」
「あ~あ、今のがビッグボスドレック様の耳に入ったらマズいんじゃなぁい?」
「だから違うって!さっきの惑星では信じるって言ってくれたじゃん!」
「一応な!い、ち、お、う!」
「何それ!?」

感心する部分もあるけれど、まだまだ子供だ。

ゲームをプレイしていた頃に耳に入れた情報だが、ラチェットの年齢を人間のそれに換算すると十代前半らしい。成る程、子供真っ只中だ。

そんな子供と張り合う自分こそ子供なのだが。

「そこまで言うならあんたが持ってれば?それで文句無いでしょ!?」

今までずっと自分で持っていた携帯電話をラチェットに突き出す。

「やめろよー!よく映画にあるだろ、ミッションに失敗したエージェントの通信機が爆発するやつ」
「ハァ!?じゃあもう別に良いよ、そう思いたければそう思ってれば?」
「フン!」
「フン!」

途中まで良い感じに仲直りできていたけれど、また嫌なムードに逆戻りだ。喧嘩したって何も解決しないのに。

「……」
「……」

窓の外の汚染された空が、より一層沈んでいるように見える。

「……ラチェット」
「……おねーさん」

どちらの声も覇気が無い。

「何だよ」
「そっちから言いなよ」
「おねーさんのが早かった」
「譲る」
「オイラも譲る」
「こういうのってね、先に言っちゃった方が楽だし態度も良く見えるのよ」
「じゃあ尚更譲る」
「後から言う方はしぶしぶ反省する感じに見えちゃうから。性格悪い風に見えちゃうから。だからそっちから言いなって」
「譲るっつってんじゃん。オイラの方が大人だもん」
「……」
「……」

この世界に酷似しているゲームのことに限らず、何故か彼相手だと時々素直になれない。

「ん」

声に振り向くと、ラチェットはそっぽを向いたまま自分の手の平を上にしてこちらへ差し出している。

「何?この手は」
「携帯」
「携帯が、何…?」
「預かるっつってんの!爆発なんかしない、地球製の携帯を!」
「……はい」

大人しく渡すと、ラチェットはそれを自分のズボンのポケットに仕舞った。

彼は子供。だからこそ、確実に成長している。それが垣間見えただけで、何故だか全部許す気になってしまった。

「…ふふっ」
「今笑う雰囲気じゃないと思うんですけど」
「いやぁ、何だかんだで私等、仲良いんだなと思って」
「!?」
「さっきはキツく言ったりしてごめん…って、どうしたの?」

またそっぽを向かれてしまった。今度は全力で。

耳は思い切り立っているから、落ち込んだり気分を害したりしている訳ではなさそうだが。

「おーい」
「うるさい。今から黙るからおねーさんも黙ってて」

そう言って隣に座る私の肩に頭を乗せ、というより、乱暴にぶつけてきて目を閉じた。きっと寝たフリ。

「はいはい」

本当のことを話しても、今まで通りお喋りできる。喧嘩しても仲直りできる。一緒にうたた寝できる。いつの間にか、何だかんだで心地が良い間柄になれていた。

やっと本当の意味で副操縦席に座れていると実感できた。彼の真似をして瞼を瞑る。


おねーさん、

何か聞こえたかな。

「んー」

オイラさ、

「んー…」

適当に返事しときゃ良いだろ。
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